1ー2


「はい、やり直し」


何故なにゆえ?!」


「……いやお前。そんなに空欄ばっかでよく通ると思ったなぁ? せめて八割は埋めてこい。ちなみに正解率が五割切っても再提出なので、そのつもりで。残ってる分と合わせて宿題な。放っておくとどんどん溜まっていくから気をつけろー」


 そんな?!


 既に山のような夏休みの宿題出しておいてこのうえ更にだと?! あんたら血も涙も無いと言うのか!


「はーい、血も涙もありません。先生はシステムの一部、機械です。社会を廻す歯車です。分かったら文句言うな。宿題増やすぞ?」


 口下手な俺の代わりに文句を言ってくれた同士が撃沈されている。君の犠牲は忘れない。似たような仕草で拝む他の同士と共に黙祷を捧げた。


 補習も終わり昼。


 補習に来たのに勉強量が増えるといった優等生足る我々は、死相を顔に浮かべながら帰宅の途につく事となった。


 普段なら遊びに行こうなどと飛び交う軽い言葉もなく、ただ黙々と帰る準備をする我々。一人、二人とソルジャーどもが消えていく……。


 呆然自失となっているのは、全てのプリントがやり直しとなった俺と宿題を増やされた彼ぐらい。


「ね、ねぇ……大丈夫?」


「いやダメだ」


 見て分かれ。


 そういえば居たね。その視線が刃物なのでなるべく視界に収まらないようにしていたから気付かなかったが、居たね。


 女子が。


 今は何故か目尻が下がり気味で普通のラインのせいか怖くないけど、プリントを睨む目なんか人を殺しそうだったから。正面に立てない系女子だ。


「だ、ダメって……何が?」


「俺が」


「レスポンス早いんだけど! いやいや、自分のことそんな風に言うの良くないよ? もっと自信持って! 当たって砕ける精神で!」


 ダメやん。


 ……ところでこの女子はなんで帰らないのかね? もはや教室には採点してる先生と俺らだけとなっているのだが?


 早く帰ってくれないと俺の土下座を目撃する奴が一人から二人に増えちゃうぜ?


 疑問が顔に出たのか「たはは……」なんて愛想笑いを浮かべるキツ目さんがおずおずと教科書を返してくる。


「いやー……あはは、ごめん、助かった。でもそのせいであんたが犠牲になったのかと思うと、どうも……ね? ていうか、あんたそんなに頭良くないんじゃん! それでよく教科書貸せたね? なに? あたしに惚れちゃった?」


「寝言は寝てどうぞ」


 キツ目は机に頭をペッタリ載せた。


「あたしに惚れちゃった?」


「面白いやないか」


「お前ら早く帰れー」


 先生のツッコミに顔を見合わせると、それぞれ席を立つ。


「ナイスツッコミ」


「あれはタイミング測ってたね」


「うるさいぞー」


 そそくさと教室を出ると、キツ目さんと二人。まるで仲良しみたいじゃないか。


 こんなバカと。


「……なんで嫌そうな顔してんの?」


「そんなまさかー」


「めっちゃ顔顰めてたから分かるよね?」


「おっと時間が……」


 着けてない腕時計を覗き込んで一歩先に出る。


「待って」


 しかし腕を掴まれる。


「お願い、流して」


「むしろ流してあげてるからの対応だから。そうじゃなくてー、教科書のお礼してあげるって言ってんの」


 いや言ってない。初めて聞いたんですけど?


「お礼? それは体で?」


「死ね」


「では体に?」


「死ね」


 やだな〜、語尾が違うでしょ? 御礼参り的な意味ですよ。いや普通に嫌だけど。


「そうじゃなくてー、普通にお茶でいいっしょ? かわいい女の子とお茶、どうよ?」


 自分で言うスタイル、流行んねぇかな……。


「あ、自分、お金持ってないんで」


「なんで払う前提なのよ?」


 カツアゲなのかと。


「ハァ〜〜、お礼って言ってんでしょ? お・れ・い! おごるわよ。……なんでビックリしてんのよ。あ、高いのとか無理だからね? ポテトとフリードリンクくらいで」


 なんとタダ飯でしたか。


「つまり罠ですね?」


「いやー、あんたの半生に興味湧いてきたわ。どうしたらそんなに捻くれるの?」


 俺も君に興味あるよ。どうしたらそんな目になるの?


 意見の総意が取れたところで歩き出す。まあ、ちょうど昼だし、ご飯はいくら食べてもいい。


 しかし階段に差し掛かった辺りでサイレントを解除したスマホが震え出す。 


 注目されながら胸ポケットから端末を取り出して見てみると。


 そこには前回から登録された名前があった。


 同じ引きじゃねぇか。


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