第11話

 ハーレクインではエニシダとボラゴが研究所で暇をつぶしていた。


「アシュガ様ったら、顔真っ赤にしてミチルなんか追いかけて」


 エニシダはハイヒールの音をかつかつと鳴らして足を組んで座った。ボラゴはまた始まったとばかりに尻尾を揺らして、前足を舐めた。


「そんなにぶつぶつ文句言ってんなら、追いかけていきいなさんな。そんなこともせずに暇を持て余して。ああ、もう愛しのアスター。今頃クリセンマムで何してるのでしょう」


 エニシダは重いため息をついて、窓の外の人だかり眺めた。古くも美しい背の高い家々が居並ぶ街頭。装飾されたドレスを身に着けて歩いていく女達。


「嫌よ、ミチルなんかに精一杯尽くすあの人を見るのは」

「だから、ぶつくさ追いかけていきなさい。それが嫌なら新しい男でも探すんだね」

「嫌っそんなの」


 立ち上がって出ていくエニシダを見ながら、悪魔というものはとその後姿を見た。人間界の人達を見下ろし大して変わらないもんだと嘆息する。

______どこもかしこもいなくなったアシュガ先生を賞金付きで探している。



「無駄無駄、クリセンマム」


 そんな猫の声も聞こえないほど人は騒いでいる。


「アスター、世界一間抜けで優しいアスター」

 

 そんなアスターの危機をボラゴは肌身で感じ取っていた。


「アスターは世界一優しい悪魔の猫」


 人だかりは一層ざわめきを帯びている。


「ミチル、アスターのためにも元気になって」


 一滴、涙が垂れた。その涙は花に落ち土の肥やしになる。


「早く戻ってきてアスター」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る