第49話/甘い想い
松本梨乃.side
私は全身真っ黒だ。みのりを好きになってからダークな自分がすぐに現れる。
みのりとの時間を楽しみたいのに、みのりはいつの間にか離れ…誰かと話している。
もっと、みのりを独占したい。そんな欲に満たされている私は我儘な子だ。
みのりはきっと困惑しているはずだ。私も困惑しているし自分が嫌になる。
私に抱きつかれ、言葉通りじっとしているみのりへの好きがまた溢れそう。
好きで、こんなにも好きで…何も気づかないみのりが嫌になる。みのりは悪くないって分かってるけど八つ当たりしたくなる。
恋は難しく大変で、特に私の初恋は前途多難だ。プラスとマイナスに振り回されるし、何より…全く進まない恋が苦しい。
少しだけ気持ちが落ち着いた私はみのりから離れる。みのりは私と真逆で今も戸惑っているけど、私からは愛しさが溢れる。
好きだなー
大好きだなー
何でこんなにも、みのりは可愛いの?
何でこんなにも、カッコいいの?
何でこんなにも、好きなの?
意識し始めてから私の恋はノンストップだ。止まらない暴走特急列車。
大好きなみのりが私の名前を呼ぶ。梨乃って…その私の名前を呼ぶ唇を塞ぎたい。
「あの…」
「みのり…今日、お泊まりしたい」
「えっ?あっ、今日は…予定が」
「この後、どこか出掛けるの?」
「美沙の家に泊まる」
また、谷口さん。みのりの口から何度も出てくるのは谷口さんの名前。
みのりは谷口さんの名前しか出さないし、どれだけ一緒にいるのと言いたくなる。
あと、電車が来るまで何分かな?電車なんてストップして、永遠に故障していて欲しい。
私はずっとみのりとここにいて、みのりを谷口さんの元へ行かせたくない。
でも、人生思い通りにはいかず電車が来てしまった。せめて、あと1分でもいいから待って欲しかったのに。
電車に乗った私は椅子に座り、みのりに寄りかかる。せめて、この時間だけでもみのりを独占し感じていたい。
目を瞑り、1月に行われるドラマのオーディション頑張らないとと奮起する。
よっちゃんは本当ずるい。もし、私がドラマのヒロイン役を掴めたら…メンバーがもしかしたら生徒役で出れるかもしれないなんて、そんなこと言われたら頑張るしかない。
でも、演技未経験の私がヒロイン役を掴むなんて奇跡でも起きない限り無理だ。
地下アイドルで、無名で…今も何で私がオーディションを受けることになったのか分からず、みのりが受けたらいいのにとも思った。
でも、みのりがドラマのヒロイン役をやるなんて耐えられない。主役は男性だし…長い撮影期間の中で、みのりと男の人が仲良くしている姿なんて想像もしたくない。
色んな葛藤が私の頭の中でぐるぐると回る。回りすぎて目が回り吐きそうだ。
演技の仕事なんてしたくないけど、みのりのために頑張りたい…オーディションなんて適当に終わらせるつもりだったのにな。
「梨乃」
「えっ?」
「駅に着いたよ」
「あっ、本当だ」
「気をつけてね。ちゃんと親に迎えに来てもらうんだよ」
私を心配してくれるなら、最後まで一緒にいて欲しい。みのりの何気ない言葉のせいで欲が募り、体が動かなくなる。
「梨乃…ドアが閉まるよ」
私はドアが閉まる合図の音と共に立ち上がり、みのりを腕を掴み…無理やり立たせドアの方へ走った。
私とみのりの背後でドアが閉まる。みのりは私の突然の行動に驚き、動いていく電車を呆気にとられながら見ている。
「ごめん…」
「あっ、、うん」
私の行動は自分勝手で怒ってもいいのにみのりは絶対に怒らない。私はみのりの性格を分かってて行動した。
最低だよね。みのりは優しいから謝ると簡単に許してくれるのを利用した。
「みのりと一緒にいたくて…」
「えっ、、でも、美沙と約束が…」
「そうだよね…無理やり降ろしてごめん」
私は電光掲示板を見て、あと10分後に次の電車が来ることを確認し、冷たい椅子に座る。
みのりを無理やり降ろしたのに、私だけすぐに帰ることはできない。せめて、次の電車が来るまで一緒に待つことにした。
「次の電車が来るまで私も待つね」
「梨乃…何かあったの?」
「何もないよ(悲しいぐらい何もない)」
「分かった…」
きっと、みのりは私に呆れている。身勝手で我儘で、優しいみのりはこんな私を心配してくれたのに私は下を向いて黙り込む。
やっぱり…みのりは私に呆れているよね。それとも怒っているのかな?
私の前からみのりがいなくなった。もしかしたら永遠にみのりは私の前からいなくなるかもしれない。
「梨乃…」
永遠に会えないと思っていたみのりが私の前に立つ。私の名前を呼び…私に温かいお茶のペットボトルを差し出してくれた。
思いがけないみのりの行動に顔を上げると、みのりが「今日、泊めてね」と言う。
「えっ、でも…」
「さっき、美沙に電話して謝った」
「ごめん…私が、、」
「美沙のお母さんにも迷惑かけちゃって、罪悪感があるから梨乃は私に優しくしてね」
みのりの優しい言葉に胸がギュッと締め付けられる。「お迎えが来るまで温かいお茶でも飲んで待ちますか」と言いながら私の隣に座ってくれて、涙が出そうだ。
でも、今は絶対に泣かない。みのりにまた迷惑をかけてしまう。私はありがとうと言い、貰ったお茶を一口飲む。
お茶を飲んだあと親にメールをし、みのりが泊まることを伝え、私は幸せを噛み締めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます