第33話/ネオンテトラの夜

サンタの服をモチーフにした可愛い衣装を着て、私達は来てくれたファンのみんなと一緒にクリスマスイベントで盛り上がる。

クリスマスの定番の曲をみんなで歌い、私達はサンタさんとしてファンにお菓子のプレゼントをしイベントを楽しんだ。


来てくれたファンはいつもより良い笑顔で、今年最後の特大イベント・クリスマスに取り残されてない!って顔をする。

こんな風に考えるのは私の悪い癖で、みんなが楽しんでいるのに本音を読もうする。


私はクリスマスに1人で過ごす事に抵抗もないし、寂しいとも思わない。

私の性格でもあるけど、基本1人が好きだしできるなら寒い外になんか出たくもない。だから、今日来てくれたファンが凄いとも思えるし、物好きとも思える。


でも、寒がりの私が大好きなアイドルの握手会にどれだけ寒くても参加していたから私も同類で物好きだ。

そんな物好き同士のクリスマスイベントが終わり、最後にいつも通りの撮影会をする。今日はメンバーがサンタの衣装を着ているからファンは興奮しながら写真を撮っていた。


「みのりちゃん〜!」


「あっ、田中さん!来てくれてありがとう」


「もちろん来るよー!みのりちゃんに会いたいもん。それに可愛い衣装、見れて幸せ〜」


必ずライブがある日は来てくれる田中さん。こうやってクリスマスなのに駆けつけてくれる自分のファンがいるとやっぱり嬉しい。

それに、昔から知っているファンの田中さんの前だと自然な笑顔が作れ話せる。


「あれ?田中さん…目の下に隈ができてる。大丈夫ですか?」


「あー。最近ね、仕事が忙しくて」


「忙しいのに来てくれてありがとうございます。嬉しいです」


「私はみのりちゃんにパワーを貰ったから元気100倍だよ。もっと頑張ろうと思えるもん」


私も田中さんの言葉に元気を貰えた。ずっと昔から応援してくれているファンはアイドルにとって最高の心の支えになる。

田中さんと一緒に写真を撮り、笑顔でお礼を言いながら田中さんに手を振った。


楽しそうな雰囲気のライブハウスを見渡し、初めて良いクリスマスだなとイベントの日に対し楽しい感情を持てた。

クリスマスライブが全て終わった後、私達は楽屋に戻ると机にケーキが置いてあり、よっちゃんが今日はクリスマスだからねと言う。


早速ケーキに喜ぶ美香と由香里はフォークでケーキを食べ始め、私と梨乃はよっちゃんにありがとうとお礼を伝えた。


「ほら、2人も早く食べないとケーキが無くなっちゃうよ。美香、由香里。ちゃんとみのりと梨乃の分も残しなさいね」


「はーい」


ホールサイズの苺が乗った生クリームのケーキを4人で食べると一瞬で食べ終わる。

みんなで美味しかったねと言い合い、元気になった私達はテンション高めでイルミネーションを見に行く準備をする。


今日はクリスマスで、せっかく一緒にクリスマスを楽しめるメンバーといる。

楽しまないと損って訳ではないけど、イルミネーションが楽しみーと子供みたいにワクワクさせている美香や由香里が可愛くて、誰かと過ごすクリスマスもいいなと思えた。


「あっ、みのりジッとして」


適当に巻いたマフラーを梨乃が整えてくれた。どれだけ歪んでいても気にしない私とは真逆で梨乃の女の子らしさが眩しい。


「梨乃っていい奥さんになりそう」


「そうかな…?」


「気遣いできるし、優しいし」


「でも、料理は苦手だよ」


「料理上手の人と結婚したら問題ないよ。それに好きな人の料理だったらどんな料理でも受け入れるでしょ」


「みのりは恋人が料理が苦手でも平気?」


「私が料理作るの好きだから平気だよ。家事なんて分担すれば問題ないし、それぞれ得意分野をやればいいじゃん」


「そっか。そうだよね」


梨乃が嬉しそうに微笑む。料理が苦手なのを気にしていたのかもしれない。


「みーちゃん、りっちゃん、早く行こうよー」


「こら、美香。服を引っ張るな」


「早く行きたいのー」


美香と由香里に私と梨乃は「早く、早く」と腕を引っ張られ連れていかれる。

初めて過ごす4人でのクリスマス。人に興味がない私だけど、心を許せるメンバーとよっちゃんと美沙は一緒にいて楽しい。


相変わらず外は寒いけど、テンションが高いから凍てつく寒さでも我慢できる。

私達は煌びやかなイルミネーションの飾り付けを鑑賞しながら写真を撮ったり、綺麗だねーと言いながら楽しんだ。


でも、高校生の美香と由香里がいるから遅くまでは過ごせない。美香達がどれだけ嫌がっても帰らせることはリーダーの役目だ。


「さぁ、そろそろ帰ろう」


「えー、早いよー!」


「美香も由香里も高校生でしょ。ダメ!」


案の定、美香が拗ね、由香里も「やだー」と言ってきた。でも、何かあったら困るのだ。

それに、私にはどうしても1つ気になる事がある。さっき…美沙らしき女の子が1人で歩いているのを見たせいだ。


今日の美沙は大学の人達とクリスマス会で、時間的にまだ終わってないはずだ。

だから、勘違いの可能性が高く…


「みのり?」


「えっ?あっ、駅に行こう」


梨乃に声を掛けられ、頭を切り替える。後ろ髪を引かれながら美沙を見た方向とは反対の方向を歩き…一時停止する。

やっぱり、美沙のことが気になる。それに、このモヤモヤを持ったまま帰れないし、電話を掛ければ分かることなのだ。


ワンコール、ツーコール、スリーコール


やっぱり、まだ騒いでいる最中だと勘違いだと思ったのに…美沙は私の電話に出た。

そして、電話からは騒ぐ声が聞こえず「みのり?」と美沙の声だけが聞こえてきた。

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