4ー1 炎天下の午後は


「まさかこう来るとは」


「違うのよ。言い訳させて」


「断る」


「じゃあいいわ」


 そこは必死こいて言い訳しろよ?! そもそもからして返しも冷淡だったわ! さては、ははーん? 最初からする気無かったね?


 どんなに危険だろうとご飯があれば行くのが男子高校生。常に飢えてる。


 涼を求めてファーストフードのチェーン店をハシゴする俺プラスワン。


 しかし誰もが似たようなことを考えるのか、どこも混み混みだった。昼下がりもいい時間帯、食事は終われども外に行く気が無い若人が席を占領。押し出されるように次から次へ。


 これにキレたのがツーライン(髪に線を引いたような色が入ってるので)キツ目系クラッシャー。


 三軒目を迎えんとする道中で突如進路変更。


 またぞや何処ぞのガラスでも割るのかなと眺めていると、パッと見では店舗に見えないお店に突撃。小さな平屋かと思えば焼き鳥やらタコ焼きやらを売っているお店のようだ。近付くと窓にメニュー表が貼ってあった。


「あいよ、あんがとさん! 今日もオマケ入れといたからね!」


「わお、ダンケッ! だから好きなのよ、ここ! また来るから!」


 小粋なやり取りを店主とかましてパックの山をビニール袋に詰めたキツ目が戻ってきた。


「そこの公園の木陰で食べるわよ! お腹限界!」


 俺にも店主に振り撒いてた笑顔をくれてもいいんだよ? 誰かさんの愛想笑いと違って毒も無さそうだし。


 有料なだけで。


 そんな訳で。


 女子高生とのランチ、イン公園となった。


 この炎天下の中でだ。


 …………これが、お礼……だと……?


 これまた隠れ家的な木のテーブルが木々の中にあって、そこに買ってきた焼きそばやらタコ焼きやらを広げての食事となった。飲料は瓶タイプのコーラ。


 手慣れた感じで十円玉を使って瓶の蓋を開ける女子高生。


 どうなの?


「ほい、っつかれー」


「うぇーい」


 しかしタコ焼きが美味そうなのでどうでもいいです。


 掲げられたコーラの瓶を合わせると、俺も蓋を開けてタコ焼きに取り掛かる。


「意外と涼しいな」


「でしょ? 意外と穴場なのよ。風も通るし、噴水もあるし……あれ? 十円玉渡したっけ?」


 なんか開いた。


 男子を十七年近くやってるとそういうことも出来るようになるんだよ。うん。タケッちなんてビール瓶を手刀で開けて親父にぶっ飛ばされてたから。鮮血帝だけに血だらけだった。


 その後、飲むしかないと嬉しそうな親父さんの後ろから出て来たおばさんが最強。そういう結論になった。鮮血帝のカーストが底辺で泣けた。


「え、なんでなんで? 凄いじゃん。どうやって開けたの? なんか裏技的なのがあるわけ?」


「悪いな、秘伝なんだ」


 流してくれるタイプじゃないらしい。サラッと断ってタコ焼きを一つ摘む。


 八個入りであろうパックに無理やり詰められた二個から頂く。すまないオヤジ、サービスは俺が受け取ることになった。


「あ、美味い」


 タコがデケェ。


「そうなのよ、ここのってタコが大きいのよねー。って、直ぐ誤魔化すわね、あんた。なんなのそれ。癖?」


 別に誤魔化してる訳じゃないけど。


 ほら、タコ焼きが口に入ってるから、喋れないだけで。


「あたしのこと見てたのも誤魔化すし、補習の理由も誤魔化すし、コーラの蓋も誤魔化すしお寿司、良くないわよ? そういうの」


「いま……」


「ほらまた誤魔化そうとしてる」


 どっちがかな?


 なんなのそのヲタクに寄せました的な発言で滑っちゃったみたいな事故。見逃せねぇよ。指ピンクに染めてるくせしやがって。


 顔までピンクじゃねぇか。


「最初見てたのは、俺の席に座ってたからだ。言ったろ? あそこは俺の席なの」


 視線にビビったのは目を逸らした方の理由なので。


 訊かれてないし。


「……それはまあ、証拠もあるし、信じてあげなくもないわ」


「補習の理由は真実しか話してない」


「虚言癖?」


 嘘じゃない。


「事実は小生より奇なりって言うだろ?」


「そんなことないわよ」


 どっちの意味だろ? 振っといてなんだが傷付いた。


「コーラの蓋は一子相伝なんだ」


「けち」


 ケチじゃねぇよ。


 めんどくせえだけだ。


 話は終わったとばかりに再びタコ焼きを摘み上げて……あれぇ? もう残りが一つなんですけど? サービスしか残ってないんですけど? 疑問を心にコーラで流す。


 モグモグと動く対面に座る口が疑問を解いてくれる。奢りとはなんなのか、それを教えてくれる光景だ。


「なんか嘘くさいのよねぇ、あんたって」


「初耳だ」


「そういうとこよ。あんたは…………あん……そういえば名前なんだっけ?」


「ショックだ」


「何言ってんのよ、あんたもあたしの名前知らないでしょ? ほら、知ってるっつーんなら言ってみ?」


「お互い初対面なんだから、まずは自己紹介からがいいと思うんだ」


「ほら誤魔化す。なんか他にも色々誤魔化してそうね? それにまずはって何よ、まずはって。そこからどこに発展する気よ」


「近くに愛を育める宿屋があってだね?」


「そこは誤魔化しなさいよ」


 お互いが冗談だと思っているせいか感情の起伏が無い平坦な会話だ。渡された焼きそばを受け取ってズルズルと啜る。


「具がデケェ」


「そうなのよ。いーでしょ、ここ? 毎回同じ具じゃないんだけどね」


 今日は海鮮。エビとイカとキャベツがマシマシ。


「それで……ほんとに名前なんだっけ?」


 若干申し訳無さそうな顔のキツ目さんだが、気にすることはないと思う。


 俺も同じな訳だし。


 恐らくは補習にボランティアと共にする時間が長そうなだけに、覚えておいて損はないだろう。咄嗟に呼ぶ時とかに困るしね。キツ目とか呼んだらそれこそキツい目に合いそうで……うん。


 自己紹介しようぜ!


 木陰では、暑さを前に涼しい風が吹いていた。


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