第51話/Black Shout

梨乃の家に着き、寒がりの私は梨乃にお風呂を促され素直に入ることにした。

温かい湯船に浸かり、あの日の…記憶を思い出す。これで、美沙の約束を破ったのは二度目で、いつも正解が分からない。


私が高校を卒業して遊ぶのはメンバー以外では美沙だけで、美沙しか親友がいない。

高校2年の夏、私は親友を1人失った。生まれて初めての同性からの告白が理由で。


由香里には同性から告白されたことがないと言ったけど…綾香のことを根掘り葉掘り聞かれるのが嫌で嘘をついた。

それに綾香のことを思い出すと辛い。私は綾香を傷つけたし、酷いことを言った。



綾香は…梨乃と一緒で大人しいタイプの子だ。だからこそ、突然の綾香からの告白とキスに驚き、私は綾香を突き放した。

別に綾香に対して嫌悪感とはない。ただ…嫌な記憶を思い出してパニックになった。


あの状況とは違うのにな。美沙からキスをされた時は平気だったのに、何が違うのかな?私には分かんないよ。

そもそも、私のどこがいいの?綾香も馬鹿だよ…何で私なんかを好きになったの?


「やめて…」


きっと、この言葉は綾香を傷つけた。綾香のショックを受けた顔を思い出すと苦しい。

ダメな私は綾香を遠ざけた。でも、私は自分に向けられる好意が苦手なんだ。

あの顔を思い出すから…あの匂いを、、





お風呂から上がり、髪を乾かしたあと梨乃の部屋に行くと梨乃は私が部屋に入るなり笑顔で私を呼び寄せる。

明るい声で名前を呼ばれ、ベッドの上に座っている梨乃の隣に座ると腕を組まれた。


梨乃が元気になってよかった。時々、梨乃に綾香の面影が被る時がある。

私は綾香を失ってからずっと後悔をした。綾香からの想いは答えられなくても…何か方法はあったのではないかと。


でも、私と綾香は元には戻らなかった。綾香は私を避け、私も声を掛けられなかった。

綾香と梨乃は全くの別人なのに…分かっていても、梨乃を1人にしてはいけないと思ったから美沙との約束をまた破った。


梨乃が楽しそうに話し、私は相槌を打ちながら…梨乃と被る綾香を打ち消す。

そう言えば、梨乃は何に怒っていたのかな?普段、温厚な梨乃が怒るなんて何かがあった証拠だけど梨乃は何も話してくれない。


私は相手の中に踏み込むのだ苦手だ。諦め癖もあり、考えることから逃げてしまう。

梨乃が自ら話さないならきっと、踏み込まれたくないという意思だし、私も土足で無理やり上がることをしたくない。



私は自己都合主義者で何も出来ない臆病者だ。そうやって誤魔化してきた。

梨乃はアイドルに出会い…昔の自分から抜け出そうと頑張った。私は変われるのかな?嫌な記憶から抜け出せる?


私の中の真っ黒な渦が、ドス黒い闇がいつまでも消えない。思い出すだけで…


「みのり、どうしたの?」


「えっ、何で?」


「眉間に皺が寄ってる…」


無感情になることによって私は今まで自分を保ってきた。でも、まだ完全ではない。

慌てて「何でもないよ」と言い、誤魔化す。梨乃に心配をかけたくなかった。


過去は断ち切れない。断ち切れないなら忘れるしかない。それに、梨乃は過去の自分から脱却し強くなろうとしている。

私は…過去を捨てた。私は強くなるのではなく色々な物を捨てて決別してきた。


私には美沙さえいればいい。

こうやって…私は自我を保ってきた。

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