第61話/回り始める未来
吉田夏樹.side
私は天に祈る気持ちで、梨乃が帰ってくるのを待つ。もし、梨乃がヒロイン役を勝ち取ったらCLOVERは良いスタートが切れる。
そして、この作品で女優としての名前を売り、アイドルと女優を両立させる。
上手くいけば他のメンバーもドラマなどのオーディションが来るかもしれない。
だからこそ、何としてもヒロイン役を勝ち取りたい。でも、人気漫画が原作の実写化だからライバルが多すぎる。
梨乃と一緒に呼ばれた女の子は大手事務所の人気女優の森川愛ちゃんだったし、他もこれからって子がうじゃうじゃいる。
梨乃は強敵であるこの子達に勝たないといけない。でも、演技経験も注目度も違う。
ここでマネージャーである私が悲観してはいけない!それに、原作者の奏多みどり先生の推薦でオーディションに呼ばれている。
もしかしたら、梨乃には奏多先生からのプッシュがあるかもしれない。
CLOVERは発展途上の地下アイドルだ。そんな地下で日々頑張っている松本梨乃を奏多先生は見つけてくれた。
でも、どこで奏多先生が梨乃を見つけたかはまだ分からない。一番あり得るのはライブで…やっぱり、梨乃のファンだろうか?
梨乃のファンの中に漫画家らしき人がいるか考えたけど無理だった。性別が分からないと見当がつかないし、そもそも梨乃のファンなのかも分からない。
でも、もし梨乃のファンだったら…きっとチャンスはある。だって、先生のお墨付きだ。
きっと、きっと…
お願いします!
念願のメジャーデビューするあの子達に最大のプッシュを下さい。
私の夢を叶えさせて下さい。
「よっちゃん」
「えっ?あっ!終わったの⁉︎」
「うん、終わったよ」
天を仰ぎながら神様に祈っていると、いつの間にか目の前には梨乃が隣におり、いつも通りの態度で私に声を掛けてきた。
初めてのオーディションなのにドキドキしたーとか落ち込んだりとか、何かしらのアクションがなく梨乃は何も変わらない。
もしかしたら、CLOVERで一番度胸があるのは梨乃なのかもしれない。アイドル・若手女優の子達が喉から手が出るほど欲しがる役のオーディションなのに嬉しがらないし、疲れたから早く帰りたいと私にせがんでくる。
「オーディション、どうだったの?」
「どうって…」
「上手くいったとか、失敗したとかないの?」
「分かんないよ…演技、初めてだし」
「そっか、、」
これは結果を待つしかなさそうだ。梨乃は手応えとか感じてなさそうだし、本気で女優の仕事に対して興味がないって分かる。
でも、梨乃は絶対女優向きで…もっと真摯に演技の仕事に向き合ってくれたら、私も頑張るのに勿体なさすぎる。
「帰ろうか」
「うん!」
ずっと疲れたを連呼し、仏頂面だった梨乃が帰ろうかと言うと笑顔で返事をし、私は笑いが込み上げてきた。
梨乃は漫画のヒロインのようにちょっと変わっている。寧ろ、そのまんまだ。
もし、今回がダメでも梨乃には色々な演技のオーディションを受けさせたい。これがマネージャーとしての私の仕事だ。
梨乃はきっと嫌がるけど、私は私の勘を信じる。きっと、梨乃は女優として大成すると。
松本梨乃.side
やっと苦痛だったオーディションが終わり、私の心は楽になる。早く帰りたくて、よっちゃんを急かしていると森川さんが私を見ていることに気づく。
なぜ、私を見るのだろうと思うけど、人見知りの私は怖くて目を合わせられない。
「梨乃、帰りに何か食べて帰る?私が奢ってあげるよ」
「本当?やったー」
今日はオーディションが嫌すぎて、朝ご飯を食べる気がしなかった。やっと嫌なものから解放され、お腹が空いてきて何がいいかなって考えていると、森川さんとマネージャーらしき人との会話が聞こえてくる。
「どうだった?」
「落ちたと思う…」
「マジか…」
「きっと、あの子が受かるよ」
あの子とは誰のことだろう?でも、会話を盗み聞きしたと思われたら嫌だし、気にはなるけど聞かなかったふりをする。
早く帰りたい私はよっちゃんの背中を押し、控え室を後にする。やっと、穏やかで爽やかな空気を吸えた。
みのりは今…何をしているかな?
明日、会えるけど毎日会いたい。
恋をしている私はみのりに会えないと禁断症状が出そうなぐらい苦しくなる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます