4ー2


 涼しいし今からどこか別の店を探すのも手間だし、という理由でそのまま勉強を始めた優等生感溢るる俺たち。


 キツ目が終わらせたという課題に釣られてしまい、そのまま勉強会の流れ。まだ終わっていない夏休みの宿題の方を両者テーブルに広げている。


 二人とも真っ白なのは燃え尽きたからじゃない。むしろまだ残ってるから白な訳であって……。


「これじゃ取り引きになんないでしょ?!」 


 あてが外れたキツ目のキツいところが出ている。


 サッと目を逸らしたのも仕方ないと思うんだ。その辺で勘弁してやって。


 互いが互いの宿題やら課題やらを見せることに合意。共に夏休みを取り戻そうと努力した結果がこれだ。友情も努力も勝利しないのが現実。俺が何したって言うんだ?!


「むしろ何もしてないから責めてるのよね。わかってる?」


「はい」


 ですよねー。


 しかし宿題を見せるという条件で課題を写させてくれるというロジックだったじゃないか。


 とは言い出せず、てか言えるわけがない。


 テーブルには手つかずの宿題。椅子にはアホ二人。


 絶望的だ。


 俺の夏、絶望。


「ていうか、お前もやってないじゃん」


「うんまあ、初日だし?」


 そこで課題じゃなく宿題の方を出してるとこに己の欲が現れている。一人だけ早く済まそうとしてたのは間違いない。


 いきり立っていたキツ目さんも冷静になったのか腰を降ろして深く溜め息。恐らくは今後の夏を思ってのことだろう。ガラス割ったりするからそうなる。ちなみに夏休みから休みは取った。いや獲られたと言っても過言ではあるまい。無いんだよ……俺らの休みなんてもうどこにも……。


「ええい、仕方ない! やってないならやらいでか! あんた、現国と英語どっちが得意?」


「両方苦手」


「なら数学とか化学は任せていい?」


「どちらも不得手」


「何ができんのよ?!」


 ダンボールに潜ったり同級生を気絶させたりならなんとか。


「とにかくやるわよ! 少しでも前に! 倒れる時は前のめり!」


 巻き込まないで。


 どうやらキツ目さんは手分けして宿題を終わらせようとしてるらしい。でも、しれっと自分の分を俺の山に積まないでくれるかな? 写すのが最終段階なら見せ合うだけでいいはず。


 スマホ片手に英単語を調べて書いていくキツ目さんに『早くしなさいよ』と視線で突き刺されながら数学の問題集を開く。


 仕方ねぇ。どうせやらなきゃならないのだし、やっていくか。


 教科書なんて気の利いたもの、俺の鞄には入ってないので、俺もスマホ片手に数学の問題を解いていく。合ってるかは微妙。そもそも検索して出て来た公式すら理解出来ない。


 英語や国語の方が良かった感あるな。どうもキツ目さんはちゃっかりした性格のようだ。


 そうだね。お礼と称して白紙埋め要員をゲットするあたりかなりの物だと思う。これが計算だって言うなら女性不信になりそう。違った。女性不信が深まりそう、だ。


 責任とって貰えるんだろうか。三食昼寝付きはデフォで頼む。


「ん〜? うん、ふん、むう? ……ねえ、これ分かる?」


「微塵も分からん」


「早っ?! あんたねぇ、もうちょっと考えるっつーことを覚えなさいよ。そんなんだから補習なんて受けるハメになんのよ」


 なんという自打球。しかもこちらにも流れ球が当たるという高度なプレイ。やめろ。


「英語はからきしなんだ。日本語じゃダメか?」


「日本語ならあたしも分かるわよ!」


 ええ?! そうだったの?!


「なによ?」


「いや失敬。そんな髪してるもんだからてっきり外人なのかと」


「思うわけないわよね? ……それにこれ、地毛だし?」


「嘘つくんじゃねぇよ」


 思わずノータイムで返答しちゃったじゃん。


「嘘かどうかハッキリする前に、そういうこと言うのは良くないんじゃない?」


「そんな一部が変色する地毛とかもう人類じゃないじゃない? 宇宙人じゃん。やっぱり外人じゃん」


「あんたの外人の定義、広すぎ」


「お前の地毛の定義には負ける」


 軽口を叩きつつも、お互いペンを動かし続ける。息抜きみたいなもので、ちょいちょい集中が切れそうになると声を掛けたり掛けられたり。


 これが試験勉強とかだとまた違うのだが、宿題やレポートといった埋めること重視の作業系は飽きが来やすいので適度な刺激が長く続けるコツだ。


 キツ目もそれが分かってるのか、オーバーなリアクションは無く、淡々とした印象でボケたりツッコんだりしてきた。


 この日は頑張って日没まで勉強したのだが、宿題が終わることは無かった。


 ほんと、夏休みの宿題とか考えたのは誰なのか。過去に戻れるのならワンチャン覚悟して貰おうと思う、夏休みの初日だった。


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