第118話/My Evolution

今から最後の撮影が始まるため、私は制服から衣装のTシャツと短パンに着替え、スタイリストの人に髪を新たにセットしてもらった。

バッシュを履き、早月と同じバスケ部役の人と部活でバスケの練習をするシーンを撮る。


私はドキドキしながらボールを持っていると監督に私のバスケの実力を知りたいと言われ、みんなの前でレイアップとシュートをすることになった。


心臓が今にも爆発しそうなぐらい動き、緊張しているけどボールをバウンドさせ手に馴染ませる。息を整え…私はゴールに向かってドリブルをする。


学校の授業でしかバスケをしてこなかった。練習も2回しか出来てないから不安は残るけどやるしかない。


シュっと音がする。ボールが上手くゴールに入った。周りからは「おー」と歓声が上がり、監督からも「いいねー」と褒められた。

次はフォームを直し、沢山練習したシュート。早月はスリーポイントシュートも得意な設定だからめちゃくちゃ大変だ。


ゴールから離れた距離の位置からボールを構え狙う。足のバネをしっかり使い、コーチから教わったフォームで私が放ったボールが華麗に宙を描きゴールに吸い込まれる。

ボールが下に落ちた瞬間、周りからまた大きな歓声が出た。


「藍田さん、元バスケ部じゃないのに凄いねー」


「ありがとうございます!」


また監督に褒められ、スタッフの人が拍手をしてくれた。よっちゃんや梨乃・愛が笑顔で手を叩き喜んでくれている。


「あっ、そうだ。動画で見た1 on 1やれるかな?スタッフの中に誰かバスケ部出身の人いる〜?」


今度は監督がバスケ部出身者のスタッフを探す。手を上げた人は私と同じぐらいの身長の女性スタッフで試合をすることになった。

ブランクはあるけどみっちり3年間バスケをやっていた人に私が勝てる見込みはない。だけど…少しでも対等な試合をしなくては。


私達はコート上で対峙し、私が後攻で試合を開始する。互いに体勢を低くし、見つめ合う。やっぱり経験者は雰囲気から違う。

シューズの音が体育館に鳴り響く。一度フェイントをかけられ危うく抜かれそうになったけど上手くブロックできた。


ボールを取った私はよし!と喜び、気を引き締める。次は私の番で、1 on 1は人数が少ない分、相手を抜くのが難しい。

メンバーのアシストもないし、全て自分の力量にかかっている。私は一度目を瞑り、自分は鮎川早月だと暗示をかける。


私の青春時代は勉強ばかりだった。だからこそ、楽しいことだと力が漲ってくる。

何度もボールを取られまいとしながら動き、一瞬のタイミングを私は見逃さなかった。


ドリブルをしながら女性スタッフさんを抜き、レイアップでシュートをした。ボールがゴールに入ると、後ろから大きな歓声が聞こえてくる。


私は息を整えながら対決をしたスタッフさんにお礼を言う。監督からは大きな声で「いいね!」と喜ばれ、周りからは大きな拍手をされ嬉しいけど恥ずかしい。


「よし、撮影始めようか。丁度ウォーミングアップできただろうし、早月が部員と試合を想定した練習シーンを撮るぞ」


さっきの試合で汗をかいた私はよっちゃんの元へ向かう。タオルを渡され、飲み物を貰い、やっと休憩ができ一息ついた。

飲み物を飲んでいると、よっちゃんから嬉しそうに褒められる。何度も凄いよ!と言われ、あまりに褒めるから照れ臭い。


まずはリハーサルで、ゆっくり動きながら早月へのカメラワークを決める。カメラが私をメインで映していると分かっていると体の血が沸るような興奮と闘志が湧き上がる。

今から撮影するシーンは私(鮎川早月)の最大の見せ場だ。


実はこのシーンはラストの映像として使われることになっている。翔平、小春、凛、早月とそれぞれの放課後の過ごし方を1人ずつ映し、ラストが私が演じる早月でプレッシャーがあるけど気合いが入る。



本番のカメラがまわり、監督の声が聞こえる。私は同じバスケ部の子達と一度目を合わせ、ドリブルしながら動き出した。

私がシュートをする時、カメラが二か所から私を映す。私は早月になれているのかな…ってまだ不安だよ。でも、楽しい。


バスケが楽しくて、シュートが綺麗に入り、私は自然と笑顔が出た。部員役の子とハイタッチし、演技なのに本当にバスケ部の一員になれた気がした。


まだまだ撮影は始まったばかりだけど、あー楽しい!楽しいよ!やっと私にスポットライトが当たっている。

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