2ー2
とりあえず保留ということにして、本日の活動というか高城さんの言うロバの耳を受け止める為の井戸となった午後。
最終的には拡散していいんだよね? という確認は取らずに解散となった。愛想笑いを除くと冷たい顔が残るだけの美少女にそんなこと言えない。
消されてしまう。割とマジに思ってる。
見送りまでしなくちゃいけないのかと車に乗り込む何か言いたげな高城に笑顔で手を振り、帰りは正門から帰っていいとのことで無駄足となった車用門前。
静けさに蝉の声だけが響く。生憎と歌人ではないのでエアコンの効いたお店を目指そう。店内に流れるアニソンが僕らの染み着いた
頑張ってる部活生も残ってる補習生もいない学校のグラウンドを横断していると、やや不思議な気分だ。そりゃ、わたしはここだぞ! 言いたくもなるよな。書かないけど。
せめてもの抵抗としてここでキャンプでもやってやろうかな? 夏らしく。
川の中州でバーベキューやって取り残される同級生よりも安全、そんな意味も込めて。他の意味? 補習が酷いアピールだ。虐げられてると伝えたい。
僕の夏休みは学校なんですぅ、もうここしかないんですぅ、って。どうだ? ははは、別に頭が沸いたわけじゃないよー。
まだ。
グラウンドの真ん中なんかに立ってるからそんな考えが浮かぶんだ。変な解放感。さっさと横断するべし。
纏わり付く熱気に抵抗の汗を浮かべながら歩いていると、渡り廊下のベンチでアイスを食べている涼し気な女生徒を発見。
「あ、いた」
「嘘だろ……」
俺の分ないのぉ?!
いつか見たキツ目……えーと、うん。
キツ目さんだ。
「おいすー。なーに? あんたどこ行ってたの? 探しても見つかんないし、そもそも電番知らないし」
「井戸だ」
知らない方がいい情報が反響して聞こえてくる系の。
「井戸ぉ? なに言ってんの? 頭沸いてる?」
「その通りだ」
見て分かんない?
「おー、これはこれは、重・症。なんか顔歪んでるもんね。んん? いや、元からか……」
蜃気楼だよ。今日の気温考えて。
渡り廊下の影に入るだけで温度が数度下がったように感じる異常気象。キツ目の隣に腰を降ろす。一先ず汗が引くのを待つことにした。焼けちゃうだろこれ? 料理的な方で!
「汗だくじゃん」
「グラウンドの日当たりが良くて……」
「そりゃそうでしょ」
ほんともう冷夏はどこに?
「ん」
ん?
クイッと突き出されたアイス、バータイプのチョコチップ。なにしてん?
わたし、気になります。
「いらないの?」
疑問顔を疑問顔で返された。いるかいらないかで言えば欲しい。いや、でも、これ、あれじゃん?
陰キャ陽キャ格差が現れてる予感。なに? そんなの気にするほど経験値低くないとかか? レベルの違いを垣間見た。
ザコはザコらしく退散するとしよう。
手の平を向けて首を振る。いらないアピール。
「ポテトとコーラが食い掛けのアイスに……なんて錬金術」
ただ捨て台詞ぐらいは許されるでしょ?
「えー、頑張って探したんだから相殺じゃない?」
何と何が?
乙女の計算に戦慄である。何もしなくても支払いが発生するお店みたい。
溶け掛けのアイスを再び口にするキツ目を横目で確認。……惜しいことしたかなぁ? そのキツい視線を除けばキツ目は美少女だし。
自販機が鳴らす低い駆動音を聞きながら汗が引くのを待つ。
「よっ」
食べ終わったのか、キツ目がアイスの棒をゴミ箱に投げた。縁に当たって舞い上がった棒がクルクルと回転しながら隣のゴミ箱へと入る。そこを嬉しそうに指差しながらキツ目が笑顔を向けてくる。
「おっ、見た見た?」
「見てない」
スカート短めだけど隣に座ってたらそりゃ……。
「いやいや、ゴミ箱あんたの目の前じゃん! あたしが一発で投げ入れたの見えたでしょ!」
ああ、そっちか。
「いや見てない」
「盲目か!」
でも見たって言ったらお金取るんでしょ?
言質を取らせないスタイルを貫く俺は何度も、ノーだ、ノーカンだ、と首を振る。
「なんでよ! まだ時間残ってたじゃない! よく見て!」
「ノー! ノーだ! 戻って!」
「インチキよ! ブイを見れば分かるんだから! やってられない! 本気なの?!」
「ピー! レッド!」
「バスケのつもりだったんだけど?!」
バスケにレッドカード無いの?
ケラケラと笑うキツ目を横目に見ながら、もう汗もいいだろうと立ち上がる。
「あ、行くの?」
「ああ、止めないでくれ」
「うん、まあ、一緒に行くし?」
うん? なんで?
不思議面で振り返ると白けた視線を返された。
「いや、ご飯奢ったげるって言ったじゃん。なんのために探したと思ってんのよ。ワンフーのどっかでいいでしょ?」
「ワンフー?」
カンフー的な何かかな? この拳は俺の奢りだ的な?
「ファーストフード」
嘘だね。それは絶対嘘。
しかし奢ってくれるというのならどんな嘘でも受け入れよう。ワンフー行こうワンフー。
俺を追い越して先導するキツ目に付いていく。同じ学年なので何処に向かうか分かる。下駄箱だ。キツ目さん、まだ上履きだから。
外靴のまま校舎に入るわけにも行かず、外から下駄箱に向かうため別れようとしたところでキツ目さんから声が掛かる。
「そういえば、あんたって高城と知り合いなの?」
再び滲み始めた汗は、日陰から出たことが原因だろうか。
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