第29話/面倒な感情の消し方

携帯の目覚ましのアラームで目を覚ますと私の顔の近くに梨乃の顔があった。体を横に向け、梨乃の前髪を触り横に退ける。

梨乃の寝顔が見ながら、昨日のことを考える。梨乃の考えていることが私には難しくて理解しようにもできずにいる。


美沙みたいに分かりやすかったらいいのにと思うけど、梨乃は梨乃なりの考えがあるし私の理解力が乏しいだけなのかもしれない。


「うぅん…」


私の行為で起きてしまった梨乃は目を手で擦りながら目を覚ました。まだ眠そうな梨乃に私はそろそろ、起きようと伝える。

寝ぼけながら「うん…」と頷く梨乃の手を私は引っ張り起き上がらせた。


今日はまず梨乃の家に行き、洋服を着替えた後に一緒にバイトに行く。

店長にバイトを辞めることを告げ、夕方からは美香と由香里と合流しみんなでレコーディングスタジオに行くことになっている。



パジャマから洋服に着替え、梨乃と朝ご飯を食べたあと、先に色々と終わらせた私はソファーに座り梨乃の準備が終わるのを待つ。

そして、梨乃を待つ間これから先のことを考えることにした。


◇デビューが決まった

◇親に報告した


後はデビューに向けて必死に頑張るだけだけど、歌以外で私にやれることを探している。

私が歌以外に出来ることは勉強。今まで頑張ってきたことはアイドルになる為の努力とクラスメイトに負けないよう頑張った勉強だ。


だけど、勉強となると箔が付くぐらいの大学に行かないといけない。高校までの学歴でも十分だと思うけど、私はもっと上を目指したい。

最低ラインとしては美沙が通っている有名大学だろう。東京六大学はマストだ。


高校の三者面談で先生に私の学力なら有名な大学に受かると説得された。

進学校だから先生が大学進学を進めるのは当たり前で私のクラスで大学に行かなかったのは私だけだった。


今から1年間頑張って勉強したら受かるだろうか?一応、勉強は私の得意分野である。

いや、違う。大学を目指すなら必ず受からないといけない。これはマストなんだ。


「みのり、終わったよ」


「よし、行こうか」


準備が終わった梨乃と玄関で靴を履き、駅に向かい歩き出す。外は明るく、家から一歩踏み出すと頑張ろうと思える。

レコーディングが終わったら本屋で参考書を買い、一度自分の学力を測ろう。


私の唯一の取り柄は歌と勉強だ。だったら、取り柄を武器にして戦わないといけない。

進む道が見えるとやる気が漲る。それに…きっとお母さんも喜ぶだろう。


大学に行くと言ったら喜んで応援すると思うし、私とお母さんの仲もきっと変わる。

癪だけど、家が息が詰まる場所だから少し緩和したい。まだ、一人暮らしする余裕なんてないし(売れたら必ず実家を出ていくけど)


メジャーデビューは確定したけど、来年20歳になる私には時間がなかった。もうすぐ今年が終わりすぐに来年が来る。

12月は何でこんなにも寒いの?冬は気持ちを焦らせる。みんながワクワクしているクリスマスはライブをするから私には関係ないし。


私にはアイドルしかない…


白い息を吐きながらコートのポケットに手を入れる。この寒さは来年の2月まで続き、私の嫌いな季節がまだまだ続く。

別に暑い夏が好きでもないけど、寒い冬はもっと好きではない。春と秋が好きだ。


梨乃が私の腕に自分の腕を回し組んできた。歩きづらいけど、梨乃が満足ならそれでいい。

私は細かいことは気にしない。相手に委ねることが多く、合わせにいくタイプだ。私はいつも何も考えずただ受け入れる。


◆面倒くさいことが嫌いだから。

◆受け入れた方が楽だから。


美沙に言われたことがある。私は受身体質すぎると。もう少し治してと。

嫌なことは嫌だとハッキリ言うけど、友達の我儘などは拒む方が駄々を捏ねられ面倒いの気持ちが強く、仕方なく受け入れてしまう。


色んな事に我慢して感情を無にする。私は今までそうやって過ごしてきた。

私は高校1年の時、感情の殺し方を覚えた。そして、何も感じない【私】を作り出した。

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