第50話/Lotus Love
谷口美沙.side
電話でみのりに急に謝られ、行けなくなったと聞いて少しだけムカついたけど、朝…必ず行くからと言われたら私は何も言えなくなる。
みのりは申し訳なさそうにしていたし、私の親のことも気にしていた。
だから、悪気があったわけではないと分かっているからこそ受け入れるしかなかった。
でも、こうやってドタキャンをされると心が痛むし悲しい。みのりと私の優先順位が違うと分かってしまうから。
携帯をベッドに放り投げ、仰向けに寝っ転がり、天井を見つめながら虚無感に襲われる。
こんな気持ち久しぶりだ。みのりはアイドルになってからアイドルを中心とした生活に変わり、バイトとアイドルの仕事ばかりで大学生の私と会う時間が減った。
でも、あんまり気にしなかった。電話はしていたし、みのりと私は一番の親友だ。
あっ、そう言えばこんな風に約束を破られた事があったな。あの時も突然みのりから電話が来て…キツかったな。
高二の夏…
私はみのりと夏祭りに行く約束をしていた。互いに浴衣を着て楽しもうねと約束していたのに、みのりは当日にキャンセルしてきた。
私がみのりと前々から約束をしていたのに、みのりは私以外の人を選んだ。
今、思い出してもムカつく。お母さんに浴衣を着せてもらい、あとは髪のセットとお化粧をしたら準備万端だったのに、みのりからの電話で落胆して。
せめて、風邪を引いたとかだったら素直に受け入れられたけど今回と同じだったから。
〈友達を放っておけない…〉
みのりは私のことは放っておくのにクラスメイトの綾香の元に行ってしまった。
久しぶりに…クラスメイトの桜井綾香のことを思い出した。綾香は大人しめな子で、私とは対照的な子だった。
雰囲気は…松本梨乃ちゃんみたいな子で、綾香は私とみのりとは違うグループにいたけど、2人は仲が良かった。
みのりが綾香と同じ小説家が好きで意気投合して…私は雑誌や漫画しか読まないから2人の会話に入れなくて凄く不満だった。
別に綾香が嫌いなわけじゃない。タイミングの問題で楽しみだった事を壊されたから。
それに私は綾香のみのりへの気持ちに気づいていた。でも、みのりは相変わらず鈍感で何一つ気づいてなかったけど。
みのりは誰にでも優しい。クラスでも憧れの的だったし、だからこそ、閉鎖的な空間で本気で恋をしてしまう人もいる。
綾香はみのりのことを本気で好きだったと思う。みのりを見つめる瞳が熱かったから。
だけど、みのりを好きになる人はみんな苦労する。綾香もみのりの元彼も。私から見てもみのりは恋愛不適合者だから【愛】がない。
それでも惹かれてしまうのが恋だけど、相手がみのりだと傷ついて終わるパターンが多い。
綾香はみのりに振られた。学校が始まってからみのりと綾香が話さなくなったから当たっていると思う。
みのりは…本当、ダメな子だよ。自分がモンスターだと分かっていない。
【恋のモンスター】
みんな、みのりの優しさを独り占めしたくて玉砕する。そんなの無理なのにね。
口癖も手癖も悪いみのりはいつも誰かを密かに傷つけ、悲しい想いをさせている。
でも、これは相手も悪い。みのりがそんな子だと理解していないから。
私は優しいみのりも好きだけど、ダメなみのりも大好きだ。母性本能が疼くから。
そして、私がダメな子ほどみのりは私から離れない。優しくて心配性だから。
ダメな子×ダメな子=依存(共存)する
そういえば、みのりが言っていたな。アイドルの世界は女子校に似ていると。
閉鎖的で窮屈な空間で、ファンも狭い空間でしか物事を見ようとしないって。
だから、アイドルもファンも雁字搦めにされアイドルは反動で過ちを犯し、ファンは狭い空間のみの中で楽しみを見つける。
アイドルとファンは相容れない関係で、窮屈な空間の楽しみ方が正反対なのだと。
こんな風に分析するのみのりらしいよね。みのりもアイドルなのに客観的で、なのに…何でみのりはダメな子なんだろう?
みのりは客観的に色んな物事をみるのに、自分のことだけ見れていない。
全てを受け入れ、抵抗せず、優しくするから相手が勘違いするのだと分かっていないのだ。
もしかして、松本梨乃ちゃんもみのりの毒牙にかかってしまったのかな?
綾香と松本梨乃ちゃんの雰囲気が似ているからそんな風に思うのかもしれないけど…
みのりの優しさは毒だ。
毒に触れ続けるほど…中毒者になる。
私みたいにみのり無しでは生きれなくなる。
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