第82話/Get My Shinin
オーディションを受けた2日後、私と梨乃はレッスン場で振り付けを考えていた。
こうした方がいいかな?など話し合い、振り付けを考えているとドアが勢いよく開き、興奮気味のよっちゃんが入ってきた。
「みのり!」
「えっ、よっちゃん。どうしたの?」
「やったよ!さっきね、電話が来て鮎川早月役、みのりに決まった!」
「うそ…」
受かりたい。ずっと本気でそう思っていた。でも、演技経験もないし、一緒にオーディションを受けていた人の中には今売り出し中の若手女優の子もいた。
だから、受かりたいって気持ちはあったけど無理かもって気持ちが強かった。
やった!
やったよ…
やっと、私もチャンスを掴んだ…
涙が自然と出てくる
人前で泣くの嫌いなのに…涙が止まらない
「みのり!おめでとうー!」
「梨乃…ありがとう」
私に抱きつきながらおめでとうと言ってくれる梨乃を私も抱きしめ返す。めちゃくちゃ嬉しい。やっと梨乃に追いつけた。
私の肩が濡れていくのが分かる。きっと梨乃が私のために泣いてくれている。
私も涙が止まらない。四番手の私が四番手の役を勝ち取った。この四番手はとても大事な四番手でずっとこの四番手が欲しかった。
「みのり…良かった」
「よっちゃん、ありがとう…」
よっちゃんも泣いている。号泣に近い泣き方で、私のために泣いてくれるよっちゃんがマネージャーで良かったと心から思えた。
「ここからだよ!みんな、頑張ろうね!」
よっちゃんの言葉に私と梨乃は大きな声で「頑張る!」と宣誓し、一気に広がった明るい未来に胸を躍らせる。
ずっと暗い地下が嫌で、地上に這い上がりたくて、でもなかなか上がれなくて真っ暗な道を歩くずっと苦しい1年だった。
やっと私の心にずっとあった靄が消える。私はこの1年悲観的で、私なんてって言葉が何度も繰り返し頭に過っていた。
そんな私がやっとチャンスを掴み、私の目の前は明るい。やっとね、堂々とCLOVERの藍田みのりって言えるよ。
「えっとね、今度キャストの顔合わせがあるから。その後、衣装のサイズ測りと本読みがあって…うん!これから忙しくなるよー!」
私は笑顔で頷き、これから行われていく過程に胸を躍らす。まだデビューシングルのMV撮影が終わってないし、振り付けも出来てないから頑張らないと。
「あっ、そうだ。みんなに言わないといけないことがあって。美香と由香里はいないけど2人に先に言っておくね。私、CLOVERの専属マネージャーになったから。これからもよろしくね!全力で頑張るから」
「やった!嬉しい!」
「やったね、みのり!よっちゃん、ありがとうー」
強い味方が私達の側にずっといてくれることになり、私と梨乃は飛び跳ねながら喜んだ。よっちゃんがいれば百人力だ。
「これから雑誌の撮影とかもバンバン入るし、大きな歌番組にもきっと出ることになるから忙しくなるよ。あっ、まだ知り合いなどにドラマのこと話しちゃダメだからね。キャストの情報が解禁するまで内緒ね」
私は笑顔でよっちゃんにもちろん!と返事をする。梨乃も笑顔で大きく頷き「大丈夫」と返事をした。
「後ね、私生活で問題を起こさないように。まぁ、大丈夫だとは思うけど、、一応ね」
「大丈夫だよー」
「私も…大丈夫」
私は既に過去を精算している。ただ、由香里の件があるから気をつけないといけない。
後はSNSだけど学生の頃はやってなかったし消さないといけないデータなどはない。
それにしても隣にいる梨乃が気になる。よっちゃんへの返事の言い方が気になった。
恋人はいないと思うけど好きな人がやっぱりいて、恋を諦めるかどうか葛藤しているのかもしれない。
梨乃が気になってつい見ていると、梨乃が私の視線に気づき「どうしたの?」と普通の表情で言ってくるから気のせいみたいだ。
「振り付け頑張ってね。これから忙しくなるからテキパキと仕事をやっていくよ」
私と梨乃は「頑張るね」と言い、よっちゃんがウキウキした足取りで部屋から出ていったのを見て早速振り付けに取り掛かった。
努力なんて報われるなんて分からないけど、努力しないと結果は出ない。初めて諦めなくて良かったと思えたよ。
吉田夏樹.side
CLOVERはビッグチャンスを掴んだ。人気男性アイドルと人気若手女優が出るドラマに2人も出演する。
それも、梨乃はヒロイン役でみのりはヒロイン役と同じぐらい人気のキャラ。
これはかなりのビッグチャンスだ。社長も喜び、CLOVERを事務所のメインとして売り出していくことを決めた。
キャストの顔合わせと衣装合わせ、番宣用の写真を撮り終わったらドラマの発表とキャストが大々的に発表される。
主役の高橋君は人気アイドルだから、こぞって色んな番組や新聞が取り上げるだろう。
そして、今年メジャーデビューするアイドルでまだ無名の女の子がヒロインを演じる…
この謳い文句はキャッチーできっと色んな人が梨乃のことを検索するだろう。そして、主人公より三番手より人気のキャラを同グループのメンバーが演じるとなったらCLOVERの注目は恐ろしいぐらい集まり…
ふふふ
笑いが止まらない。ドアを背にし何度も胸の前でガッツポーズをし喜びを表す。
田中さん…ありがとう。
オーディションに受かったのは2人の実力だけどキッカケをくれたのは田中さんだ。
田中さんが梨乃を推薦してくれなかったら、オーディションのチャンスさえなかった。
みのりのファンの田中さんが人気漫画家の奏多みどり先生だったなんて。ある意味奇跡でやっぱりCLOVERは金の卵だ。
まだ無名なのにこんな凄い人をファンにし、チャンスを掴み、チャンスをものにした。
これで人気アイドルへのレールは引かれた。後はこのレールの上を走り出すだけ。
夢が走り出す…
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