5ー5


 割と直ぐに見失うよねー。


 なんでこうなったのか。不思議だ……。


 とりあえず水分補給をするためにコンビニに立ち寄っている間に、高城包囲網こと人垣が消え、高城一派もいなくなっていた。


 あいつら迷子か? やれやれ。


 一通りのお約束リアクションをやった後で飲み掛けていたジュースを飲み干してゴミ箱に捨てる。ついでにマスクも燃えるゴミの方へ。いらん。暑い。


 もう一度周りを見渡して見るも……目立つ陽キャ集団は見つからず、平穏な休日の駅前があるだけ。


 やはり立ち読みがマズかったのだろうか? しかし週間連載の魅力から、男子は逃れられないのだ。


 仕方なかった、次に活かそう。


 というわけで、もしもの時のために入れておいたアプリを起動。要らないとは思うが逸れた時のためにと言われてスマホに入れられていたのだ。もう! 要らないって言ったのに!


 無かったら帰った。素敵な休日になる予定だった。


 結構前から会話が聞こえてこないので、通信範囲の外に出たのだろう。どうりで集中して雑誌が読めたわけだ。謎は全て解けたな。


 高城の居場所以外。


 地図アプリに赤点が表示されたので、そこを目指して歩くことに。意外と近い上に止まってるので追いつけそうだ。ちぇ。


 二つほど通りを渡って角を曲がるとビルとビルの間にある地元民御用達のカラオケ店があった。どうやらここのようだ。


 連れ込まれてるやん。


『――に飲む?』


『全員ウーロン茶で良くない? あ、高城さんもそれでいいかな?』


『ええ』


『俺ビー――』


『馬鹿やめろ。今日はそういんじゃない』


『オレ、オレンジジュースでいいっすか?』


 おっと、可聴範囲に入ったか。


 お店の入口ギリギリでイヤホンから声が聞こえてきた。ここに留まる訳にもいかず、仕方なく中に入ることに。


「いらっしゃいませー」


「うーい、一人で」


「ではここにお名前と人数をお書きください」


 既に一人と言ったのに? この上まだボッチを辱める気か?!


 受付を済ませ狭い個室に案内される。高城達の声は途切れてないので範囲内にはいるようだ。お値段はリーズナブルなものだったが貧乏学生には痛い出費となった。経費って請求できるのかな?


 トントン、あー、マイクテストマイクテスト。


「しばらく……寒い日が続きそうです」


 夏も間近なのに。


『ふふ』


 今の「ふふ」はどっちかな? うん? どうせ肯定しかしなかったせいで連れ込まれた残念毒舌女め。笑われるのはお前もだぞ。


「悲しいので歌います。聞いてください、ジャイア○リサイタル」


『――待って貰えますか』


『うん? 高城さん先に入れる? あ、デュエットしようよ!』


『おお〜』


 少しは気が晴れたのでマイクを置く。流石の高城さまも耳が壊れるのには危機感を覚えたか。音量的な意味でね? 別に音痴じゃないよ?


 それにしてもガキ大将は知ってるんだな。


 手持ち無沙汰だったので店内サービスのメニューを開く。ドリンクバーじゃなく注文制のドリンクに絶望した。暇だからってメニューを開くもんじゃない。水分取ってて良かったな。


 ソファーに腰を預け、陽キャ集団の会話に耳を澄ます。


 そろそろ役目を果たさないと、ノートが二冊三冊と増えていきそうなので。


 手遅れ感はある。


 高城の外出が決まった時から既に。


 聞こえてくる歌声は女性の物だが……高城ではないと思う。というかその腕時計凄いな。ハウリングとか、どうなってんの?


『高城さあ』


 おっと凄い馴れ馴れしい声来た。これで勝つる。


 いや待て。まだ高城さまを噛んだ可能性もある。俺もよくやる。言っちゃうよね? このクソ毒女って。


『……はい』


『なんか凄いらしいな? 学校違うから知らんけど』


『なんだよ、その抽象的な例え? ……いや、それよりお前、呼び捨て……』


 これは生徒会長の声だな。


 声の近さからして両手に花スタイルで座ってんの? うわー、ようやる。


 俺なら誰も隣に座らせないからの一人で帰るまである。そもそも呼ばれないというのは置いといて。あれ? 雨かな? 室内なのに。


『あ? いーだろ別に。タメなんだから。お前らのその呼び方の方が壁があるっつーの』


『こうやって遊ぶのも一回目だし、壁くらいあるだろ。お前こそ初対面じゃないか。自重しろよ』


『高城は別に嫌がってねえって。なあ、高城?』


『……』


 超絶嫌がってるわ。ほんとごめんなさい。


 まさか沈黙を貫いて勘違いされる訳にもいかないのでサポートの役目を果たさせて頂こう!


 お前なんてこうだ!


「高城、セイ。『さーせん。自分敬称付けて呼んじゃう癖あるすよね〜。皆それを汲み取ってくれてるっていうかあ? お前以外(笑)。違和感半端ないからヤメてくれる?』オーバー」


『……『すいません、私自身、誰かを呼ぶ時に敬称を付けてしまう癖がありまして……周りの方が慮って合わせてくれているのは分かるのですが、やはり無いと違和感がありまして……』』


『言ったろ? ちょっと育ってきた環境が違うって。お前のことも伴場君って呼んでただろ?』


 好き嫌いは否めないよね。カラオケだけに。


『あー……じゃあ、高城さんって言うわ』


『はい』


 極上スマイル出してんだろうなあ。


 聞こえてきた歌声すら止まったからね。小さく『うっわ、可愛っ』って聞こえてきたのは残る男の声だろう。これ、高城には聞こえてないの? 性能いいね、このイヤホン。


『ま、まあ! 慣れてからでいいよな!』


『……ええ』


 その『ええ』って『え〜?』的な意味もあります? 不満的な意味での『ええ』?


 最近の話し合いの成果なのか、高城がやや小狡くなっている。どこで覚えてくるんだろう……。先生は心配です。


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