第10話/罪深いカップリング
今日は朝からメンバーと一緒に動画の撮影をする。この手の動画コンテンツは売れていない・知られていない私達にとって大事なアピールをできるコンテンツである。
主に動画ではライブやイベント映像などを載せており、時々プライベート的な動画を撮ったりしている。
そして、今日は事務所が借りている小さなダンス場にみんな集まり、ダンス動画と練習の風景を撮ることになっていた。
レッスン着に着替えた私達は鏡の前でストレッチをし、みんなでダンスの練習をする。
マネージャーのよっちゃんはカメラの準備し画角などを確認している。
いつもサポートしてくれているよっちゃんはマネージャーの仕事を掛け持ちで担当し、忙しいのにカメラマンなどをしてくれるから本当に有り難く感謝しかない。
「みんな、音楽流すよー」
「はーい」
よっちゃんの言葉にみんなが顔の表情を引き締める。今から踊る曲はテンポの良い曲で、梨乃のダンスの上手さを活かせる曲だ。
この曲のライブ映像は撮ってはいたけど、ファンからダンスをちゃんと見たいからという要望があり固定カメラで撮ることになった。
私と梨乃が振り付けたダンス。この曲はアップテンポだからとても難しかった。
そんな、CLOVERの楽曲はアイドル好きの私が認めるぐらいオリジナル曲が良い。だけど、ファン以外に知られていない。
結局、どれだけ曲が良くても人の目に留まらないと聞いてもらえない。
CLOVERに足りないものは何だろう?と何が足りなくて、メジャーデビューをできないのか考えるけど…私には分からない。
一度、社長にメジャーデビューはいつできるのか聞いたことがあるけど、誤魔化せられた。私達は早く確約が欲しいのに。
「みのりー、集中して。ほら、撮り直すよ」
「あっ…ごめん。みんな、ごめんね」
よっちゃんに指摘され、慌てて頭を切り替える。私は考え込んでしまう癖があり、時々目の前の仕事に集中できないことがあった。
もしかして…私が足を引っ張っているの?
そんなマイナス思考の私は頬を叩き、今は前だけ見て集中することにした。
もしかしたら、この動画が人気が出るかもしれないし、アイドルは常にプラス思考でやらないと続けていくことができない。
やっとダンス動画を撮り終え、私は一息つくため横になる。激しいダンスナンバーだから一度踊るだけで疲れてしまう。
でも、頭を乗せている梨乃の太ももが柔らかく梨乃の温もりで体が癒されていく。
これはいつもの光景で、私がいつも床に寝っ転がると優しい梨乃が頭を乗せていいよって言ってくれるから甘えている。
その分、美香や由香里が私に散々甘えてくるから大変だ。今も私の体の上に頭を乗せ仰向けで携帯を触っている。
「みのり、前髪伸びたね」
疲れて目を瞑り、休憩している私の前髪を梨乃が優しく触る。髪をかき分け、時々おでこに触れる梨乃の手の温もりが心地いい。
梨乃にそろそろ切らなきゃねと言いながら瞑っていた目を開けると梨乃と視線が合い、思わず「可愛い」と呟いた。
「えっ、、」
「あっ、ごめん。でも、本音だよ」
私は可愛い子が好きで、小さい頃から女性アイドルが好きで推しメンもいるし、可愛い子を見ると口癖で可愛いと言ってしまう。
別に変な意味はないけど、唐突に言ってしまう癖があり、いつも相手が困惑する。
今も梨乃が困惑した顔をしている。これが美香や由香里だったら「でしょー」と自慢げに言うけど、梨乃は真面目な性格だから上手い返しが出来ない。
「みーちゃん。私も可愛いよねー?」
美香が携帯を触りながら、横を向き目をキラキラさせながら私に聞いてくる。
美香も可愛いよと言うと「でしょ」と言い、流石あざと可愛い最年少だ。
そして、由香里も「私は〜?」と聞いてくるから笑いながら可愛いよと言うと「笑ってる!」と言われ、拗ねた由香里にお腹を顔でグリグリされ痛いけど、2人のお陰で助かった。梨乃が本気で困惑し気まずかった。
「みんな、そろそろ着替えるよー」
よっちゃんの指示にみんなが起き上がる。私は梨乃にお礼を言い、伸びた前髪を触れながら立ち上がると隣に来た梨乃に腕を組まれ久しぶりに甘えられた。
梨乃が誰かに甘えるのは珍しく驚いたけど嬉しかった。いつも私が甘える方だから。
梨乃は大事なメンバーであり、友達で一番苦しみを共有している仲間である。
私は…そんな梨乃と勝手にカップル売りをしようとしているけど、本当に梨乃と一緒に売れたいと思っている。
やっと、掴み取ったアイドル人生を終わらせたくない。きっと、梨乃も一緒だよね…?
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