13ー1 後ろ後ろ


 誰が高城ファンなのか?


 俺だそうだ。ハッハッハッ。


 よろしい、面倒だ。


 正面突破しようそうしよう。


 よく晴れた翌日。明日は休み。


 誰もがモヤモヤやイライラの種を週末まで持ち越したくはない。ここらでスッキリしておこうじゃないか。


 ……あの野郎、言うにことかいて俺が毒女に首ったけだと? その毒舌にクラクラしちゃったとでも思ったのか?


 オーケーだ。


 高城に言いたいことも決まった。作戦も定まった。


 昨夜タケッちに調べて貰った高城1組クラスの時間割りのプリントを眺めながら登校する。計画の最終調整だ。


 授業内容を吟味しながら、上から下に目を通す。頭の中でソロバンを弾く。やった事ないから読み方が分からない。いらねえやソロバンなんて。


 大雑把に予定を立てながら、朝の通学路を足早に歩く。今日も見掛ける学生服は少ないが、理由はいつもと逆のベクトル。


 朝も早くから登校中だ。


 食事の時間も削ってしまったので、ポケットに入れておいた乾パンを口に放り込む。買い置きがあった。早目に処分しておこう。


 お茶で流し込みながら校門を潜り、真っ先に保健室へと向かった。


「限界でーす」


 堪忍袋が。


「……元気です?」


 何某かのバインダーとにらめっこしていた保健医が、怪訝な顔でこちらを見た。聞き間違いだ。


「いやだなぁ、限界ですよ限界」


 師範ですよ師範。


 そそくさとベッドに潜り込む俺に、保健医は溜め息をつかんばかりの呆れ顔で言った。


「とてもそうは見えないが? こんな朝早くからご苦労なことだな」


「授業まで寝かせてください」


「構わんよ」


 言ったな?


 では寝かせて貰おうじゃないか。


 シーツを蹴飛ばして跳ね起きる。お辞儀は直角、90度。


「ありがとうございます! では早速」


「……来て一分で何処に行くんだ?」


 眠たげな目で缶コーヒーを啜る先生を置いて保健室を出た。


 どこかって?


 戦場だ。


 指をバキバキ鳴らしつつ、高城のクラスへと赴く。幸いなことに高城あの女はまだ登校していないらしく、クラスは閑散としている。あいつ居るだけで人工密度増えて邪魔だからな(目標)。


 ちょうど良いと言うべきか、つまらなさそうに机に寝そべってスマホを弄る男子生徒を発見。接近する。


「おはー」


「……うん? 俺? え? 誰?」


 オラァ。


 ゆっくりと体を起こす隙だらけに、ここが戦場だと刻み込んでやった。具体的にはボディがガラ空きだぜだぜ。


 驚いた表情から白目を剥くというテンプレな反応を見せる男子に感動しつつ、力の抜けた体を抱え上げる。


 大丈夫だ。既に予約は入れてある。


 早々に保健室に戻って遺体をゴロリ。ベッドに横たえる。安らかに……。


「…………いや待て」


「断る」


 缶コーヒーを傾けたままフリーズする保健医を置いて再び出陣する。いいって言ったじゃないですか!


 大丈夫だよ。ただ探りと削りをやってるだけだから。ハントの基本だぞ?


 俺は気付いた。


 高城を一人呼び出すのは難易度が高い。なんせ取り巻きが邪魔だ。


 なら邪魔者を排除せんとするのは当然の流れだよね? おかしくない。


 つまり高城を取り除くのではなく、高城以外を取り除こうという訳だ。


 勿論、問題もある。


 流石の保健医も、失神者が一人ならガタガタ言わないだろうが……人数が増えると訝しがるかもしれない。なんせ一クラス分ともなればベッドが潰れかねないからな。わかるわかる。


 その時は簀巻きにでもなって貰おう。


 なーに、許可は取ってある(いやないけど)。構うまい。


 それよりも急がなければ。


 これは時間との勝負でもある。


 1組は二時間目が自習という時間割りだ。つまり三時間目までに決着を付ける必要がある。流石にバレるだろうし。それまでに……。


 あの、俺が高城ファンだと断言する陰キャ野郎に断罪を! じゃなかった。高城と会話をするために頑張ろう、だ。うん。


 1組の下駄箱を開けている男子が目に入ったので、片手を上げて爽やかに挨拶する。


「おはよう!」


「……は?」


 オラァ。


 挨拶を返せないとそうなるんだよ。クタッとなった男子をロッカーに突っ込んで鍵をベキる。


 怪しまれては元も子もないので、朝はほどほどの人数に抑えておかなくては……。


 抑え切れない右手狩り欲を唸らせていると、スマホが着信を告げる。相手は八千代ちゃん。首尾は上々らしい。タケッちは来ない。何があったんだろうか、心配だ……。


 タケッちからのラインも着ていたがブロックにしておいた。線は切るためにあるんだ。仕方ない。


 なんか楽しくなってきたぞ? もう二人ばかりいっておこうか。


 どっかの会長よろしく調子を上げていこう。それ死亡フラグや。気をつけろ。


 お喋りしながら下駄箱にやってきた女子を凝視しながら息を荒げる。ハァ、ハァ、1組か?


 どうやら別のクラスらしい。ちぃ。


 その後ろ姿を見送って次の獲物を探すために旅に出た。


 朝のホームルームが始まる前に三人ほどが保健室の世話になっていた。きっと風邪だろうと保健医には言っておいた。


 看病してる内に保健医も風邪に掛からないといいが……心配だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る