5ー6
熱唱に独唱に歌唱に冷笑、聞こえてくる歌声にスマホをいじるばかり。余計なの混じったね?
カーストの上位ってのは持ち歌を持ってなきゃいけないという義務でもあるのか? 大体が上手い。盛り上げ方も知ってる。
歌い方や態度をイジりつつも、決して掘り下げる事なく場を暖めていくその手腕に脱法です。捕まるやん。
いや、やけに手慣れた感がね?
陰キャ特有の偏見さ。勘弁な。
適度に高城会話を交えつつのカラオケは盛り上がっている。俺のテキトー返信も一役買っているのかもしれない。
高城もだいぶオブラートというものが分かってきたと思う。全然毒は薄まんないんだけども。
ふとすれば漏れそうになる毒を要所要所で止めているからこその盛り上がりだ。MVPは俺だね。
しかし限界かな。抑えきれない毒が顔を見せ始めている。
化けの皮が剥がれそうだ。そんときは逃げよう。
向こうも所々で「――カシス」「――ゲームが」などの怪しい雰囲気を漂わせているので、猫を被っているのはこちらだけではないようだ。
止め役に徹している生徒会長には頭が下がる。頑張って。その女、割と権力を振るうことに躊躇しないから!
……この後どうすんだろ? まさか延長ではあるまいな? それは困るぞ。
パフェ頼んじゃったんだから!
アニメでこういうシーンあったから、思わず真似してしまった。すげー美味い。なんで食い物にこんなに力入れてんだよ。カラオケ機は少し古いのに。
二つ目のパフェ容器をテーブルに残し、ロシアンたこ焼きとやらを頼むかどうか経費になるかと唸っていると、それは聞こえてきた。
『ちょっとトイレ行こー!』
知らない女子の声だ。
『ほら! モカも! 飲み過ぎだから。――高城さんも、一緒しよー!』
『ええー? もう! 仕方ないなー』
『――はい』
女子は直ぐ一緒したがる。ありがとうございます。
『女子ってやたら一緒にトイレ行くよな?』
『馬鹿、いいから』
『ちょっ、俺の歌のターンで?!』
聞こえていた音楽が遠ざかり、やたら静かに感じる足音に耳を澄ます。
これは高城サポーターとしてしょうがないから。そのつもりは無かったから。事故だったんだ。嘘じゃない。
息を潜め神経を耳に集中させていると、再び知らない女子声。一人として名前が出てこない。内巻き含め。自己紹介してよ。
『ね、ね! 今日凄くない? レベル高いよね?』
そうかあ?
『そうかな?』
『そうだよー! 生徒会長もだけど西高の伴場とか樋渡とか凄いよー! あ。あと勿論高城さん! 違うよ? ついでとかじゃなくね? でも高城さんもそう思うでしょー!』
『ええ』
『だよねだよね?! ……はあ〜。今日来て良かった〜』
それ不満の方だぞ。
まだトイレじゃないらしい。高城が無線切らないからね。ていうか廊下に響いてくる声からして近いな。
『モカって西高にも繋がりあったんだね? 言ってよぉ〜。何? 中学ライン?』
『無い無い。あれさー、志馬君の知り合いなんだって。……高城さん、ほんとごめんね? こういう雰囲気、嫌じゃない?』
『……』
そこは『はい』って言わんのかい。
「高城さん、セイ『初めてのことで困惑してる』オーバー」
『……『こういうの初めてだから、些か困惑しています』』
『そ……』
『はえー?! 高城さん、ほんとお嬢様なんだー! って違う! 悪い意味じゃないよ? 良い意味、良い意味ね?』
『はい』
「嫌じゃない?」の方の返事だね。
『もうー、あたしが話してるでしょー? ヨッチ、上がり過ぎー』
『ごめんごめん! てへへ、許してー。あ、そだ。違う違う。百合ってる場合じゃないよ! どうするどうする? あたし、生徒会長がいい!』
いやもっと百合百合してろ。
ハイハイ! と、どうも勢い込んで手を上げてる気配。ビッチよりも百合の方がまだ良かったのに……。
ハイハイ! 俺もこの中ならこの娘がいいー。
しかし参加してない陰キャの意見は通らないらしく、「ん〜」と難しく唸る内巻きの声が聞こえるばかり。はいはい、分かってた分かってた。
『……今日そゆのじゃないから。あたしが高城さんと遊ぶ場だから』
『つまり貰ってもいい?』
『だーから、違うって〜。そもそも志馬君も強引に割ってきたからなー? 向こうもそう思ってないかもだし』
『そうなの?』
『そうなの』
『ふふ』
ちょっ、今いいとこだから静かにして貰えます? 高城さん。
『いつもこうなのかしら?』
騙されんなよ。そいつ笑ってるようで嗤ってるから。
『違う違う、いつもじゃないよ? なんかこういうノリで遊ぶことになることもなくはなくなることもないというか……あれ?』
『高城さん高城さん! ほんと違うからね! こういうの偶にぐらいだから! も、全然。二ヶ月一回ぐらいかな? しかも高校からよ?』
陽キャの頻度よ。
こちとら高校含めても一度もありませんけど? そもそも高校からだとヤバいとかいうその風潮がヤバい。この語句もヤバい。
『まあ』
『でしょ? ヤバいよねー。あたし中学ん時はジミメンだったからさー。男の子と遊ぶって言っても大体同じメンツで他校生とか全然だったしぃ』
『ちょっとー、長くなるよー?』
『あ嘘ヤバ。じゃあ、あたし生徒会長! もしくは伴場!』
『えー、あれぇ?』
『……』
あ、これよく分かってねえな。
「あー、つまり、男子が三人いるだろ? この後も遊ぶわけじゃないですか? で、良い雰囲気になりたい、もしくは後々も仲良くしたい異性を、取り合いにならないように今の内に分けておかないかって提案なわけですよ。……こう、気持ちが盛り上がって、好きになった時のために、友達と被らないようにという……予防線? みたいな?」
あれ、俺もよく分かってないぞ。
よく考えてなくても俺も合コンとかしたことなかった。しかも女子側の気持ちとか分かるかっ!
『……つまり、あなたは、志馬君と…………伴場君の、どちらかを好きになるかもしれないって……ことかしら?』
もしかして動揺してます?
わちゃわちゃと内巻きと話していたヨッチとやらが答える。
『ちょ、直接的過ぎないかな? えへへ、でもうん。タイプかなぁ?』
『どこがいいのかしら?』
漏れてる漏れてる。
『あたしもそう思うー。志馬君はともかくあいつはなんで?』
あー、でも確かに気になる。
ああいうオラオラ系ってどこがいいの? 陰キャ男子共通の疑問だよ。なんでアレに靡くんだよ。なんであれがモテるんだよ。絶対性格悪いじゃん。少なくとも友達にはなれない。
その答えがこれだ。
『えー、カッコよくない? それにほら。少し強引な方がドキドキするっていうかぁ?』
……マジかよ。女の子って分かんない。
非モテは敗北感を胸に崩れ落ちた。
もう立ち直れないまである。
歌声といいキャラといいちょっと好きになり掛けてたのに。
…………はあ。
「ロシアンたこ焼き一つ」
とりあえずたこ焼きを頼んでおいた。
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