11ー1 見つかる
教室へ戻ると自席に内巻きさんが座っていた。
隣の鈴木くんと話が弾んでいたようだが、こちらに気付くと手を振って席を譲ってくれた。
「お腹痛かったの?」
そう問い掛けるところに不審なところは無かった。
「う、うううん、まあ。あああ朝のフリカケがご飯とマッチしなかったと見た」
そう答えを返す俺には不審なところしか無かった。
先生が入ってきたので席に戻るしかなくなった内巻きさんは、疑問を口にすることはできなかった。
代わりに真剣な表情の鈴木くんが訊いてくる。
「……大きい方だったのか?」
こいつは
それに安堵した俺は、注意深く教室を観察した。
そんな可能性はないと思うけど、内巻きさんスパイ疑惑があるから。
教室の変化を……。
よくよく観察すると教室の四隅、目立たないところに小さなレンズのようなものが埋め込んである。
まるでカメラのレンズみたいだ。不思議。
プリントに神経を集中していて昨日は気が付かなかったが、一昨日はこんなものなかった。
俺はナンセンスだと笑顔で首を振ると、たまたまスマホのカメラをこちらに向けていたイケメンと目が合った。
ビクッとなるイケメン。
その画面を確認しないと起動してるかどうかなんて分からない。疑うのはよくない。
しかし急に首を半回転させて反対側を見ると何かをメモしていた女子生徒が驚きに硬直した。
これはおかしい。驚くようなことは一切起こってないのに。
まるでメモを見られてはマズい奴に見られたみたいじゃないか!
「……おい、首、どうなってんの?」
うるさいな鈴木くん。静かに。まだホームルーム中だよ。
なんてことだ。
こんな席埋め要員に注目してる奴が二人もいる。しかも両方がどちらかと言えば上のカースト保持者。
ボキッと首を戻しつつ考える。
そして否定する。
被害妄想だと。
とりあえずカメラのレンズっぽい何かを確認すれば済む話じゃないか。大袈裟大袈裟。
話したこともない男子と女子のスマホを確認するのは無理だが、あのレンズ……のような何かね? あくまで何か。その何かを確認するのに許可はいらないだろう。
壁に埋め込んであるみたいだし。きっとトリックで隠した遺体とかだよ。安心。
先生が出ていくと同時に立ち上がり、邪魔されない内に教室の隅っこへ。
モブが隅っこ。似合う。変なことはない。
ハハハ、やだなあ〜。確認すればするほどレンズっぽい。もうカメラのレンズにしか見えない。
おいおいこれがカメラのレンズなら男子の着替えが覗かれてるじゃないか。女子は別に更衣室がある。ほんと考え過ぎだよ、もう〜。
おっと。お腹が痛くなってきたぞ? 今朝のフリカケだな。自主的に帰宅しよう。
「ねえ」
掛けられた声に肩が跳ねる。
聞き覚えのある声だな?
具体的には昨日から。
振り返ると内巻きさん。表情がない。
首を軽く傾けて訊いてくる。
「見た?」
怖い。
おかしいな? もっと照れた感じでスカート押さえながら言うセリフじゃないかな、それ?
だとしたら返事は決まっている。
「ううううううん! 全然!」
「そう」
こりゃいかん。
主語がないのに通じてしまった事実が物語る。
いつから学校は魔窟へと変貌したんだろう。実はまだ物置部屋の机の下のダンボールに隠れてて気絶しちゃった可能性はないだろうか?
「じゃあ、席に戻ろう? 授業、始まっちゃうから」
「そうだね」
言いつつも背中は見せない。
チラリ視線を走らせればクラスの注目度は半分。
感染者が五割……なんてことだ。
このクラスはもうダメだ。俺はクラスを捨てることを決意した。
それを察した内巻きさんが少し申し訳なさそうな顔になる。
しかし訓練されたオタクは騙されない。
「あのね、あたしも詳しくは知らないけど、別に怖いことがあるわけじゃないと思うよ。多分。お互いに思い違いがあるんじゃないかな〜。内容聞かされてないから知らないけど。でも悪いことしたって思ってるんなら、一緒に謝ってあげてもいいよ? 怒ってたのは確かだし」
「だが断る」
「カチーン」
違う。これそういう常識であって、もう一回チャンスをください。
訓練され過ぎたのが仇になった! オタクめっ!
しかし時既に遅し。
若干ムッとした表情の内巻きさんが俺の直ぐ近くの席の男に目を振る。
「つかま……」
内巻きさんのセリフで立ち上がり掛けたゴツいクラスメートの
しまった! そんな気はないのに昔とった杵柄が!
くそっ! なんで平和にできないんだ世界!
つまり世界が悪い。俺は悪くない。
悔し涙を流しながらベランダを駆ける。俺はこんなに平和主義者だというのに、どうして?!
さて、ズラかろう。
教室を出る際の内巻きさんは呆然としていた。
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