15ー3
「そう……私の事が嫌い過ぎるのね。それは悪いことしたわ」
「あ、いやそれはアレっすよ」
本音。
なんて言えるわきゃなく、心臓がバクバク、いやビクビクしてる。あれ? おっかしいなぁ、メガネ君はまだか? 早く先生連れて来て!
いつも通りだ。
高城はいつも通り、背筋をピシッと伸ばして制服をキチンと着こなし菩薩のような微笑みを浮かべて――顔に青筋立てている。あかん。
あれれぇ? 高城さん、頭にバッテン表記付いてるよ? 古典か。
言ったら終わるな。
「まずは誤解から訂正しておきましょう」
「あ、大丈夫です」
「訂正します」
「はい」
一言述べただけでも大したもんですよ。
正座も相まって怒られてる感が凄い。あのね、あれだ、帰りたい。
「確かにショックは受けました。しかし私自身、そう感じたことは全くないので、あなたの見解は的外れです。なので、あなたから見た私がそう見えたことに対してのショック、とでも言うんでしょうか……」
あたしって他人からそう見られてたの?! 的な?
嘘つけ。
「それと、あくまでショック程度のものです。傷付いた訳ではありません。誤解しないようお願いしたいのですが……あなたの言葉に、そこまで影響されるようなことはありません。自己評価が高いんですね?」
殺せ。
あとここで哀れんだ目はやめろ。死にたくなっちゃうだろ?
「なので、あの発言に起因してあの部屋に行かなくなったという事はあり得ません。誤解は解けましたか?」
「あ、死のう」
「大丈夫ですよ、怒ってませんから」
聞いてないな? いや怒ってないって……。
「次は私が傲慢だという件についてなのですが……」
あ、続くんすね。オコなんすね。
「これがあなたの言う『お金持ち』由来なら私には一言もありません。そうなのでしょう。しかし……それにはあなたの卑屈さから来る偏見が混じっているように思えます。違いますか?」
「いや、それは別に……それは、別に……」
勢いで言っただけやん。別に、って言ってるやん。いいんじゃない、って言ったやん。
「別に、なんですか?」
「いや……別に」
フイッと視線を逸らしたら、バッテン表記が二つに増えた。
ニッコリ強め。
「ハッキリしない方は嫌いです」
フゥ、と吐き出された溜め息が鎮火していた怒りに火を点ける。
はいガッチン。
ハッキリが好きなのね?
了解。
「……そうだな。俺も嫌いだわ〜、嫌だ嫌だって思ってんのに口に出さず態度に滲む奴」
どっかの毒女とかそうね。ジワジワと滲んでますよ? その瘴気。って何度注意しようと思ったか。
漏れてんだよ、今もこの前も、色々と。
ピシリ、と何処かで何かが罅割れる。
「……誰のことでしょう?」
「え? ノートにポエム綴っちゃう、なんちゃって内弁慶さんですけど?」
自覚があるのか高城の頬の血色が良くなりバッテン表記が三つに増えた。どこまで増えるのか楽しみだ。あと健康促進に助力してやったんだから感謝しろよ?
観察していたせいかバッチリと視線が合うものの、今度は逸らさずに受け止めた。
「その、人を小馬鹿にした言動と揶揄するような口調が嫌いです」
「毒女」
「勝手な思い込みや突拍子のない行動が迷惑です」
「ドS」
バシンと床を打つ高城から笑みが消える。こっちには最初からない。
「大体あなたが鍵の掛かった立入禁止の部屋でダンボールなんかに隠れ潜んでいるから!!」
「一人きりだと思い込んで自宅でもないのに呪文垂れ流すから黒歴史なんか生まれんだよ!!」
「あなたの言ってることには理解できないものが多数見受けられます! 人に分かって貰いたいならもっと共用の言葉で喋りなさい!」
「お金持ちの常識かなんか知らんが突然引っ張り回すとかお前の頭の中はどうなってんじゃ! 俺にも内巻きにも謝れバカ女!」
「人間関係は楽しい楽しくないで括れるものではありません! そんなことだからその幼稚な二元論から卒業できないのですよ、この不良!」
あーはん?! こんな優等生捕まえて?! 今初めて怒ったわ!
もはや声を潜めることなく両者立ち上がって睨み合いながらの至近距離。高城より背が高いせいか俺だけ階段下に頭が擦れて『く』の字だ。おかげで頭が痛い。やめろ。近づくな。これ以上下がったら潰れ、ははん? それが狙いだな? っこの!
「性格破綻者!」
「それはあなたでしょう?!」
「でた
「私のどこが破綻していると言うのですか?! またノートですか? 人の弱みに漬け込んで……!」
「いや手が滑った振りして俺を爆殺するとことか」
「あれはゲームじゃないですか?!」
「ゲームっていうのは遊びじゃないんだよ! 今や常識ですよお嬢様!」
「あなたの言うこと為すこと全部が変です! 嫌なことから逃げていいわけがないでしょう? あとには何も残りませんよ! 誰が言っていたのか知りませんけど!」
「俺の詐欺師師匠をバカにするな!」
「犯罪者じゃないですか?!」
アニメ三期待ってます!
しばらくあーだこーだという言い合いが続いた。あまりに白熱していたせいか、近付いてきた白衣に全く気付かなかった。
俺も高城も。
「……どういう状況かね?」
保健室の蓑虫、ではなく我が校きってのマッドティーチャーが、珍しいことに困惑した顔でこっちを見つめていた。
瀬戸先生、珍しいですね? 科学準備室にいないなんて。
どうやらメガネ君の援軍などではなく、ただ単に通り掛かっただけのようなのは、一人だったから分かった。
だからといって状況が良くなるわけでもないけどね。
ちょっと待っててくれる? もうちょっとで言い負かせられるから。
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