第4話 ハニートラップ

 ハニートラップと題しましたが、わらびさんは、仕掛けた側ではありません。

 仕掛けられた、側です。

 インスタ映えしそうな写真を撮って、はや一週間。

 投稿した写真の閲覧数は伸びないものの、少なくとも、わらびさんは、町内では有名人になりました。シーパルピア商店街にお昼を食べに行けば、店員さんたちと、気軽におしゃべりしたりも、します。私の助手として、早朝魚市場のセリに行ったときも、そうです。初日に例の上半身ビキニで、セリ参加者たちの度肝を抜いたあと、彼女は一躍、魚市場のアイドルになりました。衛生管理がやかましくなっているから、上に何か羽織ってくるように……と職員さんから小言は言われましたが、これも織り込み済み。彼女は我が海碧屋のロゴが入った藍色のTシャツで、次の日からは、おとなしく助手の仕事をこなしました。そもそも、毎度百人弱が集まる朝のセリで、女性参加者は2、3人だけ。若い女性となると、わらびさんだけです。殊勝に仕事をしているのを見せると、買受人たちは、孫や娘にするように目を細め、優しくなりました。時には、彼女に頼まれて、カメラの前でポーズをとったりしたのでした。

 人間関係がこなれてくれば、町の住人との交流は、それなり、楽しいものです。

 けれど、わらびさんには、ただ一つ、不満がありました。

 若い男が、いない。

 そう、出会いが全然ないのです。

 でも、女川の人口構成を考えれば、仕方ありません。

 宮城県内で高齢化率、過疎率ともに二番の自治体なのです。人口の半分が還暦以上という事実を教えると、さもありなん、とわらびさんは肩をすくめました。ちなみに、我が海碧屋従業員の高齢化はさらにすさまじく、私とてれすこ君を除けば、平均年齢は80歳に及びます。

 1日の仕事を終え……撮った写真を我が工場事務所で整理しながら、わらびさんは愚痴ります。

 若い男が、いない。

「たまには、白髪やシワのないオトコと、話してみたい」

「じゃあ、今度白髪染めで、わらびちゃんみたいに金髪に染めてくるよ」……と、てれすこ君がジョークを飛ばしても、「おじさん、面白くない」と彼女はフラストレーション丸出しでした。

 ジト目で私たちを睨みつけるわらびさんに、てれすこ君が、夜の居酒屋に繰り出すことを、すすめました。昼間は原発勤めで町内で遭遇することのない若いエンジニアの男性たちが、夜は三々五々、駅前商店街に飲みに来たりするのです。もともと港町だけあって、人口に比して居酒屋の多い我が町のこと。1件目でダメだったら、次々ハシゴするのも、悪くありません。

「年頃の娘さんに夜遊びを進めるなんて、親御さんたちに顔向けできない所業ではあるけど、ほら、わらびちゃんの、結婚適齢期的にだね……」

「うっさい。てれすこのオジサン、一言、よけい」

「ごめん。ごめん。魚市場でもちょっとしたアイドル扱いだし、チャンスは多いにあるよって、言いたかったんだよ」

 女川は、確かに若いオトコはいないけれど、若い女の子は、もっといません。普通に愛想よくしているだけで、モテてモテて困るようになるよ……と、てれすこ君は、彼女を焚きつけました。

 わらびさんは、俄然、やる気になりました。

 シーパルピア商店街からは500mほど、連絡船桟橋近くにある、ダイヤモンドヘッドという居酒屋で、わらびさんはナンパ待ちをすることにしました。サーファー相手に商売しているお店だけあって、ガングロ金髪ギャルのわらびさんが一人で飲みに行っても、周囲から浮くということは、ありません。ハイボールをちびちびやっていると、てれすこ君の言う通り、若い男の団体客が、どかどかと半長靴の音を立てて入ってきました。

 皆が皆、迷彩柄のズボンと黒Tシャツといういで立ちです。

 自衛隊の人たちか? でも、戦闘服で酒を飲みに来ることはないだろうから、ミリタリーマニアのグループだろうか? わらびさんの頭脳が素早く回転します。彼らはみんなして、テーブル席につきました。わらびさんが、イケメンがいないか横目で物色していると、グループの中で一番でっぷり太った男が、わらびさんに好色な眼差しを向けてきます。

 でっぷりさんの隣には、幸薄そうな弥生顔の女性が席につきました。いや、そのでっぷりさんに無理強いされて、座らされたみたいです。でっぷりさんは、幸薄女の肩を太い腕で抱くと、ぐいーっと密着するように引き寄せました。体だけでなく、キスでもできるくらいに、顔も引き寄せています。幸薄女は、彼から顔を背けようとしていました。でっぷりさんの後について入ってきたノッポが、「何か注文しましょう」と大声を上げ、でっぷりさんを牽制しました。

「隊長、うるさいよ」

 気をつけ・休めの姿勢で、ノッポさんは、でっぷりさんの横に突っ立ったままです。

「申し訳ありません、総裁。自分、これが地声なもんすから」

「気が散るから、そっちのテーブルでビールでも飲んでろ。オレは、この秘書ちゃんに、大事な話があるんだからよっ」

「しかしですね。総裁」

「組織トップに向かって、口答えか、ああんっ。お前、そんなに偉いのかよ」

「違います」

「じゃあ、なんだよ。お前も秘書ちゃんを狙ってるのかよ。そりゃあ残念だな、色男。近頃の女の子ってのはなあ、ヒョロガリのヤサ男より、力のある男を好むもんなのよ。権力、カネ、そして腕力。分かるかよ、ああん?」

「入隊して一週間にもならない女の子を、いきなり秘書扱いするのには、目をつむりましょう。しかし、彼女のほうでイヤがっているのに、ムリやり連れまわして、セクハラ三昧をするのは、止めていただきたい」

「なんだと、コラ。幹部だと思って多めに見てりゃ、つけあがりやがって。表に出ろ」

 女の子を突き飛ばして立か上がるでっぷりさんを、ダイヤモンドヘッドのマスターが、まあまあと押しとどめます。

「フン。店長に免じて、許してやる」

 のっぽさんの脛に軽く蹴りを入れると、でっぷりさんは幸薄女を露骨に触りはじめました。おっぱいを触られたり、無理やりキスされたりして、幸薄女がやがて、しくしくと泣き始めました。その間、一緒についてきていた男どもは、テーブルに目線を落としたまま、ウンともスンとも言いません。

 情けない男どもに愛想をつかしたのか、幸薄女は、しきりに、助けを求める視線を、わらびさんに向けてきたのです。

 そもそも、わらびさんが酒を飲みにきたのは、イケメンにナンパされるためでした。こんなへんちくりんな団体の内輪もめに首を突っ込む気は、さらさらなかったのですが……。

「やめなよ、おっちゃん。酒がマズくなるだろ」

 わらびさんは、自分でも驚くほど、カッコイイ啖呵を切ってしまったのです。

「なんじゃ、お前は……ああ。どこの商売女だと思ったら、海碧屋のおっぱいギャルじゃねえか。そうか。ワシのテクニックを見て、お前さんもかわいがって欲しくなったってか。待ってろ。順番だ」

「んなわけあるか。寝言は寝て言え。このセクハラ・デブ」

「おー。おー。ずいぶんと威勢がいいこった。後で海碧屋のてれすこに、言いつけてやるからな。お宅のおっぱいギャルが、ぐでんぐでんに泥酔したあげく、ウチの組織を侮辱したってな」

「セクハラを注意しただけでしょーが……てか、てれすこのオジサンと知り合いなのか……てか、町内には、顔見知りだらけって、言ってたっけ」

「ふふん。残念だな。ワシは女川の人間じゃない。まあ、ヤツらとは因縁の関係ではあるが」

「本当に、あんたたち、何者?」

 あいかわらず腰を下ろしもせず、やすめの姿勢のままのノッポさんが、でっぷりさんの代わりに、答えました。

「ウチは、丸の内りばあ・ねっとというNPO法人です。そして、こちらが代表理事の牟田口総裁。自分は現地部隊の指揮官、富永です」

「丸の内りばあ・ねっとって……どっかで、聞いたような?」

「ふふん。姉ちゃん、その頭は飾りかよ。それとも、おっぱいに栄養が全部いっちまってるせいかよ。今度のコンペで、億の融資を賭けて対決する、積年のライバルだろ」

 言われて、ようやくわらびさんは気づきました。

「津波後の、大掃除」

「そう。それよ。なんだお前さん、スパイか? スパイなのか? そのおっぱいで色仕掛けして、ワシらから秘密を探り出そうっていう、魂胆なのか? 津波の後は金なくてピーピー言ってるって聞いてたが、海碧屋も落ちたもんだな」

「誰がスパイよ、誰がっ。あーしがハイボールを飲んでたところに、あんたたちがやってきたんでしょーが」

「お前さんのおっぱいに免じて、情報をちょろっと漏らしてやっても、いいぞ。その代わり、一晩つきあえや」

「誰が、あんたなんかと」

「クックック。気に入った。ワシは気の強い女が好きなんだよ。おっぱいもでかいし、お前さん、ちょうどいい。いいから、一晩つきあえや」

「しつこいなーっ。ストーカー扱いで、警察に訴えてやるから」

「ふん。お前さんが訴えたところで、石巻警察は何もせんよ。現にそれで、有名なストーカー殺人事件だって起こってるしな」

 水掛け論みたいな言い合いがしばらく続いたあと、結局、富永隊長の仲裁で、わらびさんは一杯だけチューハイをつきあうことになりました。幸薄女が、牟田口総裁の魔の手から逃れ、他の隊員たちのテーブルに逃げていきました。この一杯をつきあったら、河岸を変えようと、わらびさんは皿に残っていたピスタチオを平らげました。

 水滴のつくグラスを高々とかかげ、「カンパイ」と声を上げたところまでは、わらびさんの記憶にも残っていたのですが……。


「あ。気がついた。わらびちゃん、大丈夫かい?」

 わらびさんは、サウナに入っているような蒸し暑さで、目を覚ましました。

「ここ……どこ?」

「海碧屋の事務所。もう、朝……いや、お昼近くだよ。ここ、クーラー入ってないもんだからさ。暑さ、ごめんな」

 冷蔵庫の中のもの、勝手に飲んでいいから……とわらびさんに声をかけると、てれすこ君は、ほうぼうに電話をかけはじめました。

「いったい……何が……」

「それを知りたいのは、こっちのほうだよ、わらびちゃん」

 わらびさんを海碧屋に連れてきたのは、ダイヤモンドヘッドのマスターと、丸の内りばあねっとの若い女性隊員でした。夜遅くまで残って機械いじりをしていた船大工さんが、わらびさんをもらい受けてくれました。女性隊員は、わらびさんが起きたら、貞操の危機を救ってもらったお礼を言っておいてください、と言伝して、石巻線最終上り列車に乗っていったそうです。わらびさんが彼女の貞操を守ったのは確からしいですが、逆もまたしかり、らしく、弥生顔の彼女は、顔が腫れ、Tシャツの袖がちぎれそうになっていたそうです。

 てれすこ君が異変を知ったのは、今朝出勤してきてからのことでした。

 ダイヤモンドヘッドのマスターからお見舞いの電話が入り、その後、りばあねっとの富永隊長から、抗議の電話がありました。なんでも、わらびさんのせいで、新入隊員が無断で職場放棄して辞めていった、というのです。

「わらびちゃん。どーゆーこと?」

 てれすこ君に聞かれて、わらびさんは一部始終を話しました。

「そうか。一服、盛られたんだよ。貞操、危機一髪だったね、わらびちゃん」

 警察に訴える……と息まくわらびさんを、てれすこ君は、まあまあと止めました。

「でも、女の敵じゃん。あのカバ男」

「一服盛られた時の、チューハイとか、残ってれば、ねえ」

「卑劣漢をそのままにしておくと、別の女性が被害にあうんだよ、てれすこのオジサン。古だぬきは、退治できるときに、退治しておかなきゃ、ダメなのっ」

「化かされた女の子は多いけど、今まで尻尾を見せたこと、ないんじゃないかなあ」

「こっちには、裁判所職員がついてんのよ。やる前から、諦めモードってどういうことよ」

「わらびちゃん、それを言うなら、裁判所職員じゃなくて、元・裁判所職員でしょ。君がいくら法律に詳しいって言っても、向こうにも弁護士だのなんだの、ついてるよ」

「てれすこのオジサン、あーしの心配は、してくれないの? 悔しくないの? 薄情者なの?」

「りばあねっと絡みの事件、これが初めてじゃないんだよ。部下の女性隊員が、これまでも何度か、同じような事件で警察に被害届を出したけど、いずれも証拠不十分で不起訴になってるって話だよ。それどころか、反対に、名誉棄損で訴えられて大変だった、とか。泣き寝入りは数知れず。そもそも、りばあねっとっていう組織内の事件で表沙汰になってないのまでカウントしたら……わらびちゃん?」

「なんか、この毛布とシーツ、臭い」

「ああ。それも、あの牟田口総裁を訴えるためのマイナス材料みたいで……実は、わらびちゃんに一服盛られっぽい薬、抜けちゃったみたいなんだよね……」

「どーゆーことよ、てれすこのオジサン」

「君が担ぎ込まれたとき、すでにおもらし……いや、失禁してたみたいで」

 ダイヤモンドヘッドのマスターも、幸薄顔のりばねっと女隊員も、そうそう引き上げてしまつたので、船大工さんは致し方なく、そのまんま、つまりパンツもズボンも変えないまんま、彼女を布団に寝かせたのでした。

 少し顔を赤らめたわらびさんに、てれすこ君は言いました。

「知ってるのは、僕と船大工さんだけだよ。箝口令をしいておいたから、誰にも漏れること、ないよ」

 わらびさんは、てれすこ君にだけ聞こえるような声で「ありがと」とつぶやき、それから恥ずかしさを振り切るように大声で叫びました。

「シャワー浴びて、着替えてくるっ」

「うん。海碧屋さんが事情聴取したいって言ってるから、なるべくはやく事務所に戻ってきてね。ちょうどお昼どきだから、おかずやっていう近所の食堂から、冷やし中華を出前してもらうって言ってたから。それとも、他に食べたいもの、あるかな?」

「冷やし中華よりはカラアゲ食べたいな……てか。てれすこのオジサン、事情聴取って、なによ」

「ロボットの情報が、りばあねっと側に漏れちゃったみたいなんだよ。君がスマホで、この間撮ったロボットの画像が、なぜか、りばあねっとのホームページに載ってるんだ。そればかりか、今度のコンペは乗用ロボットで参加するって」

「パクリ、じゃん」

「パクリだよ。でも、海碧屋では今まで情報を秘密にしていたわけだから、これからウチでもロボットを使うって表明すれば、後発と見なされる。つまり、逆にこちらがパクリ扱いされる可能性、大なわけだ。で、対策を練る前に、まずは、情報漏らしちゃった君の話を聞きたい、と思ってね」


 冷やし中華五人前、唐揚げ定食一人前を注文したのですが、会議参加者は七人になりました。

 我が海碧屋の工場長・副工場長「両・昭子」が二人で一人前を分けるから、と言ってくれました。昭和一桁生まれ、当時はやりの、年号から一文字頂いた同名の二人は、「アラ・ナイ」アラウンド・ナインティという工場の長老です。二人とも、最初は旦那さんについてきて、工場のアルバイトからキャリアをスタートさせました。歩くのに杖もつかず、数を数えるのに足し算引き算の間違えもせず、いまだ、かくしゃくとした二人です。工場の指揮管理というより、「いつまでだって働ける」という象徴として、我が工場のトップになってもらっています。特に木下昭子工場長のほうは、十五年前94歳で引退した従業員の記録更新の期待がかかっている、久々のホープなのです。

 参加者のうち、残り二人は、まず、わらびさんをもらい受けた船大工さん、そして最後の一人は、やはり工場従業員で、秘密裡にロボット製作を担当しているおじいさん、通称「ヤマハ」さんです。

 一応、初対面ということで、ヤマハさんはわらびさんに自己紹介をしました。

「ロボットのガワ、ボディのペンキ塗り担当、だ」

 わらびさんは、唐揚げをむしゃむしゃやりながら、「ども」と頭を下げました。

「ヤマハさんって、珍しい苗字だよね。有名メーカーの一族、とかなん?」

「本名は、高橋だ」

 若いころ、彼はヤマハの造船場に勤めていたことがありました。主に木工で、ボート作りをしていたのですが、船底に塗るペンキ類がどうしても肌に合わず、わずか五年にして辞めました。その後、国内航路の貨物船やフェリー等、点々と海事関係の仕事をしていましたが、なぜかどこに勤めても、最初の会社の名前がニックネームになったのだそうです。

「なんでか分からんけど、年金暮らし始めてから、どんなペンキが皮膚についてもカブレること、なくなった。皮肉なもんだよな」

「へー」

「へー、じゃねえよ、お姉ちゃん。若いころ、皮膚が弱いせいで挫折した仕事、再びやろうって時だったのに、いきなり中止するかもしれねえって言われたぞ。それも、部外者の姉ちゃんのせいで。いったい全体、どーなってるんだ」

 ずるずると麺をすすっていた両・昭子さんが、まあまあ、となだめます。

 てれすこ君が、わらびさんに代わって頭を下げ、どうやらアイデアを盗まれてしまったらしい顛末を、説明しました。

「で? 社長、コンペを諦めるのかい?」

 そんなことをしたら、我が社は即、倒産してしまいます。

 てれすこ君が、ブツブツと考えてることを口にしました。

「りばあねっとのヤツらに、公式に抗議をする必要があるな……いや、アイデア泥棒されたって、女川交番に被害届を出さなくちゃな」

 私は盟友をなだめました。

「そこいらへんは、巧妙に、刑法ひっかからないように、対処されちゃってますけどね」

 モックアップそのものは、盗まれていない。海碧6号の写真は確かに彼らのホームページに掲載されていて、ロボットにて作業すると宣伝しているけれど、海碧6号そっくりのロボットを使う、とはどこにも書いていない。アイデア泥棒と告発してもいいけれど、そもそも数週間以内には公表するはずのネタである……。

「さらに言えば、著作権とか、特許とが実用新案登録とか、そういうアイデア保護措置もしてませんし。でも、これで、コンペには決定的に不利になったのは確かです」

 皆の注目が、わらびさんに集まります。

「……ごめん。ホント、ごめん。でも、それを言ったら、あーしだって、被害者だしっ」

 紅ショウガを皿のはしっこに寄せていた船大工さんが、ボソリとつぶやきます。

「逆ギレってヤツかい、お嬢ちゃん」

「ちげーし。あーし、キレてなんか、ねーし」

 でもやっぱりキレてるわらびさんと、ヤマハさんの間でヤイノヤイノ言い争いすること、30分。口の中がさっぱりするから……と工場長がほうじ茶を入れてくれたところで、疲れた二人は休戦しました。

「……りばあねっと側に、どこまで情報が漏れてたか分からないけど、相手が先にロボットで……と表明してしまってる以上、コンペに圧倒的に不利になったことは、確かです。責任追及もいいけれど、対策を練らないと」

 てれすこ君が、腕組みをしてうーんとうなると、わらびさんが決意表明しました。

「おわびの代わりと言ったらなんですけど、あーしも手伝うし」

「お嬢ちゃんに、何ができるって言うんだ?」

「広報活動。こっちのロボットのほうが有名になったら、審査の人たちだって、落としにくくならない?」

「ふん。どーせ、ウチのロボットにかこつけて、自分が有名になろうってハラなんだろ。ほれ。なんちゃらビーバー」

「それを言うなら、ユーチューバーですよ、ヤマハさん」

 鳩首会議をしても、りばあねっと側に対抗する、これといったアイデアが浮かびません。結局、やらないよりやったほうがマシという消極的理由で、わらびさんに手伝ってもらうことになりました。

「ふん。また情報を漏らさなきゃ、いいけどな」

「もう、そのへんでカンベンしてやってください、ヤマハさん」

「てれすこのオジサン、かばってもらわなくても、いいよ。部外者なのに会社が傾きそうな盛大なチョンボしちまったっていう自覚はあるからさ。社長さんも、ゴメンな。今度、すんごいエロいビキニで、ツーショットの写メしたげるから、とりあえず機嫌直してよ」

 ……全然、反省してないというか、コトの深刻さが分かってないようです。

 てれすこ君が、聞きました。

「でも、わらびちゃん、広報活動ってったって、具体的に何をやるの?」

 おっぱいはダメだよ、おっぱいは……とあらかじめクギを刺そうとするてれすこ君に、わらびさんは苦笑しました。

「実は、パイロットスーツを新調してきたんよ。もう一回、モックアップのところで、写真、撮らせてよ」

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