第120話/あまい果実

ラストの撮影が終わり、私達は衣装部屋に戻り帰る準備をする。制服から私服に着替え終わり、初めての撮影を終えた私は脱力感と充実感で満たされていた。

最初は不安だったけど、演技やバスケを監督に褒められ、鮎川早月という人気キャラを演じる重圧が少しだけ軽くなる。


髪を結んでいたゴムを外し、私はいつものように帽子を被り、机の上を片付けていると愛が横からジロジロと私を見てくる。

愛の方を向き、どうしたの?と声を掛けると愛に「帽子を被るとますます早月に見えるね」と言われた。


確かに早月は私と同じ帽子が好きなキャラだ。キャップやハットが好きで、早月と私の共通点は多い。

食べ物はハンバーグが好きで…ってやっぱり普通かな。帽子とハンバーグ好きな人なんて沢山いる。


「みのりってボーイッシュな格好も似合うし、女の子っぽい格好も似合うからいいな。私はボーイッシュな格好があんまり似合わないから」


「そうかな?愛も似合うと思うよ」


私の今日の格好は黒のキャップに大きめのセータとロングスカートにダウンジャケット。冬対策の完全防備の服装である。

そんな私とは対照的な服が愛と梨乃で女の子らしい格好でよく似合っている。


「ありがとう。ふふ、みのりってやっぱりいいな」


愛が急に不思議なことを言う。どういう意味?って聞きたかったけど、よっちゃんが迎えにきて話が中断する。

私は自前のバスケットボールを鞄に入れ、移動しながら暗くなった空を見つめる。1日がこんなにも早く進むなんて初めてだ。


明日もドラマの撮影で、楽しい1日が始まる。大嫌いな冬が楽しいなんて凄い。

寒いのが嫌いで起きるのがしんどかった朝の苦痛がなくなった。だけど、梨乃と私が一緒の撮影日ではない日が心配だ。


ずっと、梨乃が不安そうな顔をしていたし、愛とまだ仲良くなれていない。

愛が一緒にいると人見知りを発動する梨乃は不安からか私の腕を掴んでくる。私は大丈夫だよって意味を込めて梨乃の手を触る。


今日の食事で愛と梨乃が仲良くなれたらと思っている。人見知りを無理に治す必要はないけど、愛と梨乃には仲良くなってほしかった。


「みのり、今日はハンバーグを食べに行くの?」


「うん。出来ればだけど」


「みのりはハンバーグが好きなの?」


「大好き!」


愛の質問に私はつい興奮しながら答えた。今日は沢山動き、お腹が空いている。出来れば大好きなハンバーグが食べたいけど愛がハンバーグが苦手だったり、体重管理で食べれないとなると違うものを考えないといけない。


でも、そんな私の心配は杞憂に終わる。愛もハンバーグが好きだと言ってくれた。

みんなでよっちゃんの運転する車に乗り込み、私と美沙がよく行くお店に向かう。私はここのお店のハンバーグが大好きだった。


お店に向かうまでの車中、私と愛の会話ばかりで梨乃がなかなか話せなかったけど梨乃が私の腕を掴んでないから多分大丈夫。


お店に着き、私達はよっちゃんにお礼を言う。帰りは電車で帰るからあんまり遅くまで食事をすることは出来ない私達は早速お店に入り、私と梨乃、反対の席に愛が座りメニューを開く。目の前には私の大好物のハンバーグの写真が沢山あり幸せだ。


3人で話しながら注文をし来るのを待つ間、愛が梨乃に話しかけると緊張感が走ったけど普通に会話が成立している。


あっという間の1時間。大好きなデミグラスソースがかかったハンバーグを食べ、愛と更に仲良くなれ満足感が凄い。

最後に外でみんなで写真を撮り、3人の初めての思い出を作った。





森川愛.side


楽しい

楽しいね

2人を観察するのに最高の座り位置で、私はワクワクしながら食事をした。


みのりと松本さんの関係は本当に不思議で、恋人同士のような距離感と仲の良さが私をワクワクさせ楽しませる。

私は常に傍観者だ。だからこそ、視聴者みたいで楽しく観察できる。


私が2人の中に入るのはNGであり、久保田凛と同じかき回す人になりたい。


2人の関係性は青春ドラマを見ているようだ。2人とも可愛いくて、何より対照的だからこそ互いの魅力を爆発する。みのりの彼氏感が凄いし、松本さんの彼女感も凄い。


みのりは常に松本さんをサポートし、松本さんは可愛い彼女の如く嬉しそうに笑う。そして、自然に触れる肌の触れ合い。

食事が終わったあと松本さんがみのりの口元をナプキンで拭く姿に悶えてしまった。


甘すぎる空間と激甘な関係性。こんな蜂蜜を脳に大量にぶっかけられた気分になる空間にいる私は糖分過多で倒れるかもしれない。


あー、楽しい!!!

2人のドラマが楽しい!

もっと私を楽しませて、溶かして欲しい

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