第31話/行方知らずのミライ

アイドルだけど、メジャーデビューが決まっているけど、朝からバイトに行きお金を稼ぐ。

アイドルの稼ぎだけじゃ食べていけないアイドルの日々。これが地下アイドルの現実だ。


今もこんな気持ちになるのは、きっと私が自分に自信がないからだろう。

昨日、過去問で自分の学力を測った。ある程度は解けたけど、高校の時と比べるとかなり落ちており、手が止まることが多く悔しい。


自信を失いやすい私は気持ちが落ちながらも必死に奮起する。ここで挫けたら終わりだ。

1年間勉強をしっかり頑張り大学を目指すしかない。このままでは絶対に終わりたくないし、武器を増やしたい。


バイト先に着き、私は鞄とコートをロッカーに入れる。まだ、梨乃は来ておらず制服に着替え準備をしていると梨乃がやってきた。

朝から浮かない顔をしており、おはようと言うと暗い顔で「おはよう」と返された。


でも、ハッとした表情をし私の方に振り向き「ごめんね」と謝られ眉毛を下げられる。


「梨乃、どうしたの?」


「何でもないよ…」


表情や態度から梨乃は何かを隠しているけど、私はそっかと言いこれ以上聞かなかった。

私は悩んでいる時はそっとして欲しいタイプで、梨乃も私と同じタイプだからだ。


準備が終わった私は先に更衣室から出て、バイトに取り掛かる。

明日はレコーディングの続きをするし、やる事が沢山ある。今は自分のことで精一杯だ。




バイトの休憩中、私は携帯を触る。美沙からLINEがきており、大学に行くのが嫌だーと愚痴が書いてあった。

私からしたら朝からバイトより大学に行く方が楽で羨ましいのに。


「谷口さんとLINEしてるの…?」


「えっ?あっ、うん」


梨乃に声を掛けられ、顔を上げると真横に梨乃の顔がありビックリする。危うく後ろに下がった瞬間、椅子から落ちそうになった。


「うわぁ」


「ちょっと、大丈夫」


最近の梨乃の距離の近さは私も驚く近さで、美沙だったら慣れているけど梨乃は慣れていないから驚きが大きい。

椅子から落ちはしなかったけど腰を捻り痛いけど我慢をする。


梨乃が心配そうな顔をするから痛いと言うと本気で心配されるし、私が心配されるのが嫌いだからってのもある。

弱みを見せるのが嫌いなんだ。弱い自分は受け入れているけど見せたくない。


「大丈夫だよ」


「でも、涙目だよ」


「まぁ、ちょっとだけ痛かった」


「みのりは意地っ張りだね」


「知ってる。自覚してるし」


「みのりは凄いね。普通だったらそんなことないとか言って否定するのに否定しない」


私が否定しないのは意地っ張りだってことを自覚し、否定しても無駄と分かっているからで…梨乃に言われると変な感じだ。


「みのりのキョトンっとした顔、可愛い」


「可愛くないよー」


「可愛いよ。みのりの顔、大好きだもん」


「ありがとう…照れるね」


私が梨乃の言葉に照れると、嬉しそうに笑い「やっと、みのりを照れさせられた」と私に腕を組み甘えてくる。

腕を組まれながら梨乃に何度も可愛いと言われ、私は諦めて携帯をポケットにしまった。


「みのりを独占できるこの時間、大好き」


「独占?」


「美香や由香里がいると独占できないから」


「そうかな?」


梨乃は私が同い年だから話しやすいのかもしれない。でも、年下の美香や由香里とも楽しそうに話しているから…まぁ、いいか。考えても分からないし。


「あっ、そうだ。もうすぐクリスマスだね」


「私達はライブだけどね」


「クリスマスだから何処かに行きたいなー。あっ!イルミネーション見たい」


梨乃がクリスマスにというイベントにはしゃいでいる。私にとってクリスマスはずっと普通の日でこんな風にはしゃぐことがないから不思議な感覚だ。


「ライブ終わりにみんなで見に行く?」


「えっ、そうだね…」


せっかくだからと思い私はメンバーでイルミネーションを見にいくことを提案した。でも、梨乃の暗い反応に戸惑う。

もしかしたら、梨乃は他の人と行く予定があったのではないかと、余計な一言を言ってしまったのではないかと不安になった。


「違う日でも…」


「行く!みんなで行きたい」


梨乃に気を使わせたのではないかと思ったけど、私に腕を組んでいる梨乃の力が強く、目も真剣だったから気にするのをやめた。

はぁ…誘ったのは私だけど、今年のクリスマスは土曜日だからきっと人が多く、大量のカップルだらけになるだろう。


クリスマスは日本で一番カップルが盛り上がるイベントだ。去年は美沙と2人でクリスマスを過ごした。

丁度、クリスマス前に彼氏と別れた美沙に1人は嫌だとごねられてお泊まり会をした。



そう言えば…あの時、美沙にキスをされた。



酔っ払ってとかではなく、甘えん坊の美沙に抱きつかれて互いの顔が近くなり、美沙の唇が私の唇に触れた。

あの時は…まさか美沙にキスをされるなんて思わなくてビックリした。


その後、私にキスをし子供みたいに笑っていた美沙の額を叩いてバカと叱った。


椅子の背にもたれかかり、今年はクリスマスをメンバーと過ごすのかと思いながら壁にある時計を見る。時が過ぎるのが早い。

あっという間にクリスマスが来て、年末が来て、来年が来る。


来年、私と梨乃は20歳で10代ではなくなる。


来年の私はどう変わっているかな?

できれば変わっていたい…

今の私は好きじゃないから抜け出したいよ。

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