第26話/消えた瞬く星

今日はメンバーのみんなが気合いを入れている。ファンのみんなにメジャーデビューを報告する日で、昨日からSNSに良い報告が出来るからライブに来てねと書いていた。


ステージ裏で待機していると、ざわざわとステージの方からファンの声が聞こえてくる。

「もしかしてデビューかな?」と話しているファンもいて、裏にいる私はそうだよ!と感情が昂り、ワクワクする。


会場の明かりが消え、一曲目のメロディーが会場に流れはじめる。私達は小走りでステージの中央に行きポーズを決めた。

今日は苦手な笑顔も上手く笑えている。ファンの声援が一気に湧き上がった。みんなと一緒にボルテージを上げ、歌いだす。


ステージの上から私のことをいつも応援してくれている田中さんが見え、手を振った。

今日は仕事帰りなのか、服装がいつもと違う。正装しており、この場には浮く格好だ。


でも、いつもと変わらぬ応援をしてくれて私の名前を呼び、飛び跳ねている。

みんな、どんな反応をするかな?きっと「おめでとうー!」と言ってくれると思うけど、早く反応が見たくて仕方ない。


曲が終わり、みんなでセンターに集まった。互いに顔を見合い「せーの」と私の掛け声でいつもの通りの挨拶をする。

そして、今からする重大発表はリーダーの私が切り出すことになっている。息を整え、私はマイクを力強く握った。


「皆さん!今日は重大発表があります!」


ファンのみんなの声援が凄い。みんな、私達の発表をキラキラとした目で待っている。

私達はまた目を合わせ、私の「せーの」の言葉でみんなでマイクに向かって…


「メジャーデビュー決まりました!!!!」


っとファンのみんなに報告した。みんな、デビュー報告に飛び跳ねて喜んでくれている。

私達も嬉し泣きをし「ありがとう!」と伝えた。CLOVERを結成して1年、私達はやっと夢のデビューする。


「デビュー日はまだ決まってませんが、半年後にデビューします。私達はずっとメジャーデビューを夢見てきました。皆さんのお陰です…本当にありがとうございます!これからも、皆さんに良い報告をできるよう頑張りますのでよろしくお願いします!」


私はCLOVERのリーダーとして話し、この時ばかりはリーダーで良かったと思った。

周りに気を使い面倒なこともあるけど、楽屋で言われたよっちゃんの「ファンのみんなに想いを伝えてきてね」の一言が嬉しかった。


「みんなー、付いてきてね!」


美香が大きな声を出し、ファンを煽る。そして由香里が号泣しながら「全力で頑張ります…」と言った。

私達はアイドルになりたくて必死に頑張ってきた。やっと頑張りが報われる。


梨乃は力強い言葉で「リーダーのみのりを支えながら、これからも頑張ります」と嬉しいことを言ってくれた。

このメンバーで良かった。まだまだこれからだけど、一歩前進し夢に近づいた。


メンバーで手を繋ぎ合い、腕を上に上げる。みんなで喜びを分かち合った。

これからCLOVERの第一章が始まる。





「みのりちゃん!メジャーデビューおめでとう!」


「田中さん、ありがとうー!」


「やっとでデビューだね…本当に良かった」


「田中さん、泣かないでよ…私も涙が止まらなくなる」


「絶対に応援するから。全力で応援するね」


メンバーのみんなはそれぞれのファンから激励の言葉を貰っている。私も田中さんに泣きながら「おめでとう!」と言われ、最高に嬉しかった。ファンと分かち合える喜びと夢が叶い、めちゃくちゃ嬉しい。


今日はぐっすり眠れそうだ。ライブが終わった今も興奮が収まらない。

最後まで興奮が収まらぬままファンの人をお見送りし、私達は楽屋まで戻った。

椅子に座り、天を見上げていると梨乃が私の横の椅子に座り私の肩に頭を乗せる。


「みのり、頑張ろうね」


「もちろん」


頑張らなきゃ、頑張らないといけない。

もう後ろには下がれないし下がらない。


「みのり…」


「何?」


「今日さ、みのりの家に泊まっちゃダメ?」


「いいよ」


梨乃が珍しく私の家に泊まりたいと言ってきた。もし、みのりのが続いていたら…

私は勝手に始めた《みのりの》を勝手に終了させている。カップル売りは二番手と四番手じゃ意味がないからだ。


差がありすぎると虚しいだけだし、頑張っても差が開く一方で私が辛い。

私と梨乃はただのメンバー(友達)。それ以上でもそれ以外でもない。



芸能界が厳しさをひしひしと感じる。メンバー内での格差がこんなにも辛いなんて…意地悪な辛さで心を濁す。


デビュー曲の歌割りもセンターの美香がメインで…歌に自信がある私はハモが多かった。

唯一自信がある武器を使えない。聞いてもらうことが出来ない。


でも、まだ微かに心は燃えている。まだスタートラインに立ったばかりだから諦めない。

それなのに梨乃が甘えてくる。もう遅いのに、みのりのは終わったのに。


私の手の指を触り、恋人握りしてくる梨乃。もし、この姿をファンな人が見て盛り上がっても今となっては意味がない。

二番手に躍進した梨乃は遠くにいる。

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