5ー8
『遅くないっすか?』
『先に精算しようよ。外で待ってたら出てくるでしょー?』
『だねー』
『はい』
まあ、そうなるよね。
ことがトイレだけに深く踏み込めないよな。
しかし長々と待たれても困るので既に手は打っておいた。報告を怠って毒を頂きたくないので高城にも教えておこう。
「目標撃破。繰り返す、目標撃破」
『……』
おかしいな? 反応がないぞ。壊れてるのかな? このマイク。
高城達より先に店の外に出て待つ。店の外には救急車両。赤いパトランプがグルグルしてる。
「わ。なんだろう?」
「ケンカとかじゃん? ここってお酒も飲めるらしいしー」
「まだ昼っすけどね」
何があったんだろうね? 不思議。
タイミング良く出てきた高城達の直ぐ近くで、如何にも人を待ってますとばかりに仁王立ちする俺。
入口の脇で背景に溶け込む。
どうも、陰の者です。
スマホなんか触っちゃって知らんぷりだ。
そこで一人残って精算していた生徒会長が遅れて出てくる。その顔には困惑の表情。チャラい奴に対して話し掛ける。
「……あいつって持病かなんかあったか?」
「…………え? なんの話ですか、これ?」
女子には聞かれたくないのか、チャラいのを脇に引っ張っていってのナイショ話だ。おかげでモブには筒抜けよ。なんせ目の前。チラリ向けられた視線もスマホに熱中しているように見えたのか気にされなかった。
念のため声は潜めているが、正直それって役に立たないよね?
陽キャは声の大きさを気にしないから気付かないんだな。
聞くことに集中して生徒会長の声を拾う。
「なんか……トイレの個室でノビてるんだと。……局部丸出しで……」
「……うわ〜。なんでそんなことに……」
生徒会長の言葉にチャラいのが顔を顰める。まあね。いくら友達でも、いや友達だからこそ触れたくないこともあるよな。局部て。
すまないことをしたなぁ。
「俺に訊くなよ。……それでなんだが、救急車を呼んだらしくてな……付き添いとか……」
「げっ、ぜってぇヤダ」
思わず素が出るチャラい奴。もはや声の調子も違う。
酷いなあ、陽キャは。俺ならタケッちが倒れたら一も二もなく付き添うのに。カメラ回してなんならトドメを差すまであるのに。やれやれ薄情なことで。
しかし生徒会長も同意見なのか軽く頷いて続ける。
「だよな。……一応、あいつの家に連絡入れとくか?」
「きっつ。でもそれしかなくないすか?」
「……まあ、他にどうしようもないよな。ハァ……こんな事に長々と時間を取られたくもないから、俺が店員に連絡先を教えてくる間に、お前、適当に言い訳しといてくれないか? ……中止にならないように」
「うぇ〜い。マジなにやってんだ、あの人……」
再び中に戻っていく生徒会長に、これは何かあったなと視線で説明を求める女子達。
説明役はチャラい奴だ。
俺じゃない。
だから時計見ないでくれるかな? 高城さん。
「いや、なんか伴先輩帰ったらしいです。急遽。多分家庭の都合とかで」
「えー?! そんな〜」
これにショックを受けているのは一人。当たりの人だ。内巻きと高城は「ふーん」てなもんだ。ハズレめ。内巻きはどう思っているのか分からない。だが高城はマイクからの声で状況を知ってるので、別に本当にどうでもいいのだろう。酷い女だ。
でも気のせいかチャラい奴を透かして、その向こう側に説明を求めている気がする。こっち見んなし。
そんな視線を勘違いしたのか、別の話題を振って話を逸らしに掛かるチャラい奴。必死に微笑から目を逸らしてスマホを見つめる陰キャ。わあ、綺麗なブラックスクリーン。そんなこんな時間稼ぎをしている内に生徒会長が出てきた。
あんたを待ってた。
男共はそう思った。
「ごめん。ちょっと手間取った。行こうか?」
「あ、はーい」
「うーす」
「高城さん! あたし高城さんと、ここ! ここ行ってみたかったのー」
「まあ」
発言力のある奴の一言で動き出す陽キャ集団。
高城と内巻きを先頭に歩き出す。内巻きが高城にスマホを見せながら「ここ、ここ」と楽しそうだ。
ほっと一息だよ。
その直ぐ後で担架に載せられて出てきた(具合の)悪そうな奴。隊員さんが話すのを盗み聞いたところ原因不明で倒れているらしい。今日の暑さからして熱中症とかだろう。
水分をマメに取ることをお勧めする。
出発する救急車を尻目に、俺も陽キャ集団との距離を一定に保って歩き始める。
次はどこに行くんだろう?
それでいつまで遊ぶんだろう?
太陽は未だ中天にある。
長い一日になりそうだ。
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