7ー1 ツケというのは
ぶふぅー。
咄嗟の機転が活きた。いや生きた。
俺じゃなきゃ見逃されただろう空気から生還すること暫し。トイレではなく保健室に籠城して時間を潰した。補習担当の先生が『ケツ破れてんじゃねえの?』と勘違いするほどに。
さすがに補習も終わっているだろう時間から始動。というか指導?
サボりがバレているのは間違いないだろうからね。
先生からの
なーに、削られていたであろう寿命を考えれば課題なんて号泣程度。
でもできることなら先生がいないといいなぁー、なんて希望を懐きながら教室の扉を引いた。
カリカリカリカリ、ボキッ。カリカリカリカリ、ボキッ。カリカリカリカリ、ボキッ
お蔭様で予想より遥かに危険だと思われる
ただひたすら一人で課題に取り組む様は、優等生は斯く在れとばかりだが、次々と鉛筆を折るのは環境的に見てどうだろう?
仄かに纏う闘気が景色を歪ませ、ラインのように引かれた色違いの髪が角にすら見える。
眼光で人を殺めることも可能だと主張する説得力のある瞳は怒りを宿し、室温の上昇に一役かっている。
…………間違っちゃったかな〜?
教室をじゃない。
秘孔でもない。
選択をだ!
真っ直ぐ帰りゃ良かった……。
俺の根が真面目なところが出てしまったのだ。鞄を取りに戻らねば、と。善良な人間であるが故の欠点ってやつさ……。
そして根が真面目で善良な俺としては、これ以上他人の勉強を邪魔する訳には行かないと考えるわけでして。
「遅かったね」
ポツリ呟かれた言葉に、ゆっくり閉じられていた扉が止まった。
うん、まあ……気付かれるよね。
教室にはキツ目さんオンリー。
その表情に修羅は無く、掛けられた言葉にも棘は無い。
怒ってないように見える。
「じゃあ、今日の課題……済ませよっか?」
見えるだけ。
「って言ってもあんたがいないうちに、あ、折れた……だらしない鉛筆ね。……あたしの分担の方はほとんど、あ、破れた……根性のないプリントね。……終わってたから、って邪魔な机の脚ね? つつつ机に脚っていいいいらないと、思わない?」
見え見え。
明らかに何か宿してらっしゃる。
七つの大罪的な何かを。
きっと団長格だな。
もしくは呪い。
握り潰した鉛筆とプリントを削り取った消しゴム、たまたま足が当たっただけなのに八つ当たりされている机の脚がそれを示している。俺の机なんですけど?
眼光鋭く、しかし内心を押し殺して不快感を与えないようにと笑顔を向けてくるなんてなかなかいじらしいとこもあるもんだ。
……でも引き攣ってんだよなぁ、笑顔。
怒り、溢れんばかり。
いや溢れてんな。
何があったのやら……。
「ハァ……」
「あ? なにこれ見よがしに溜め息ついてんの?」
一段と据わる目に恐怖。
他人の呼吸すら許せないなんて?!
女の子かな?
……怒りというのは暴走するエネルギーだ。捌け口を求めてさまよう。些細な事すら目に付いて、どうでもいいことが気に触る。攻撃的な衝動が妄想となって、性格を歪ませたりもする。
このままでは限界を越えて折れてしまうのが目に見えている……。
勿論、俺の机の脚の話ですよ。もしくは俺の心。
……だから仕方ない。
二次被害を防ぐための予防策と行こう。
手にギザギザした木片を持つ獣の元へ近付く。圧倒的なオーラだ。
近付けないよ、ってか近付きたくないよぉ。
キッツい目で見てくるキツ目さんをスルーして、自分のプリントやら筆記用具を手早く片付ける。
「片付けようぜ」
「は? なに帰んの?」
「いや?」
ここで帰ったら明日から地獄を見そうじゃないか……。さすがの俺も、補習で長々と面を合わせるであろう女子と気まずいままというのは…………いや意外と大丈夫かも?
慣れてるからね、涙出そう。
自分の方の片付けを終えると、今度はキツ目さんの方のプリントを纏めて鞄に放り込んでいく。
「はあ? ちょっ、ちょっと!」
「いいからいいから」
「いや良いわけないでしょ?!」
ゲシッと貰った一発は致し方ない。的確に肝臓だったことは置いておこう。
やや強引に帰り支度を済ませる俺に、訝しげというには不機嫌さが強過ぎる表情のキツ目。
二発目を頂戴する前に親指で教室の扉を差して告げる。
「よし、行くか?」
「……何処に?」
何処ってお前そりゃ。
「ストレス発散にだよ」
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