第7話/Love is Game

1.2.3…よし、ベストタイミング


狙っていた楽曲の途中、端と端で歌っていた私と梨乃がセンターになる瞬間、私は梨乃の肩を抱き寄せる。

この行為に私がSNSで載せた写真を見ていたファンが「みのりのー!」と叫んでいる。



【藍田みのり×松本梨乃=相乗効果】



カップル売りの相乗効果のお陰で、初めて美香と由香里への声援より私と梨乃への声援が大きく波に流されずに勝てた。

ファンの声援は力が漲るし、私の名前が呼ばれるとアイドルをやっていると実感する。私はCLOVERの藍田みのりだと。


もっと私を見てほしい!もっと私を応援してほしい!アイドルが楽しい!

ファンからの声援があり、歌って踊る時間は心から楽しめる時間で、梨乃もいつもより嬉しそうにしている。


アイドルは1人では成立しない。ファンあっての仕事だし、応援してくれる人がいるからこの仕事が楽しいし輝ける。

だから、もっと私を崇めて!もっと私の名前を呼んで!もっと私を求めてほしい。


「みんな、一緒に歌ってー!」


私の中のボルテージが上がり、大きな声で叫ぶ。今日は、初めてファンと一体化できた。

私がみんなを煽り、盛り上げ、最高の笑顔にさせる。みんなの視線が私に集中し、気持ちが爆上げになる。最高に楽しい!


海の底に沈んでいた私のキラキラが

海の底から這い上がり

私を纏い輝かせる。



ねぇ、みんなはどんなアイドルが好き?



私はキラキラと輝いているアイドルが好き。内面なんて見てるだけじゃ分からないし、だから外側が輝いているアイドルが好き。



この時間が最高に楽しすぎて、アイドルになって良かったと心から思える時間だ。

だから、つい楽しすぎて歌のラストで隣になる梨乃に抱きついた。


これはやろうとしてやったことではない。だからこそ、よりリアルでファンが歓喜する。

ファンと嬉しさを共有し笑い合う。梨乃は驚いていたけど今日は許して欲しい。


「みんな、次の曲に行くよー」


美香が次の曲を促す。この曲は私のお気に入りの曲だ。私の歌唱力が活かせる曲で、いつも心を込めて歌う。

それに唯一、センターの美香ではなくて端にいる私がメインを張れる曲だからだ。


ごめん…ちょっとだけ愚痴を言わせて欲しい。ずっと溜め込んでいた思いを話したい。

アイドルは歌が上手くても、メインボーカルになれても格差は残酷で、センターやフロントメンバーがカメラに抜かれることが多い。


目立つ位置にいかないと結局その他になり、大所帯のグループだと選抜に入れないと表題曲の歌も歌わせてもらえない。


長々と愚痴を言ってごめん。でも、アイドルの歌事情を知って欲しかった。

でも、愚痴はこれでおしまい。この曲は私がメインを張り、私が光り輝ける曲だから心を込めて歌う。


「みのりちゃんー!」


ステージ下から私の名前が大きな声で呼ばれる。ファンからの声援で体がゾクゾクする。

心を込めて歌うからみんな、ちゃんと聴いてね。ちゃんと私の歌声を感じて欲しい。



初めてだ…この曲は何回も歌っているのに、いつもと注目のされ方が違う。

みんなが私の歌声を聴いている。みのりの効果でやっと私の歌声が注目をされた。


梨乃、やっぱり一緒に頑張ろう。次の曲は梨乃の武器であるダンスを活かせる曲だよ。

次は梨乃が注目を集める番。やっと注目され始めたよ。やっと活路が見えてきたよ。


私達にはちゃんと武器がある。大事な武器を見てもらうためには自己プロデュースが必要で、私は梨乃とのカップル売りをする。





嘘も方便って言葉があるように目的を達成するためなら小さな嘘もつく。アイドルのカップル・カップリングとか何でもいい。

自由に表現できる時代、堅苦しいことは嫌われるし、好きなように楽しむのが一番だ。



【みのり×梨乃/みのりの】



何でもいいよ。みんなで楽しもう。私は売れるためなら何でもやるよ、できるよ。

だから、頑張るね。みんなが望む・見たいアイドル像を見せてあげる。


「最後の曲になります。それでは聴いてください。Love and Lies〈恋と嘘〉」


美香がタイトルを言った後、ニヤッと笑う。この曲の定番のポーズ的なものだ。

この曲はCLOVERの初めてのオリジナル曲で、メンバーとファンの思い入れが強く、いつもラストに歌っている。


◆アイドルは恋と嘘がつきまとう

◇人間は恋をする生き物だ

◆人間は嘘をつく生き物だ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る