15ー1 お前のこと
効率を重視する奴の考えは読みやすい。
奴ら、どれだけ時間を削りバッファを持たせ体力を残せるかしか考えてないからね。移動中に寝ればいいってなんだよ。そんなの睡眠じゃねえ! そこに楽しみなんてない。あるのは効率非効率だけ。
大仰なこと言ってるが、最短距離を行くよね? ってだけだ。
高城が教室を出て進むのは、右か左。大穴で窓から飛び降りるというのもあるが、それはないだろう。
スカートだもの。分かってる。
だから窓の外で待つという選択肢を除けば、職員室に行く最短ルートである左に曲がるだろう、というのが効率的な考え。ちなみに右に曲がる方が階段は近いのだが僅かながら遠回り。こっちのルートを選ぶ奴はめんどくさがりだ。
心理的に職員室に行きたくないと思っているから遠回りする。面倒だから。体力的にはそちらの方が苦しいのに。
ちなみにモブはこっちに来た。高城は……。
左。
予想通りのコースだ。
ストーカーの如く付け回す予定だが姿を見られる訳にはいかない。あくまで自然に接触して、自然と話題を出して、自然と来なくなった理由とそれに対する文句を言わなければならないので。
ここで直ぐ後を追うのは素人だ。
もし階段のある曲がり角に居なければ、咄嗟に顔を引くだけで身を隠すことはできなかっただろう。知らないクラスに乱入することになった。危ない危ない。
…………もういいかな? いやまだだ! あの疑り深い奴のことだ、まだこっちを見てるかもしれない?! もう少し様子を見よう。顔を出して視線がバッチリ、恋に落ちるなんてことはないのだから。むしろ地獄に墜ちるなら分かる。
耳を済まして足音を聞く。
高城は後ろを見ながら歩くなどの前方不注意をしない。再び歩き出した音を聞いてホッと一息。再び顔を出す。
よし……よし行け! そのまま行ってくれ……! ってこれなんてホラー?
汗を拭いながら危険人物が向こうの階段のある曲がり角に消えたことに緊張を解く。
しばし様子見しつつ、後を追うべく足を踏み出そうとした瞬間!
再び1組の扉がガラリ。
高速のバックステップで発見を回避。
誰やら出てきたぞ?
メガネ君だ! ここぞという時にスリーポイントを決めようと、メガネ君が言いつけを破ってやってきた! お前なんてメガネじゃねえ。メガネ君を返上しろ。
キョロキョロと顔だけ出して周りを警戒するメガネ君は、誰も見てないと知るや教室から出て――左へ。
高城の後を追う。
マズい。これは合流する気だ。
もしくは他の
後にしろよ〜。
メガネ君もメガネ君キャラ通り効率重視なのか、はたまた窓から高城が行く方を確認していたのか最短距離を行く。
作戦が台無しになってしまう。
仕方ないので振り返り、全速力で階段を降りる。全段抜かし。膝のクッションを全力使用、勢いを殺さず二階、一階へと駆け下りる。
そのまま今度は高城が降りているであろう階段の方へ駆ける。
腰を低く外廊下を介して階段下をキープ。
どうやら高城は途中途中で立ち止まり、警戒……というか疑問を解消するために周りを見渡しながら降りているらしく、まだ下までついていなかった。
階段下に身を潜め、なんで階段は透明じゃないんだ?! と理不尽を嘆いていると、真上を降りる足音と遠くから近付いてくる足音が反響し混じり合いながら聞こえてくる。
真上の足音は、それを聞いたのだろう、足を止めた。
ピンチだ。
そしてチャンスでもある。
殺られる前に殺れ精神だ。
接触される前に接触すればいいのだ。頭にいい〜。
ほぼ条件反射の域に達しつつある即断即決で体を躍らせ、階段の上に注意が向いている高城の口を後ろから塞ぎ、体を引き寄せるようにそのまま階段下へと引っ張った。
抵抗が酷い。
咄嗟に手を噛まれたことはまあいい……いや痛ぇよ?! キャラと違うくない?! いいとは言えないけどまあいい。しかしこちとら別に胸を揉んでる訳でもなく腰を抱いただけなのに足の親指を的確に踏み抜かれたのは代償としてはデカい。つ、爪が?! 爪があああ! 両手が自由だったなら何をされたのか……。封じ込めれたのが勝因。
いや勝ちて。
「ムーッ! ムーッ!!」
「うるせえ。静かにしろ」
これ見られたら言い訳効かなくない? 大丈夫?
細い腕のどこから力を出しているのか、万力のような力で拘束を抜けようとしていた高城が、聞き覚えのある声を聞いて抵抗を弱めた。
あ、そうか。知り合いだと分かればいいのか。そうだな。
階段下というスペースの都合上、至近距離になるが顔の判別ぐらいつくだろうと高城の顔の横から、自分の顔をヌッと出す。
「俺だよ俺」
へへへ、オレオレ。オレですよオレ。
「ムムムーっ!!!」
なんでか抵抗が酷くなった。
そうこうしてる間に足音が近付いてくる。
「待って、高城さん。俺だよ、低田。話したいことがあるんだ。余人を介さず。あんたのクラスからエセメガネ君がついてきてる。ここは静かにしてくれ。頼むから」
焦りが伝わったのか、真摯に頼んだのが良かったのか、それとも本当に俺だと判別できたのか、高城の抵抗が病む、違った、止む。だって目からハイライトが消えるんだもの。ち、違うよ? なんだこの無理やり感。保険医が悪い。
足音が近付き――そして遠ざかっていくのをドキドキしながら聞いていた。なんのドキドキなんだか……。
やがて訪れる完璧な静寂。
耳が……いや心臓も痛い。顔に視線が突き刺さってる……気がする。
…………ふ、振り向けない。
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