第12話

「アスター」


 アシュガはそばで心ここにあらずのアスターを呼んだ。アスターは「うん」といったきりで何も言わない。


「俺はお前が思っているほど無慈悲で残酷な悪魔ではない」

「なに、いきなり。そんなこと言っても信じないよ」


 高らかに笑うアシュガの声。


「ちゃんと悲しみも持ちあわせているんだよ」


 アスターは身震いをした。


「ほんとうに、なにいきなり」

「ミチルと、命ある限り生きるんだな」

「命あっての物種? 」


 アシュガはその通りとまた笑った。アスターは急に寒くなりベットの毛布に縮む。


「気持ち悪い」

「ひでえな、ありがたいと思えよお前ごときに」


 アシュガは振り向くと誰もいないことに気づいた。アスターはミチルの部屋へ行ったのだ。


「人にもなって、情が沸いてしまうとは」


 

 アシュガは自分の部屋に戻った。机の引き出しから古い紙切れを出す。そこにはこう書いてあった。


「舟来たりし頃、少女吐血せん。猫、悪魔と名乗り命滅せん。少女の病治る」


 これはハーレクインで見つけたクリセンマムのおとぎ話の端くれだった。おとぎ話のすべてを信じているわけではないが、一筋の希望を抱いたのだ。


「この猫がアスターかボラゴか知らないが、いずれクリセンマムでの発掘が進めば解明するだろう」


 アシュガは羽のペンを机に置いた。

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