15ー2
ゆっくりと手を離す。
とりあえず噛みつかれた右手は色んな意味で取っておくとして、どうしよう。
勢いのままやった。今は後悔してる。
もう偶然を装うとか無理じゃんね。どう考えても一連の事件が俺に結びつく。犯人はお前だ言われてしまうまである。
メガネ君の足跡を目で追い続けるのも限界だろう。というか、彼の終着点が職員室なのだから色々と時間がない。早く話を振らなければ。
だというのに……顔を前に戻せない。
「ハァ……」
吐き出された溜め息にビクリ。驚かさないでよ。誘惑してんのかと思ったじゃん。うん。無理あるな。うん。
仕方なく(実行犯)、渋々と前を向くと、いつの間にやら体勢を変えて中腰でこちらを上目遣いに見ている高城さん。
しかもジト目。
そんな表情もできるんですね? 意外〜。
「ハァ」
再び吐き出された溜め息に続く言葉を躊躇する。
やあ元気? ところで最近見掛けないよね? 清々した。なんて言える雰囲気じゃなく……むしろこれから裁かれそうな勢い。
俺が何したって言うんだ?!
階段の下はお世辞にも綺麗だとは言えないのに、粛々と正座を始める高城さんに、目で促せられる。
(あなたも座ってください)
嫌だ。
なんてねー、勿論嘘だよ? だから俺、いつもの高城さんがいいな? ニコニコ笑う君が好きさ。圧迫感あるジト目をやめて貰いたい。
膝を突き合わせて正座する両者、片方は真っ直ぐ、もう片方も真っ直ぐ斜めに、見つめ? 合う。
どうやら話の切り出しは後者に求められているらしい。
なんて言おう……。
当初の予定通り「やあ、奇遇だね?」から入るかな。いやサイコじゃん。パス。「実はこれには深い事情があって……」ってなんだこれ。浮気で瀬戸際の旦那か。無い無い。「モヤモヤしてやった。今は後悔してる」犯罪者か。捕まる。
吐き出す言葉が決まらないまま視線を合わせたら――それはスルリと口を衝いて出た。
「俺はお前のことが嫌いだ」
ええ?! なんで?!
驚く高城さんと俺。俺もかよ。いや自分で自分がビックリだよ。
しかしスッキリしてやろうなんて考えていたからか、吐き出すべきモヤモヤが止まらない。
「眉目秀麗で頭も運動能力もスタイルも良いんだろうけど性格がね、ハッ! 笑っちゃう。あの瘴気放つノートを別にしても八方美人が過ぎるだろ。真面目か。嫌なことからは逃げてもいいんだよ俺の尊敬する人物もそう言ってたなのにお前ときたら合わない奴らと遊んでしたくもない会話に乗って浮かべたくもない笑みを浮かべてモヤモヤするわ。楽しい? うん? 楽しいんですか? まだ初対面だっていう金髪とゲームしてる時の方が生き生きしてたわ俺を爆弾で吹っ飛ばした時ね分かる? あと意識せずに放つ傲慢さもムカつくけどそれは別に金持ちだからねいいんじゃない、いいんじゃないの別に? 自分の事が嫌いなんじゃないのとか言っちゃっていやーめんごめんご俺がお前のこと嫌い過ぎるからそう見えちゃっただけかもしれんね傷ついちゃったのは分かるけどそういう時って連絡するもんなんだよアンダスタン? そういや最近来なくなったのはそういう理解でいい?」
なるべく一息に吐き出して、
オゥ、結構溜まってたんだな、俺。土日の消化が痛かったか。ストレス発散する日なのにストレス溜めるだけだったもんな。
背中を伝う汗に耐えて返事を待ってると、流石にフリーズしていた高城が、今言われた言葉を飲み込まんと動き出した。
「まず最初に言っておきますが……最近、あそこへ行けなかったのは夏休み前の生徒会業務を手伝っていたからというのがあります」
うん?
「連絡は……一応、あなたのご両親を通じて行っていたのですが不備があったようですね。念の為を思って直接しなかったのが問題でした」
よし帰ろう。
「待ってください」
立ち上がろうとした俺の手を高城がガッチリ掴む。もはや汗が全身を侵食してる。いや〜、暑いね〜?
外れないかな? と腕を振ってみるもガッチリだ。下手しなくとも潰そうとしてない?
「座ってください」
「はい」
断れる訳もなく、再び正座。今度は膝が本当にくっついている。近い。逃さない気のようだ。助けて。
いかん。
完全に言うだけ言ってスッキリ、壊れて清々、なんて考えていたからか、今の状況はデンジャーだ。向こうも悪いとこあったでしょ? という論法だったのに、悪いのは俺の血筋ときた。ハハハ〜、もう笑うしかねえな。
こちらの笑顔に高城もニッコリ。
「それも浮かべたくない笑顔かしら?」
いやヒンヤリ。
白旗はどこだ?
ポケットに手を突っ込んでハンカチを振りたいところだが……果たして許してくれるだろうか……。
色んな意味で。
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