第83話/いくつかの空
私と梨乃は張り切って、振り付けを考え最後まで作り切った。後は、美香と由香里に教えるだけになり安心する。
やっと終わった振り付けの作業に力が抜け、床に大の字になり目を瞑る。
「うぉ」
「へへ」
床に大の字で寝ている私のお腹の下の部分に乗っかってきた梨乃。痛くもないし、苦しくもないけどいきなり仰向けになっている私の上に乗るから驚いた。
「ここで寝たら風邪ひくよ」
「梨乃が上に乗ってるから動けない」
「確かに」
笑顔で「確かに」と言う梨乃は悪戯っ子で、降りる気がなく言葉とは裏腹なことをする。
「梨乃、私ね…やっと明日が待ち遠しいって思えるようになったよ。ずっと時間だけが進んでいくことが怖くて嫌だった」
「そうだね。私も一度辞めようとしたし」
「あっ、そうだった。私に感謝してね」
「感謝してるよ。今が最高だもん」
あの時、梨乃を止めることができてよかった。きっと梨乃がいなければ今回のチャンスは掴めてないと思う。
「くしゅん」
「えっ、大丈夫。寒いの?」
「汗が冷えてきたみたい」
「ごめん…早く帰ろう」
汗が冷えて寒さでくしゃみをした私に申し訳なさそうな顔をし、慌てて私の上から降りる梨乃。私は起き上がり、梨乃の手を掴んだ。
梨乃の手が温かい。心が温かいと人の温もりをちゃんと感じれるようになる。
やっと、私は少しだけ梨乃に追いついた。でも、まだ梨乃が前を走っている。
これからだ。もっと頑張らないと梨乃に追いつけない。すぐに離されてしまう。
梨乃と手を繋いだまま立ち上がり、帰ろうと言うと梨乃が笑顔で「うん」と言い、私の手を強く握る。
私達は切磋琢磨できる最強の相棒同士。梨乃がいるから私は飛躍できる。
私は家に帰った後、いつもの勉強を休み、一字一句集中して「彼女はちょっと変わっている」を読み返す。細かい箇所まで読み返し、気づいたことがあった。
鮎川早月の身長が私と一緒だ。偶然だと分かっているけど嬉しくなる。それに、寒がりで帽子が好きで私と似ている。
共通点が多いキャラだからこそ、ちゃんと演じないとなって力が漲ってきた。
ヒロインの佐藤小春と鮎川早月はきっと主人公がいなかったら仲良くなっていない。
2人の縁を繋げたのは主人公だけど、根本的な縁はアイドル。私も梨乃もアイドルが好きで、アイドルになりたくて出会った。
私と梨乃、早月と小春
きっと、ドラマは上手くいくはずと願う。『みのりの』と『あゆはる』を広めてやると勝手に誓った。私は上に行きたい。
あと、早く美沙に報告したいな。きっと、美沙は誰よりも喜んでくれるはずだ。
髪を切ってから会えていないし、美沙とこんなにも会えない期間は初めてだった。
出会ってから、常に私の横にいた美沙。私がアイドルで美沙が大学生ってのもあるけど、仕事で会えない時間が寂しい。
本を閉じ、携帯で美沙との写真を見る。ネックレスを触りながら、変わっていく未来に少しだけ不安を募らせる。
ずっと、変わらない明日が怖かった。でも、急に変わりすぎる未来が怖くもある。
変わってほしくないものまでも変わりそうで、これが幸せな代償だと言われたら嫌だ。
仕事も友達も同じぐらい大事だから。
アイドルじゃない私はあり得なくて…
美沙が隣にいない人生なんて無理で…
欲張りになってしまった。でも、人は一度、幸せを手に入れると欲張りになる。
マイナスになることを嫌がり、失うことを怖がる。今の私がそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます