12ー2


 物置部屋で弁当箱に入っていた乾パンをボリボリ食べながら、この後どうするべきかを考える。


 親に一言だろう。


 乾パンて。たまにある手抜き弁当も予想を超えてきたな。次はなんだ? レーションか? 塩と豆か? ふざんけんな。


 もしかしたら子ども電話相談室案件なのかもしれないうちの親。そういえば無断外泊にも何も言わないという放置っぷりを見せていた。


 年頃男子的には気楽だが、子を持つ親としてはどうなのか。いや言わないけど。気楽だから。


 しかし弁当については文句を言ってもいい、と思う。言う権利あるよね? 朝早くから起きてわざわざ作ってくれてるとかそういう次元にない。というか作ってないから。入れただけだから。


 無駄にギッシリと詰まっている砂糖漬けのビスケットを噛みながら、頭に回った糖分がフル回転。とはならないから。胸焼けが精々だから。


 まあ栄養は取れるから、今日はこれでいいけど。


 さて、もう一つの問題のなんですが……。


 これもまた難問だ。解決できないから問題な訳だし。


 高城とナイショで話す……よく考えたら恥ずかしいとかの前にドデカイ壁があったよ。


 普段カーストカースト言ってるのに気付かないとかどうなの?


 それぐらい自然に接していたからなぁ。高城さん、凄い人だったんだなぁ。


 知ってた。


 自宅から持ってきたお茶で甘さを軽減しながら、放課後の接触は可能かを考える。


 ……………………うん。


 無理。


 高城の通学って車だし。待ち伏せはガードマン的な人に勘違いされて狩られちゃうまである。そこで学校を出るまでの僅かな時間に掛けるしかないのだが……どういうことなのか取り巻きの高城熱が普段より高い。熱くて近づけないレベル。


 そもそもなんであんなにモテてんの? 異常なんだけど。


 確かに高城はビックリするほど美少女で、頭もスタイルもいい。性格も控え目、しかも誰に対しても分け隔て無く接してくれるという優しさ付き。きっと尽くすタイプの彼女なんだろうなと男の妄想掻き立てる色気もある。


 全部なんちゃってなんですけどね。


 しかし知らない奴にとったら、お近づきになりたい女子ナンバーワンと言えるだろう。


 それだけに高嶺の花。


 お金持ちで権力者という肩書きも上乗せされて、たとえ上位カーストの奴でも声を掛けるのに躊躇していた現状があった……筈なのに。


 なんであんなアイドルがアリーナに降りてきたみたいな反応になってんの? 夏か? 夏が近いからか?


 あれの目を盗んで高城に近寄るのは骨が折れる。間違えた。骨が折られる。物理だよ。ファン心理の怖さだよ。


 なので、まずは安全確保からお願いしたい。


 とても人と会話しようとしてる奴の考えじゃねえな。どこの首相と会談する覚悟なのか。約束を取り付けるのに人生が終わっちゃうまである。そんなに?!


 難しさを再認識して弁当箱を閉じる。もう限界だ。


 同時に鳴ったチャイムが、今日も高城が来ないことを告げた。


 教室に戻って授業を受けながら、近々の時間割りに目を通す。合同で授業があるなら、その時間もまたチャンスになるかもと思ってだ。


 しかし無い。


 ほんと接点の無い奴だな?! 改善したまえ!


 体育なんか狙い目かもと思ったのだが……。たとえ授業で合同にならなくても同じ時間に体育があればニアミスが発生する可能性に掛けれた。


 ほとほと相性が悪いな。


 というか生活圏が違い過ぎる。


 特に策を思い付くことなく放課後になってしまった。


 連絡を講じる手段が無いと、こんなにも会えない奴だったとは……。ほんとに日本に住んでるんですかね?


 俺は高城の電話番号も知らなければSNSで繋がっているようなこともない。ついでに言うと住所も知らない。あちらは全て把握してるのに。ズルい。


 他に方法も無いので、もしかして一人きりになってる可能性を信じて高城のクラスに行ってみる。もう先生が呼んでるとでも嘘付いて呼び出してしまおうか? 一人になったらガバっとやっちまえばいいんだ。


 高城のクラスを覗いてみると、高城どころか取り巻きも見当たらなかった。いないやん。


 適当な奴に声を掛けて居場所を訊いてみる。


「なあ。高城さんってどこ行ったの?」


「うん? なんで?」


「いや、先生が呼んでるから……」


「あ、そうなん。えーっと……いや、分からん。なんか最近忙しそうで、まだ校内にはいると思うんだけど……」


「あ、そう。いいよ、分かった。ありがとう」


「おう」


 共に似た雰囲気の陰キャだからなのか、会話はスムーズ。しかし情報量も似たり寄ったり。得るものはなかったが、まあいい。陰キャ同士、通じるものがあった。


 俺が離れたことで、タイミングを測っていた別の男子がそいつに近寄っていった。


 その会話が聞こえてくる。


「誰? 知り合い?」


「知らん。高城の追っかけだろ? よくいるし」


「あー」


 なるほどな。嘘だと通じバレていたか。っておい!


 追っかけじゃないやい! 追い掛けてるだけだやい!


 俺は振り返らずに駆け出した。


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