第32話/ピンクローズなX'mas

レコーディングや色々な事が順調に進みクリスマスの日を迎えた。

恋人がいる人はみんな肩を寄せ合い街を歩き、手を繋ぎ、クリスマスを楽しんでいる。

私はそんな人達の横をわき目もくれずに梨乃とライブハウスに向かう。


だけど、梨乃が何度もイルミネーションの飾りを見てしまうため足が止まり、その都度私も止まり、仕方なく梨乃に合わせた。

クリスマス当日の街並みは煌びやかで綺麗だけど寒過ぎる。寒がりの私は寒さが苦痛すぎて綺麗という感情が消滅する。


だから、早くライブハウスに行きたいのに梨乃はイルミネーションだけでなくカップルを見ながら「いいな」と呟くから困った。

恋愛に憧れる梨乃らしいけど、私は寒い時期に手袋を付けず手を繋ぎたくもないし、ポケットから手を出すなんて論外だ。


「梨乃、遅刻しちゃうよ」


「あっ、うん」


梨乃に声を掛け、やっと歩き出す。早くこの寒さから抜け出したいと思っていると前から来るカップルが目に入った。

恋人の男の子に腕組みをしている女の子の雰囲気が美沙に似ている。


昨日、美沙にライブ後に一緒に過ごさない?と言われ、メンバーとイルミネーションを見に行くからと断った。

私は1人でも大丈夫なタイプだけど、美沙は寂しがりやだから少し心配だ。


出来れば私と過ごせないなら他の友達と遊ぶなりしてほしかった。でも、美沙はいつも私が選んで欲しくない選択をする。

それじゃ、大学の先輩に誘われているクリスマス会に行こうかって。


「梨乃。手、寒くないの?」


「寒いけど…大丈夫」


クリスマスは人をおかしくさせる日みたいだ。興味がないはずのクリスマス会に行き、きっと寒いはずなのに寒さを我慢してクリスマスを無理やり満喫しようとする。


何で無理をしてまで?と思うけど、これは私の感情だから何も言えない。でも、きっと梨乃はとても寒いはずだ。体が震えている。

私は梨乃の手を一度外し、梨乃の手と私の手を繋ぎ私のコートのポケットに入れた。


これなら私の手も暖かいままだ。少しだけ歩きにくいけど梨乃に風邪をひかせたくないし、気になって仕方なかった。


「梨乃の手、冷たい」


「ごめん…」


「はぁ、それにしても寒いなー」


クリスマスはイベント好きな日本にとって特別な日だ。キリストの誕生日のことなんか1ミリも考えず、ただ楽しむ日。

私もライブをするから同じだけど、みんな必死に盛り上がっているイベントに取り残されないようもがいている日に感じる。


「幸せだな」


「私の手、暖かいからね」


「そうだね。心も暖かくて幸せだよ」


私が寒さで楽しめない分、梨乃が楽しめて良かった。ライブハウスに着いたら温かいコーンスープを買って体の中も温まろう。

寒さのせいで感動する感情が消滅していたのに、梨乃の言葉で心が少しだけ弾む。


それに、やっぱりクリスマスに流れる音楽や景色が綺麗で私も見惚れてしまう。


「早くイルミネーション見たいなー。好きな人とクリスマスにイルミネーションを見るの憧れてたの」


「そうなんだ。梨乃は乙女だね」


そんな感情を持ち合わせていない私は、だから周りの人達(カップル)の感情が理解出来ないのかと勝手に納得する。


「みのりは…クリスマスに好きな人とやりたい事とかある?」


「うーん、ないかな」


「みのりはクール過ぎるよ」


「だって、思いつかないし。恋愛にそもそも興味ないし、もし恋愛しても相手がドライな私に対してがっかりして消えていく」


「そんなことない…みのりはめちゃくちゃ優しいし、素敵な女の子だよ」


「あー、友達に私は同性には優しいけど、男の人にはクールな態度だねって言われたな。同性には母性愛か分からないけど保護者的な気持ちになるのかな?お母さん的な」


「お母さん…なんだ」


梨乃が私の言葉に苦笑いする。でも、私の性格を的確に表している。恋愛と繋がらない同性だからかもしれないって。


「みのりの恋人になれた人は幸せだと思う」


「だから、それはないって」


「相手が女の…」


「何?」


「何でもない…」


急に話が途切れ、梨乃が下を向く。落ち込んでいるように見えるし、考え込んでいるように見え正解が分からない。

正解が分からない時はそっとしておくが私の中の正解で、梨乃も自己解決型。


今日は聖なる恋人達のクリスマス。アイドルにとってクリスマスは大事なイベントの日でファンを集めやすい集客日。

恋愛に興味がない私にとってライブをするのは丁度いい。お金も稼げる。


それに、興味のない恋愛を無理やりするよりライブをする方が楽しい。

恋人がいない、恋愛に興味がないアイドルにとってwin-winな日である。

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