第9話/夢へのClimb up
今日のライブの余韻を感じながら電車の窓から景色を眺める。夜のネオンが綺麗で久しぶりに景色の美しさを楽しむことができた。
心が燻ると色んなものが濁って見える。やっと心の霧が晴れ、景色の綺麗さに見惚れた。
家に着き、お風呂からあがった後いつもだったらしないエゴサーチをする。
SNSには嬉しい言葉が沢山書かれており、自分の評価に微笑み、酔いしれる。
それにしても、コメントで〈みのりの大好き!〉って言葉が多すぎてビックリだ。
思っていた以上にみのりのの反応が多く、何でだろう?と思っていると、CLOVERの公式SNSに楽屋で私が梨乃に「大好きー」と言い、抱きついている動画が公開されていた。
この動画を撮ったのはマネージャーのよっちゃんで、いつのまにって思ったけどよっちゃんに感謝をしないといけない。お陰でまたみのりのが勝手に盛り上がっている。
みのりの…
みんなは私と梨乃のコンビのどこが好きなのだろう?今まで梨乃とは普通に話し、普通に接し、普通に仲が良かった。
ただ普通に仲が良い関係でしかなかったのに、ファンは私達の関係を喜ぶ。
私と美香、美香と由香里、梨乃と由香里などパターンはいくつもあるはずなのに私と梨乃のコンビ以外は盛り上がらない。
見た目の雰囲気や年齢などが関係あるのだろうか?梨乃との写真をSNSによく載せていたけど、何が理由なのか私には分からない。
そもそもカップル売りって何だろう。みんなは私と梨乃に何を求めているの?
私には彼氏がいたことがあるし、梨乃の恋愛対象も男性だ。それに私は恋愛で経験するキスもエッチも全て経験している。
携帯をベッドに投げ、寝っ転がり天井を見つめる。私と梨乃がキスなんて絶対に無理だ。
私達は女同士だし、いくらカップル売りだとしても梨乃が交際経験がないと知ってしまった以上梨乃を汚すことはできない。
ベッドに放り投げた私の携帯が揺れている。仕方なく考えを中止し、面倒くさいなと思いながら携帯に手を伸ばし「もしもし」と言うと、きっとそうだろうなと思っていた相手からの電話だった。
「みのりー」
「美沙、どうしたの?」
「みのりの声が聞きたかったの」
「どうせ、彼氏と何かあったんでしょ」
私に電話を掛けてきた谷口美沙は私の高校時代からの友達で高校卒業後も遊んだり、連絡を取りあってる一番仲が良い友達だ。
だけど、何でこんな男とばかり付き合うの?って言うぐらい見る目がなく困っている。
彼氏と何かあるたび私に電話が掛かってきて、その度に慰め、時には叱ったりの繰り返しでそろそろ疲れるし流石に呆れている。
またいつものかと思いながら美沙の話に耳を傾ける。私は美沙の保護者的な役割だ。
「最近ね…彼氏が外でデートしてくれない」
「そうなの?じゃ、家デート?」
「それとも違う…エッチばかり」
またかと思った。美沙の彼氏は私が嫌いなタイプばかりで、美沙がいつも最後に泣く。
何でこんな人と付き合うの?ってパターンが多く、周りが助言しても恋愛中毒者の美沙は「でも…」と言い、後で後悔する。
美沙が可愛いから近寄ってくる男も絶えず、そのせいで高校の時から恋人がほぼ切れない。
私は美沙の涙が嫌いだ。大事な友達だから泣き顔を見たくないけど、助言しても「分かってるけど…」と返されるから疲れる。
「またか…って思ってるでしょ」
「思ってるよ」
「だけど、優しいんだよ…」
「でも、外でデートしたいのに体ばかり求められるから嫌だってことでしょ」
「うん…」
「正直に言ったら?恋人なんだから」
この言葉を私は何度、美沙に言っただろう。私の常套句になりかけているし、この言葉の後、美沙は彼氏と別れ、泣くことが多いから嫌な気持ちになる。
「分かった…伝えてみる」
「頑張ってね」
「ありがとう」
疲れた。いつものやり取りが疲れるし、結果が目に見えているからより疲れる。
きっと、美沙は彼氏と別れる。だけど、その度に傷ついているのが美沙だから嫌だ。
惚れやすいのが唯一の欠点だけど、美沙は純粋な子で真面目な子だから悩ましい。
いい加減、真面目で優しくて美沙を大事にしてくれる人と付き合ってほしい。
だけど、美沙は不正解の方ばかり付き合う。偏差値の高い大学に通っているのに恋愛偏差値が低すぎて間違いばかりだ。
美沙との電話に疲れた私は癒されたくて梨乃に電話を掛ける。梨乃の声が聞きたくて、梨乃の胸の内をもう一度聞きたかった。
今日のライブで、もしかしたら変わっているのかもしれないと思ったからだ。
「梨乃」
「みのり、どうしたの?」
「声が聞きたくなった」
「さっきまで一緒だったじゃん」
梨乃は美沙とは違いドライな部分がある。美沙は甘えん坊の末っ子で、梨乃は素直に甘えられない次女タイプのイメージ。
だから、疲れたとき梨乃といると心が楽になる。美沙みたいに間違いを選択しない。
なんて、勝手なイメージだけど私が普段長女+保護者の役割をしているから、次女の梨乃の存在は大きいのかもしれない。
私を助けてくれたり、横で支えてくれる。だからこそ、梨乃とアイドルを続けたかった。
「今日のライブ楽しかったね」
「うん、楽しかった」
「梨乃はアイドル好き?」
「好きだよ、ずっと憧れていた仕事だもん」
「梨乃、、もう少しだけ頑張ろう」
「そうだね…もう少しだけ頑張ろうかな」
梨乃が私が選んで欲しかった選択の方を選んでくれた。嬉しくて、飛び跳ねたい感情を抑えつつ気持ちを伝える。
「私ね、梨乃ともっと上に行きたい!」
「うん。まずはメジャーデビューして武道館でライブして、紅白に出て、東京ドームでライブがしたい」
「梨乃の夢が大きいよー」
「当たり前でしょ。夢は大きくだよ」
強い気持ちを持つことが夢への第一歩。私達は大きな一歩を踏み出した。
私はアイドルで成功する。CLOVERで成功してみせる。絶対に後ろへは下がらない。
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