第81話/窓際のFlower
私はステージの上では基本、梨乃に抱きついたりすることがない。理由は自分の中でステージは仕事場だと線引きをしているからだ。
でも、梨乃にキス(頬に)をされ、ファンの異様な盛り上がり方に驚いた。
ライブ後に私はSNSに梨乃とのツーショットを投稿し、みのりのの需要を再認識する。
ファンからみのりの大好き!と沢山のコメントが来ており、お似合いのカップル!など書かれているのを見て苦笑いする。
私と梨乃が付き合うなんてあり得ないし、同性のメンバー同士の恋愛なんて幻想だ。
稀にいるかもしれないけど、お似合いのカップルとか言われていたアイドルは卒業後、大抵異性と交際が発覚し結婚している。
だからこそ、アイドルの期間は私達も偽りの夢を与え続けないといけない。
需要と供給としてアイドルとファンが互いにWin-Winの関係でいられるように。
衣装から私服に着替え、みんな帰ろうとすると梨乃がよっちゃんに話があると言われ居残りになった。
もしかしたら、キスのことで怒られるのではと思ったけど、よっちゃんが先回りをし心配する私にお説教じゃないよと言う。
梨乃は渋々、居残りをするため椅子に座り私達は梨乃に手を振り楽屋から出ていった。
それにしても腕が重い。両腕に重みがあるため傾くことはないけど歩きにくい。
今日の美香と由香里はどうしたのだろう?甘え方がいつもと違う気がする。
「美香、由香里、歩きにくいよ」
「いいじゃん!」
「えっ、美香?どうしたの…」
「別に…」
いつもニコニコしている美香が珍しく怒っている。あきら君が来た時も怒っていたけど、私に対して言葉が荒くなるのは久しぶりだ。
美香の反抗期の時は大変だった。いつも怒って拗ねて、美香自身も何に怒り拗ねているのか分かってない感じだった。
私は怒るのが苦手だ。叱るのも苦手だし、あの時は早く反抗期が終わらないかなってずっと思っていた。
今回はどうなのだろう?拗ねている感じはあるけど、自分の態度に対して眉毛を下げ落ち込んでる風にも感じる。
「美香」
「ごめんって…」
「何かあったの?」
「りっちゃんにみーちゃんを取られた気がしたから…」
「私が梨乃に?」
「だって、仲がいいし…いつも隣同士にいるからずるい」
「そんなの前からじゃん」
結成当時から私と梨乃、美香と由香里とみんな仲は良いけどペアとして別れることが多く私は梨乃と話すことが多かった。
常にテンションが高い美香と由香里に合わせるのは大変で、大人しい梨乃が私にとって楽だったし、何より同い年ってのが大きい。
「ねぇ、みーちゃん!メンバーで恋人にするなら誰!」
「はぁ?由香里までなに言ってるの…」
「早く答えて!」
真剣な目で突然変な質問をする由香里に圧倒されて、私は即答で梨乃と答えた。
年下の美香と由香里は付き合ったら大変そうだし、私はインドア派でデートの度に外を連れ回されるなんて絶対に嫌だ。
「負けたー」
「ゆーちゃん、帰ろう!みーちゃんの馬鹿!馬鹿野郎ー」
急に拗ねて怒って、私を置いてきぼりにして2人で帰っていく年下組の2人。一体、何をしたかったのかと思いながら呆然とする。
でも、突然背中に誰かが抱きついてきて匂いで梨乃だと分かった私は梨乃?と言うと嬉しそうな笑い声が聞こえてきた。
「よっちゃんとの話、終わったの?」
「うん」
後ろから甘えるように抱きついたままの梨乃。私は身動きが取れず、そのまま会話を続けていると梨乃に「嬉しいな」と言われ、私の頭に?マークが浮かぶ。
「えっ?」
「帰ろう」
「あっ、うん」
今日は梨乃から手を繋がれた。最近、梨乃と手を繋ぐことが増えたなと思いつつ、私も梨乃の手を握り返す。
ふと、梨乃と出会った時のことを思い出す。梨乃の第一印象は暗い子で言葉は悪いけど教室の隅にいる子のイメージだった。
でも、顔を見ると可愛くて下を向く癖があるのが勿体無いと思っていた。
もう頃の梨乃はいない。上を向き、化粧を覚えた今の梨乃はめちゃくちゃ可愛い。
女の子の成長って凄いなって改めて思う。一番垢抜けたのは梨乃だ。
「梨乃って本当、可愛くなったよね」
「えっ…そうかな」
「化粧を覚えて更にパワーアップした感じ」
「最近ね、お化粧とか頑張って勉強してるんだ。いつか、髪色も明るくしたいなって思ってて」
「梨乃は黒髪の方が似合うイメージだな。あっ、別に茶髪が似合わないとかじゃなくて私が黒髪の梨乃が好きって意味で」
「じゃ、黒髪のままでいる」
「いや、きっと茶髪も似合うと思うから…」
「いいの。私も黒髪の方が楽だし」
つい余計なことを言ってしまった。でも、嬉しそうに髪を触っているから大丈夫かな?
梨乃は笑顔が可愛くて羨ましい。私は笑顔を作るのが苦手でアイドルとして致命的な欠点を持っている。
プライベートな時だったら普通に笑えるけど、カメラを前にすると顔が引き攣ってしまう。
きっと上手く笑えないからファンからクールなタイプとか言われるのかな?根は面倒くさがりで全然クールじゃないのに。
でも、私の性格とは正反対の見た目のキャラが上手く作用する時もある。
人生って不思議だ。私と梨乃の急展開する人生がもうすぐ始まろうとする。
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