第78話/ピンクモンスター
松本梨乃.side
ライブハウスの楽屋でみんながオーディションから帰ってくるのを落ち着きなく待つ。1人しかいない部屋は静かで寂しくて、早くみんなに会いたかった。
私はみんなに出会ってから寂しがりやになった。孤独を知っているからこそ…
それに早くオーディションがどんな感じだったか知りたい。昨日は夜空を見ながらみのりが受かりますようにと星に願った。
椅子に座っていても落ち着きがなく、携帯を握りしめながらみのりからの電話を待っていると私の携帯が手の中で揺れる。
携帯を急いで耳元に持っていくと大好きなみのりが声が聞こえてきて幸せだ。
「みのり!」
「梨乃、オーディション終わったよ」
「お疲れ様!」
「今ね、みんなでご飯を食べてるんだ。あと、30分ぐらいでそっちに行くから」
「分かった。待ってるね」
みのりの声色が明るく、もし落ち込んでいたらと思っていたから良かった。ホッとして胸を撫で下ろしていると、携帯から美香と由香里が騒いでいるのが聞こえてきた。
2人のはしゃぎぶりに元気だなって笑っていると、みのりが2人を叱っている。
まだお店の中にいるらしく、シュンとしながらごめん…って謝る2人の姿が目に浮かぶ。
みのりが「じゃ、また後でね」と電話を切り、私はやっと椅子に深く座ることが出来た。恋をすると色んな感情に振り回されるけど嬉しいことがあると気持ちが充実する。
生まれて初めての恋は私の生きる活力で、私の中の一番が簡単に塗り替えられいく。そして、みのりが好きすぎて衝動が抑えきれなり、引っ付いていたくて甘えん坊になった。
みのりの声を聞いていた耳が温かい。私は幸せの余韻に浸っている。
人生は出会いによって変わる。虐めにあったせいで人間嫌いになりかけ、人と極力関わりたくないと思っていた私の心にみのりは簡単に入ってきた。
みのりの優しさに触れ、心の鎖が雪解けのように消え…私を変えてくれた。
藍田みのり.side
よっちゃんがレジで支払いをしている間、由香里と美香がニヤニヤと笑っている。何だろうと2人の視線の先を見てみると、2人の女子高生が手を繋いで歩いていた。
そして、いきなり美香が私の手を取り手を繋ぐ。恋人握りをし、美香が私を見ながらへへとニヤけた笑い方をする。
「美香、ずるいー!」
「邪魔しないでー」
手を繋いでいる私と美香を見た由香里が突然美香の腕を掴み引っ張るから、手を繋いでいる私まで体が動き揺れる。
「ちょっと、、どうしたの?」
お会計が終わったよっちゃんが揉めている美香と由香里に対して仲裁に入ってくれた。
私は急に体を揺らされ、さっき食べた物が胃でシェイクされ逆流しそうだ。
「ほら、2人ともみのりから離れて」
「やだー」
美香と由香里が駄々をこねる。よっちゃんは2人の態度に困り顔をし、私は2人から引っ張られる腕が痛くて仕方ない。
「2人とも、どうしたの…」
「えっ?ふふ」
私の言葉に美香が照れたように笑い、なぜかもじもじしている。由香里は拗ねたような表情をし、私に腕組みをしてきた。
「ほら、みんな行くよ」
よっちゃんが呆れながら、みんなを促し歩き始める。私も歩きたいけど2人に挟まれ、手と腕を掴まれ動きずらい。
「2人とも離して」
「えー」
「えーじゃないから」
駄々をこねてえーと拗ねる美香との手を離そうとすると「やだ、やだ」とまた駄々をこね小さな子供みたいに態度を取ってきた。
「こら、美香、由香里!みのりから離れなさい。みのりが困ってるでしょ」
よっちゃんが2人を叱ってくれてやっと私の体が自由になった。2人は一体何がしたかったのか分からず、、よっちゃんは分かっているのかため息を吐き、小さな声で「梨乃だけでも大変なのに…」と嘆いている。
吉田夏樹.side
何かを大成するためにはある程度犠牲も必要で、アイドルの職業を選んだ時点で覚悟して欲しいといつも思っている。
だからといってメンバー間で、その我慢しているものを発散するはやめて欲しい。
美香や由香里は恋をしたい年頃だとは分かっているけど安易すぎる。みのりは優しいし、何より包容力があるから分かるけど…
みのりは同性にも惹かれる対象なのかもしれない。それでも、恋愛禁止だからといってメンバーに対し恋愛ごっこは困る。
梨乃は本気だから止めようがない。でも、美香や由香里は本気じゃないよね?
みのりもスキンシップが激しいし、距離感バカだから困りもので、梨乃がみのりに対して本気になったのもみのりが手を繋いだり、抱きついたりするからだ。
もしかしたら…
一番の問題児はみのりなのかもしれない。
何をされても表情が変わらないみのり。なぜ、いつも表情が変わらないのだろう?
私は友達と手を繋いだりとかはしない。抱きつくとか論外だ。でも、みのりは平気でやってしまう。きっと普通の行為なのだろう。
みのりが悩ましい。よく私にも抱きつくし、甘えてくる。彼氏感、彼女感満載のみのりは本人が意図をせず相手を本気にさせる恋のモンスターで、周りを狂わす。
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