6ー1 ソロ&ソロ


「至って普通の船上パーティーです」


 頭沸いてんのかな?


 既に戦場を潜り抜けてきた俺を再び船上に突き落とす高城は、百獣の王も「や、やり過ぎなのでは?」って気遣うレベル。


「命懸けなんだよ?」


「いえ、命は掛かってません」


 ちょっと知ってるアニメの台詞に寄せてみたヲタクあるある。しかし高城非ヲタには通用しない。これだから一般人は!


 これが高度に訓練されたヲタクだったら、たとえダメでも許してくれた筈だ。その場の勢いで許してくれた筈なんだ! ヲタクって危ない。


 高城さん家の車で移動中だ。


 夜はドレスコード的な物があるらしく、お着替えを済ませてからの搭乗になった。高城の言葉を借りれば、至ってフォーマルなタキシード。死にたい。


 こちとらスーツも遠慮したいヒモ志望なのに、こんな格好させられたらヒモ死亡まである。責任、とってくれますか?


「……何か?」


「何も」


 向かい合わせに座って髪を直されている高城さんがニッコリ。これが圧力だ。


 カジュアルな格好からドレスに着替えた高城さま。


 ふんわりとしたスカートの青いドレスに長手袋。いつもは簡単に纏められた髪が今宵は結い上げられている。


 小物から化粧から完璧を期すために、高城の両隣ではメイドさんがあくせくとお仕事をされている。スケジュール管理なんかの軽いやり取りもあった。


 初めましてなんだけど、挨拶はない。そういう雰囲気にない。彼女達は正しくソルジャーだ。だって雰囲気が戦場のそれだもん。


 至って普通ってなんだっけ? 普通に至ってないんだけど。


「戦場パーティーか……」


「船上パーティーです」


 残弾は幾つまで携行が許可されますか?


 金持ちの戦場がスナック感覚。だから戦争が無くならないんだ。


「パートナー同行が必要で、これまでは参加を見送っていたのですが……いい機会かと思いまして」


「高城さんらしくない早計さだな」


 主にパートナーシップ的な面で。


 見てよほら? 毒が頭まで回ったのかな? 目の前にいるのは陰キャ一般人だよ。


「作法とかコードとか何も分かんない一般人連れてっちゃダメだろ? 恥を掻きたくなれければ、やめておいた方がいい」


 キリリとシリアスに言い放った。


「……遠回しに自分を貶めていませんか?」


「ああ」


 勘違いするな。恥を掻くのが怖いんじゃない。今この状況が怖いんだ!


 見ず知らぬの他人と同乗してる時点で凄い怖い。頑張ってる方だよ。メイドさんの挨拶がないっていうか、挨拶できないっていう方が正しい。


 なんか排他的な空気を感じるんだ。陰キャにこれを感じさせたらチート。


 しかし指を組んでどこぞの司令よろしく真顔で言い放ったからか、左側のメイドさんが吹き出したことで幾分柔らかくなったけど。


「マーヤさん?」


「……失礼しました」


 高城の問い掛けに頭を下げるメイドさん。あかん。これ余計に好感度下がる展開や。どないしよ?


 メイドさんから睨まれる、なんてことはないんだけど……霊圧の上昇お前なにしてくれてんねんを感知……この能力ちからが憎い。


 こうやって人間関係が断たれていく陰キャ特有の「俺なんかやっちゃいました?」『空気読めよ』現象は置いといて、この後の確認と打ち合わせをしなきゃな。逃げてるわけじゃないよ。ヒビってるだけだ!


 いろんな意味で。


 なんせ船上ドンパーティーなんて初めてだから。なんならパーティー未経験まである。お誕生日パーティー? あれは友達がいるから出来ることなんだよ……。


 パリピと違って一人祭りしか開催しないヲタクにとったら、パーティーなんてゲーム用語でしか分からない。そこすらソロな俺としては? もうパーティーという文字が辞書に載ってないレベル。和訳してくれる?


 いや普通のパリピにもハードル高くね?


 船ってなんだよ船って。金持ちはクルージングが好きっていう想像のままになってまうやろ。やめろや。もっと意外性狙って漁船で来いよ。


「……流石に無線機などの持ち込みはできないようになっているので、他に方法がありませんでした」


「うん。だからこいつ持ち込もうって発想がおかしい」


「お褒めに預かり、恐縮です」


 全く縮こまる様子がないよ? 嘘嫌いなんじゃないの?


 メイドさんがいるせいか、高城が毒を吐いてこない。しかしメイドさんがいるせいで、俺もいつもの調子が出ない。


 二人っきりになりたいとか言ってみるか? なんて勘違い言葉フラグ。主人公じゃないんだから気付くっつーの。


「……まだ何か不安要素がありますか?」


 むしろ不安以外の要素ってありますか?


 小首を傾げて微笑を浮かべる美貌の淑女。それに対するは七五三なんだから、いや不安しかないよね。


「いや、ほんと分かんない」


 意味分かんない。


 この状況も、お前の頭もな!


「……大丈夫ですよ。挨拶などは私が行いますので。あなたにはその後の、私的な……その、さ、サポート? をして頂ければ……」


 これメイドさん勘違いするやつじゃん。なんで後の方で詰まった? 毒発言を食い止めてって話だよね? ああ、メイドさんは知らないからか。でもその恥ずかしげな表情とかいらなかった。もしあのノートが頭をよぎってその表情なら高城さまはお疲れのご様子。パーティーは延期したらどうなの?


 手鏡を広げて最終確認を求めてくるメイドさんに労いの言葉を投げる高城。プロだから仕事に徹してるけど……どう考えても俺の存在が違和感である。


「……具体的には何をすればいいのかな?」


 だからちょっと意地悪してみた。


 それに高城さまは目を細くして笑われる。


「いつも通りでいいんですよ?」


 それ口喧嘩になっちゃうじゃん。


 戦場が瘴気に飲み込まれちゃうじゃん。


 なるほどな。


 至って普通というやつか。


 バカかよ。


「お嬢様」


 声掛けは運転席から。


 どうやら振動を感じさせないドライビングテクニックで分かりにくかったが、会場に、いや海上についたらしい。


 ……まだ同級生の後追いの方が良かったなんて……今朝の俺からは考えられない愚痴が漏れそうで困る。


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