第28話/Bitter Sweet
できれば、お風呂はもっとリラックスして入りたい。緊張している梨乃は全く動かず、私も梨乃に気を使って動けずにいた。
この場の空気を変えたくて私は髪と体を洗うため上ろうとする。それに、会話もなく湯船にずっと入っているのに疲れた。
浴槽に手をかけ立ち上がろうとすると突然梨乃が私の腕を掴む。私の背中に抱きつき…梨乃の心臓の鼓動を感じる。
まだ、緊張しているのか心音が激しい。それに、梨乃がこんなにも近くにいることが初めてで振り向く事に躊躇してしまう。
「梨乃…どうしたの?」
「みのりの背中を温めてる…」
私は梨乃の意外な言葉に「そっか」と言い、前を向いたままジッとする。
今の私達の姿は亀ではなく猿の親子かな?流石に写真は撮れないけど、もし写真をSNSに載せたら反応がありそうだ。
なんて考える私はダサいね…みのりのはもう終わっている。なのにまた、何も知らない梨乃を勝手に使おうとしている。
「そろそろ、体洗わない?」
「えっ…うん、そうだね」
この空気感を切り替えるために梨乃に声を掛ける。でも、梨乃の言葉にためらいがありなぜか驚いている。
梨乃の方を振り向くと顔が赤く、体温も熱い。もしかしたらのぼせて頭が朦朧としているのではないかと焦った。
「のぼせたの…?」
「大丈夫…」
「でも、顔が赤いよ」
やっぱり頬の赤さが気になる。手の甲を梨乃の頬に当てると体温が高く、温かい湯船に入っているせいでもあるけど不安になった。
「みのり…」
「何?」
「何でみのりは普通なの…」
「普通?えっ、どう言う意味?」
「みのりは変わらないから」
私は梨乃が言った普通の意味と変わらないって言葉の意味も分からなくて困惑すると、更に「みのりの普通が怖い」と言われた。
「困った顔してるね」
「だって、意味が分からないし…」
「みのりは私と違いすぎるから」
「そうかな…?」
「きっと、みのりが女子校出身だからかな。私の普通がみのりの普通と違いすぎる」
私が女子校出身だからといって共学の高校に通っていた梨乃との違いがあるとは思えないけど、梨乃は本気で言っているみたいだ。
「みのりは女の子にどこまでされたら反応するの?」
「反応?どういう意味?」
私は首を傾げる。でも、梨乃に「キス、エッチ?」と言われ、困惑するしかなかった。
同性とキスとかエッチとか考えたことないし、想像もできないからだ。
「ここは普通の反応なんだ…」
「さっきから普通って言葉を何度も言うけど、意味が分からないよ」
梨乃は私の何を知りたいのか分からない。これで何度目なんだろう?梨乃に対して分からないがループする。
「ごめん…そうだよね」
梨乃が申し訳なさそうに謝り、私と梨乃の間に見えない壁を感じた。
私と梨乃は同い年で仲良しで、今まで沢山嬉しいこと苦しいことを共有してきた。
だけど、梨乃とのすれ違いを感じる。心のすれ違い。私と梨乃の普通は違う。
この後、互いに喋らずお風呂を済ませる。着替えを済ませ、私達は二階に上がった。
何を話そうか…本当はレコーディングに向けて練習をしたいけどそんな雰囲気ではない。
ベッドに背を預け、床に座ると梨乃が私の横に座る。そして、梨乃が私の手に触れた。
私にとって同性と手を繋ぐことは普通の行為だ。美沙と手を繋ぐことが多かったからで、この行為も悩まないといけない行為なのだろうか?でも、梨乃から私の手に触れてきた。
きっと、梨乃も普通の行為のはずだ。だけど「甘えてもいい?」と言われ、いいよと言うと梨乃が私に抱きついてくる。
梨乃の思いがけない行為に驚き、どうしたらいいのか分からず体が固まった。
梨乃に力強く抱きしめられ、梨乃の心臓の鼓動を感じる。お風呂の時に感じた鼓動の速さで心臓の動きが早い。
やっと動いた手を梨乃の背中に回す。何もしないでいると梨乃を傷つけてしまう気がした。
「みのりが優しいから離れたくなくなる」
「私は優しくないよ」
「優しいよ。優しすぎて止まらなくなる」
梨乃の私を抱きしめる力が更に強くなり、締め付けで私の体が圧迫される。
私と梨乃の心臓の鼓動の早さは対照的だ。私が静で梨乃は動で、対照的に激しく動く梨乃の心臓の鼓動が気になる。
でも、私は梨乃の心臓を静に戻す術を知らない。だから、このままジッとする。
梨乃の心臓が落ち着くまで、梨乃を抱きしめ続け…いつのまにか寝落ちした。
「好き…」
寝ている私には梨乃の声は届かない。泣きそうな声で呟く梨乃の想い。
しばらくして梨乃に起こされ、目を覚ますと梨乃は私から離れていた。
ベッドで寝ようと言われ、手を引かれる。ベッドの上に横になった私はすぐに目を瞑る。
梨乃にまた抱きしめられ夢の世界へ旅立つ。梨乃の体温が温かい。寒がりの私を温める。
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