第8話/マイ・ドリーム

ライブ終演後、いつものように私達はステージを降り、一列に並んで机の上に並べたグッズやCDの物販をしチェキ会をする。

これは地下アイドルの大事な収入源でこの売り上げの一部が私達のお給料になる。


こんなアイドル活動をしているけど、CLOVERはまだマシな方だと他のアイドルグループに言われたことがある。

私達はちゃんとした事務所に所属しており、マネージャーもいる。


他のアイドルの子に「恵まれているよ」と言われた時、言葉の意味が分からなかったけど今は実感している。

確かにお給料の面は最悪だけど、オリジナル曲を貰えたり、衣装もちゃんとしてる。


そして、何よりマネージャーの吉田夏樹(女性)ことよっちゃんが良い人だ。私達のことを常に考え、動いてくれている。

私達の仕事はこの小さなライブハウスでのライブが主だけど、時々雑誌の仕事やイベントの仕事もあるから頑張れる。


【隣の芝生は青い】


◆上には上がいる

◆下には下がいる


だから、考えても仕方ないこと。私はただひたすらアイドルの仕事を頑張るだけ。

こんな風に思えるようになったのは《みのりの》の手応えを感じているからだ。


自分に自信がつき、やっと周りを見る余裕が出来た。そして、感謝の心を思い出す。

私は苦手な笑顔を頑張って作る。私の前に並び、私と一緒に写真を撮るファンがいつもより多く、失っていた自信が溢れてきた。


「みのりちゃん…あの、、今日のライブ凄く良かったです!歌も素敵でした」


「ありがとうございます!」


私とチェキを撮り、歌を褒めてくれた人は美香のファンで私の隣にいる美香は自分のファンが私とチェキを撮ったことに拗ねている。

私は優越感に浸り、密かにほくそ笑む。自分の価値が上がった証拠であるからだ。


上手くいけば、私にファンが増えるかもしれない。コアなファンが多い中、推し以外の列に並ぶ=推し変の可能性ありだからだ。

稀に推し増しする人もいるけど、殆どのファンは違う。自分だけのアイドルを崇め、応援することに命をかけている。


「みのりちゃんって歌が上手だね!元々上手いとは思っていたけど今日改めて思ったよ」


「嬉しい!次のライブでも頑張ります!」


今度は由香里のファンが来てくれた。ローマ字でYUKARIと書かれたタオルを首に掛け、興奮気味に思いを伝えてくれた。

ここからが勝負だ。アイドルは自分のファンが他のアイドルやメンバーに流れても「嫌だ!やめて!」と止めることはできない。


◆非情な世界だけど、実力の世界。

◆ファンは常に応援したい人を応援する。


最高の気分だ。梨乃にも美香や由香里、私のファンが並んでいるけど…みのりの大好きです!って言っていたから目を瞑る。


私と梨乃はモブではない…

モブからヒロインへ。

そして、ヒロインから偶像になる。





「みのりちゃん!最高だったよ!」


「田中さん!ありがとう〜」


「今日は列が長くて嬉しい!やっと、みのりちゃんの魅力が伝わったね」


CLOVERが結成され、初めてライブをした時から私を見つけ、応援してくれている女性の田中さんは私の大事なファンだ。

地下アイドルは男性のファンが多く、だからこそ女性のファンはとても貴重で、私も同性のファンに応援されると嬉しい。


女性のファンは友達感覚で話せるし、同性から好かれる魅力は強みになる。

田中さんと話しながらポーズを決め、今日一番の笑顔を作ることが出来た。

田中さんは私より少し上だけど(正確な年齢は知らない)同世代はやっぱり嬉しい。


今日は全てのことに力が漲り、楽しい気持ちでやれている。当たり前だけど、もっと大きな会場でセンターとして大好きな歌を歌い、踊れたら今より最高の気持ちになるだろう。


今日はぐっすり眠れそうだ。疲れているけど、楽しくて私の顔がニヤけてしまう。

楽屋に戻るとチェキ会が終わった梨乃も笑顔で「疲れたー」って言っており、充実感のある疲れが本当に久しぶりだった。


「梨乃ー」


「ちょっと、、汗かいてるから」


私も今日はいつも以上に汗をかいている。でも、ベタついた汗も気にならないぐらい私の気持ちは昂っており梨乃に抱きついた。


「梨乃、大好きー」


「分かったから、離れて」


「嫌だ。梨乃も私を好きって言ってくれるまで離れないー」


私にとって梨乃は戦友だ。梨乃がダンスを頑張っているのを知っているからこそ、私も歌を頑張ろうと思える。絶対に負けたくないし、好きだからこそ頑張りたい。


「みのり、苦しいからそろそろ離して」


「こら、好きって言えー」


「好き、大好き!」


「私も〜」


梨乃が同じグループで良かった。切磋琢磨できるメンバーがいるって幸せなことで、梨乃を抱きしめながら甘える。

私がこんな風に甘えられるのは同い年の梨乃と年上のよっちゃんだけだ。


あとは友達の美沙ぐらいで私は親と不協和音だから分かり合えない。

売れていないアイドルをやり続ける私を親は認めてくれないし、だからこそ絶対に負けたくない。私は私の道を行く。

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