2ー1 ゲームついでに


「お前が悪い」


 こいつの意見は参考にならない。


 武居さん家の長男の部屋だ。


 学校帰り、勝手知ったる友達の部屋に転がり込んでゲーム中。育てたキャラで大乱闘するというゲームだ。俺の持ちキャラは魔法使い。鈍器を振り回し人を呪うのが得手。


 ここで遊んでたと言えば親が納得してしまう説得力。中学からの素行が問題なんだろう。もち、タケっちのだ。不良って便利。


 互いに並んで画面前。俺は寝そべり、タケっちは胡座をかいている。未だブレザーの俺と、バリバリ部屋着のタケっち。


 会話をしながらの戦闘で四戦目。話のネタが切れてきたので、高城との一幕を話してみた。内容は伏せて、全力で煽って怒らせたとだけ伝えた。


 恒例のタケっちジャッジである。


 勿論、異議ありだ。


不良こいつの意見は参考にならない」


「不良? なんだそれ怖い」


 画面の中では、俺の放った魔法弾幕を回避しながら近づいてくる剣士脳筋。とりあえず殴っとけなキャラのくせに「不良? なにそれ怖い」はないだろ?! お前んが怖いわ!


 タケっちには細かい事情を話してないので、分かっていないだけだ。


 絶対俺は悪くない! ……はず。


 口をヒクヒクさせて反論だ!


「違う違う、俺の本心としてじゃなくてね? なんて言うんだろ……訓練の一環?」


 俺の魔法使いが予防線バリアを張る。


「なんだその例え……。訓練だろうとなんだろうと殴られたら傷付く。殴った奴が悪ぃ。つまりお前が悪い」


 剣士がバリアを殴りつけて削る。ほんとだ。


 いやいや、まさにそう伝えて上げたくてですね?


 ……もう面倒だから「高城って、すげえ毒持っててそれを薄めたいっていう本人の希望で毒吐かれた方の気持ちを分かって欲しくてつい本音を言っちゃったっていうかこれ他にバレたら共々海の底だったわ悪ぃタケっち」って言おうかなぁ。


 画面の中でバリアがキレそう。タケっちが殴り続けるから。


 ひたすら連打して耐える俺を、タケっちがチラリと見て言う。


「なんでショック受けてんのか当ててやろうか?」


 はい? 別にショックなんて受けてませんが?


 バリアを捨てて緊急回避。剣士がしつこく追ってくる。


「お前な、意外とフェミニストだから。高城さんが傷付いてんの見て、動揺してんだよ」


「は、はああ? そんなことないんですけどぉ?」


 腕は違っても心は鋼なんですけど? 男女平等原理主義者なんですけどぉ?!


 追ってきたところを鈍器で殴りつけたらヒラリと躱された。鈍器コントローラーにするべきだったか。


「いやあるな。気付いてないかもしれんが、お前、動揺するとうちに来る癖がある」


 剣士が背後に回って斬りつけてくる。クリティカル判定。なんてキャラだ。育てた奴の顔が見たい。


 そもそも傷付いたかどうかも分からんし。笑ってましたし?


 ……いや、おこってたけど。


「ひひひ久々このゲームやりたかっただけだから……!」


 ゲームは、楽しいなあ……!


「四戦全敗だけどな」


 まだ終わってないと言おうとしたら、タケっちの剣士が魔法使いを刺したまま投げるという技を繰り出しケリがつく。


「……タケっち、上手くなったね」


「お前が心ここにあらずなだけだ」


 そんなことはない。


 負けがこんできたからか、なんかモヤモヤするが、平気。


 ……全っ然、平気!


 リセット世代舐めんなよ? 切り替え一発無かったことに! メンタル凄いよね。


 いや今は見習うべきだ。何か他のことでヘイトを稼いでこのモヤモヤを消すんだ。マイナスをマイナスで洗い流すんだ! 碌なもんじゃねえな。


「よし! こっから本気出す! 負けた方が坊主!」


「いやもう帰れや。なんなのお前。月曜初日から泊まる気か? 俺ぁ、疲れたぜ。明日も学校だよ、ここらが止め時だろ」


 サラリーマンか。


「見損なったよタケっち! 優等生のフリなんてしちゃって! 勝ち逃げか?」


「おう、そうだが?」


「その鬱陶しい髪がそんなに大事か?」


「コントローラー持て。俺がバリカンでやってやるわ」


 よしよし、単純な奴め。


 もし俺が負けても袈裟を着てお経でも唱えてればオッケーでしょ。坊主なんて言ってないんだし。最悪「非術師は死ね」って言いながら襲いかかろう。


 だが勝ったら容赦なく頭を刈ってやる。バリカンだと? 友達がいのないやつめっ!


 キャラクターセレクト画面で相手の出方を窺う。なにせ本気ぼうず。相性の良いキャラを選ばなければ。


 向こうもそれが分かっているのか動かない。


 互いに視線が交錯するばかり。


 何か、何か切っ掛けが欲しい……!


 その願いに応えてくれたわけじゃないだろうけど。


 トントントントンと誰かが階段を上がってくる音が聞こえ――何故かタケっちがビクリと震えた。


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