5ー7


 十二個の中の一個が当たりらしい。


 ホカホカと湯気を立てるたこ焼きをまず一つとばかり口に入れる。


 ――美味い?!


 このカラオケはどこに行こうとしてるのか?


 レンチンなどではなくキチンとしたたこ焼き器で焼いたたこ焼きに感動である。焼き方も職人のそれであるとか。もうたこ焼き屋でよくね?


 軽食タイムではないが、歌い疲れたのか休憩と称してメニューを買い漁り始めた陽キャ共に合わせての食事だ。いいタイミングでたこ焼き頼んだまである。これを見越していた。


 この後に食事も控えているから――で、大人しくなる胃袋の持ち主じゃない高校生一同は、ネタメニューからパーティーメニューまで幅広く頼んだメニューを楽しそうに平らげている。


 カラオケにいる間は常に誰かが歌っているべきなんじゃ? とか思っちゃうコスパ厨陰キャには目から鱗だ。楽しけりゃ良いというやつである。陽キャって凄い。


 あれ? 俺も歌ってないから、もしかしたらワンチャン陽キャの可能性が……ある? そうか。俺、陽キャだったのか。


 必ず死ぬことが約束されているたこ焼きを食べている俺、陽キャだったのか……。


 あまりの美味さに手が止まらない。それが罠だと分かっているのに……?! これが陽キャの力か!


 とりあえず二つ目だ。すげー美味い。しかもモチ入りだ。なんだよその営業努力。間違ってる!


 次へ次へと食べさせるべく工夫されたロシアンたこ焼きに脱帽だ。脱がないけど。


『なあ、このロシアンたこ焼きって頼んでみね?』


『馬鹿かよ。それ、本当にヤバいやつだからな? 酷くなることが分かってるのに頼んだりするかよ。チャレンジ動画の見過ぎじゃないか?』


『お前が全部食え』


『高城さん、一口交換しよー』


『ええ』


『モカ、私にも!』


 うるせえよ。


 むしろカラオケまで来てロシアンたこ焼きを食べないなんて何しにカラオケに来たのか? ふ、ふふふん! この味を知ることがないなんて! ごごごご愁傷様ですほんとあああありがとうございますだよ!


 若干声が震えているのは冷房の効き過ぎか当たりを引いたことに気付かなかったからだろう。ほほほんと陽キャって奴は!


 いいんだ別に。一生陰の者としてやっていくから。カッコいいじゃん。陰の者。陰キャにした途端「ああ……」って声が漏れるのは何故なのか。


『オレ、トーイレ!』


『俺も行くわ』


『じゃあ俺も』


 どうやら今度は男共のトイレタイムらしい。


『男の子ってなんで連れ立ってトイレ行くのー?』


 むしろ俺は一人で行きたい派なので分かりません。


『おめーらもさっき行ったじゃねーか!』


『いやー』


『げひーん』


『本当に』


 高城さん? 高性能なマイクが拾ってますよ?


 高城の限界も近そうである。逃げる準備しなきゃ。


 ピンマイクを切って立ち上がり、先んじてカラオケルームを抜けて男子トイレへ。


 幸いと言っていいのか先に着いたので、奥の個室に入って陽キャ集団を待つ。


 時折大きくなる声と重めの足音が近付いてくる。


「なーにがロシアンたこ焼きだよ。お前は」


「やってみたかったんすよ。面白そうでしょ?」


「混ぜ易くはありそうだがな。嫌だぜ? 一人悶て集中できないとかよ」


「――何度も言ってるが、今日はそういうのじゃないからな? やめろよ」


 そういうのってなんだよ? そういうのか。マジか。ほんとにこういう奴っているのか。もう別世界超えて別次元の存在だよ。アニメキャラじゃん。仲良くなれそう。


「志馬さん、なんかビビってません?」


「……なんだよ、ビビるって。意味分かんねえよ」


「それなー。俺も思ってたわ」


 どうやら本当にトイレに来たのは悪そうな奴だけらしく、残り二人の方は洗面所の前で止まったようだ。声が離れていく。


「らしくねえよなー? いつもなら美味しいとこどりするくせに」


「……そんなこと思ってたのか?」


「オレは思ってないっすよ! 伴先輩だけっしょ」


「ハッ! 被った時、持ってかれて不貞腐れてたじゃねえか」


「……ああ、前のあれか」


「いや、あれはマジで納得いかねぇっすけど、あれだけですよ?」


「悪かったよ。今度穴埋めするからいいだろ?」


「今度っすか? 今日は?」


「あー……高城はダメだ」


「あ、オレ気位高そうなのダメなんで。あの、モカちゃんとかがいいっす」


「なんだそりゃ。じゃあ俺だけハズレじゃねえか。つか高城? あいつ俺に気があると思わねえ?」


「……どこがだよ」


「どこに目ぇ付いてんすか」


「ヒワ、てめ後で潰す」


「つか早くしてくださいよ。なんでマジでトイレしてんすか」


「話してたら出ねえんだよ!」


「じゃあ、先戻ってますんで。オレ、モカちゃんね。後は先輩方で決めてください」


「待てって。伴場、俺も先行くぞ。高城はダメだからな?」


「へっ」


 どちらがしたのか分からない舌打ちを最後に静かになった。どうやらチャラいのと生徒会長は先に戻ったようだ。


 扉を静かに開くと、目の前には悪そうな奴が。


 悪い奴はこうだ。


「――ぐぇ、〜〜〜〜っ?!」


 首を絞めてグッタリなったところで個室に引き摺り込む。如何にもな感じで座らせて、出られないように外からモップでつっかえ棒を噛ませれば完成だ。


「あの中で唯一の当たりをハズレとか言うから……」


 残念だよ。友達になれたのに。


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