5ー9


 ほんとになげぇよ!


 いつまで遊ぶんだよ!


 もうボロボロだよボロボロ。身も心もロボロボ。


 機械の体と心でも耐えられないよ。耐久性ってあるから。


 昇っていた太陽も付き合ってられないとばかりに半分顔を隠したところでようやく解散の運びとなった。


 場所は集合場所でもあった駅前、時刻は夕方。


 電車で帰るという四人を高城が見送る形だ。


 ほんと疲れた。こんなに疲れたのにほんとにこいつらは楽しかったのか疑問だ。疲れても楽しいとかドマゾじゃないから分からないよ。


 映えるランチで写真を取って、映えるスポットに行って写真を取って、食べ歩きしながら写真を取って、何はともあれ記念だと写真を取って……。


 なんなんだ? お前らほんとなんなんだ? 前世はカメラかアルバムか?


 おかげで写真にギリギリ写る画角を見極めるのに苦労したよ。見切れてるか確認したい。取り直しとかやめてくれ。心が削れる。


 そんな一日も終わりを迎え、ようやく辿り着いた駅前ゴール……。


 生徒会長が粘る。


『今日は楽しかった。またこういう機会を設けられらって思うよ』


『……』


 アドバイスに疲れた俺が放置しているからか、なかなか会話が進まない。駅前ではチャラいのが高城以外を相手に時間稼ぎ。その間に生徒会長が本丸を攻める……という算段なのだろう。


 暖簾に腕押しだけど。


 見てる分には面白いよね。


 もう疲れたのでタイムアップまで見てようと思う。陽キャカースト上位男子が、あくせくと女子に取り入ろうとする様は愉快だなぁ。チャラいのもチラチラと生徒会長を窺っているので、長くは持つまい。


 人がごった返す駅前で、二度見三度見立ち止まりを決められる高城からしたら迷惑で仕方ないと思うが。


 もうあれだ。諦めた。毒は適度に排出したらいい。うん。俺に当たるのはやめてね?


 この一日で高城の無言が多いこと多いこと。……ほんとに改善する気があるんだろうか? 高城の将来、強いては日本の未来が心配だ……。その時は亡命しよう。


 そのプライドのせいか、連絡先が聞けない生徒会長は、どうやら時間切れのようで……。


『たっ、かしっ、ろさーん! 楽しかったね〜。……高城さんは、どうだった?』


 横合いから飛び込んできて高城の腕を取る内巻き。いい笑顔だがやや不安そうな表情だ。


 ……あー、最後に一仕事するかな。高城の答えなんて決まってるようなものだし。


『楽しかったわ』


『本当?!』


 本当?!


 びっくりして周りのオヤジと同じように二度見を決める。チラリとこちらを見た気がする高城と視線が合う。


 いつも通りの笑顔。だが……?


『本当に』


『よ、良かった〜。高城さん楽しんでくれてるかなって気になってたからー』


 ほんとに不安だったのだろう内巻きの、やや涙目があざと可愛い。


 いや、あざとくないけどね。


 しばらく雑談を交わす二人に、このままガールズトークでも始まるんじゃないかと不安に陥り出した辺りで、内巻きが別れの言葉を述べた。


『――それじゃ、また明後日!』


『ええ、また明後日』


 サッパリとした別れに挨拶の順番待ちをしていた生徒会長も続く言葉が無く、手を振りながら遠ざかっていく内巻きを追い掛けるしか術がなかった。まさか一人取り残されるのもカッコ悪い。


 先程からの会話の手応えの無さも後押しとなったのだろう。悪いな、生徒会長。早く帰りたかってん。


 しかしこれでようやくミッションも達成。なにやってるんだろう、俺……なんて黄昏に思ってみたり。青春。


 一人ノスタルジックという陰キャ特有の青春を謳歌している俺に、全力でアオハってる毒女が歩み寄ってくる。


 どうやら生徒会長たちとは完全に別れた様子。


 いやでも来んなし。


 彼女が歩くと人混みも割れる。十戒とか持ってる系だ。バカ言うな。百でも足りない。


 その美貌と雰囲気に気圧されてるんだろうけど……高城フィルターを持つ俺としては、瘴気に蝕まれているように見える。ううぅ、浄化をぉおおお! 俺のオーラ力の無さが悔やまれる。


 目の前であなたに用事がありますとばかりに止まられたら、その注目も一入。やめて高城さん。陰キャは注目に慣れてないから。死ぬ。


 仕方ないからピンマンクにセイ。


「高城さん、セイ『低田君、今日はご苦労さま。とっても助かったわ、ありがとう。好き。今日のところはこの辺りで帰りましょう? 月曜からの……ううん。相談事は解決したわ。もう集まりもないから安心して休日を楽しんでね』オーバー」


「寝言は寝て言ってください」


 それで通るなら例え針山の上だろうと辞さない!


 やれやれ仕方ない。


 首元のマイクやらイヤホンを取り外して無線機と纏める。ほんと疲れたなぁ。


「……何をしているのですか?」


 何って。


「片付け?」


 あれでしょ?


 この後、ツンデレばりの労いのお言葉を頂いて現地解散でしょ? 集合も現地だったし。出発地点は同じなのに。片方は徒歩だ。どっちとは言わない。あっち。


 スパイグッズの回収かと思われたのだが……なんだろう? ストレス解消に毒でも吐きに来たのかな? 困る。


「……反省会を行おうと思ったのですが」


 高城の笑顔が怖い。


 仕事終わりに仕事を振ってくる上司ばりに。


「いやいや、いーじゃん。今日は上がりで。また来週話そう、ね? そのための放課後なんだからさ! ハハハ……高城さんも人が悪い……」


 というか悪い人だ。地球に襲来した宇宙人ばりに。


 ほんと勘弁だ。体力的どうこうよりオラの気がもうゼロなんだ。イタチの最後っ屁も出ねぇ。出ても勝てねぇ。分かる?


「……それなら仕方ないですね」


 眉をやや下げて寂しそうに笑う高城。オーディエンスは切なさに胸を押さえている。日雇いスパイは胸を撫で下ろしている。


 そこで投げ落とされる爆弾。


「このまま次に行きましょう」


 ちょっと何言ってるか分からない。


 高城はあれだ。


 確信犯悪いやつだと思うね。


 ほんと。


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