第119話/やるせない思い
松本梨乃.side
みのりがバスケをする姿を見て…初めて、ドラマに出れて良かったと心から思えた。オーディションに受かり、佐藤小春役をやれるからみのりの側に入れる。
今、心から実感している。
受かって良かったと。
次々と言われたシュートを決めるみのりがカッコいい。私はダンスは好きだけど運動は得な方ではない。
恋をすると好きな人が全てにおいて輝いてみえる。でも、みのりに恋をしていなくてもみのりは輝いており、きっと私がみのりに恋をしたのは必然だった。
好きにならない選択は存在しなかったと知った。そのせいで苦しい思いは何度もしたけど結局好きが勝ってまた好きになる。
周りにいるスタッフの人もみのりのバスケ力に驚き、凄い!と何度も褒めている。みのりは授業でしかバスケをしたことがないと言っていたのに…
運動神経の良さもあると思うけど、これは努力の結果だ。みのりは凄いよ。
ドラマの放送が始まったらって、まだ1話分も撮り終えてないのに不安がよぎる。
きっと、みのりのファンは確実に増える。別にファンだったら問題ないけど一番嫌なのは同じ芸能系の人達。
仕事をすればするほど知り合いが増え、出会うきっかけが生まれる。
ドラマが放送されたらカッコいいみのりを見れるのは嬉しいけど、不安が付き纏い更にイライラが募りそうだ。
みのりは自然と人を引き寄せる魅力があり、みのり自体がスキンシップが激しいから相手が勝手にみのりを意識する。
私にとって最悪の悪循環。そのせいで森川さんがみのりを意識しているように見える。
いつの間にか2人はみのり・愛と下の名前で呼ぶようになり私はショックだった。いつの間にか2人の関係が進んでいる。
カッコいいな。好き…
本番の撮影の映像をモニターで確認するみのりの横顔が一瞬で私の心を切り替える。
監督からまた褒められ、嬉しそうに笑うみのり。真剣な顔もいいけど、私はやっぱり笑顔のみのりが大好きだ。
みのりの笑顔は私の心臓を簡単に狙い撃ちし、私を虜にさせるスナイパー。
監督からOKが出て、今日のラストの撮影が終わる。だけど、早くみのりの元へ行きたいのに…なぜか足が動かない。
早くしないとみのりを取られてしまうのに棒立ちになる。
「梨乃、どうだったかな?」
「えっ…」
足が動かず焦っていたら、目の前にみのりがいて私の足がやっと重い鎖から解放される。
でも、反動で一歩前に出た私はみのりにぶつかりそうになり、咄嗟にみのりが支えてくれて「大丈夫?」って優しい言葉をくれる。
近い距離にいるみのりに自然と笑顔が出てくる。みのりから来てくれたことが嬉しくて、みのりの服を掴んだまま「良かった!」と心を込めて伝えた。
「良かったー」
「カッコよかったよ」
「本当?やった〜」
照れているみのりに抱きつきたい衝動に駆られたけど我慢をする。ここは仕事場だし、周りにはスタッフさん達が沢山いる。
それでも、少しでも触れていたい私はみのりの腕を握る。細い腕は温かくてドキドキの止まらない。
この時間がずっと続けばいいのにって願うけど、この願いは簡単に打ち砕かれる。
森川さんが横に来て、みのりに話しかけたからだ。みのりって呼び捨てで名前で呼び、私達の時間の邪魔をする。
「すっごく良かった!カッコよかった!」
「愛、ありがとうー」
2人はまだ出会って日が浅い。なのに、もう友達関係になり楽しそうに笑い合う。
そのせいで、握っているみのりの腕に力を入れてしまった。あっと気づいた時には遅く、みのりが私の方を見る。
ヤキモチを焼く私に幻滅したかなって…不安になったけどみのりが私を見つめ笑顔を見せて安心させてくれた。
ねぇ、何でそんなにもみのりは優しいの?
優しさが嬉しいのに苦しいよ…
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