9ー2


 弁当箱も無いので真実中身の無い鞄を携えての登校である。


 登校は早くもなく遅くもない時間帯だ。


 別に誰かさんにビビっているわけではない。


 大金(二千円)所持者として当然の行いである。


 臆病さを無くした者から散っていくのが戦場なんだ。


 陰キャにとって学校は戦場。陽キャにとったら捕食場。


 生徒の数も昨日ほどじゃない通学路を鞄を抱きかかえながら歩く。視線はキョロキョロ。まるで鞄に大事なものが入っているかのよう……。


 フェイクだ。


 野口様はちゃんと胸ポケットで温めている。かの秀吉公のように。それじゃのぶに取られるやん。無しで。


 ようやくゴールかと、やがて見えてきた校門に人だかり。


 なんだよまた高城がコンサートでもやってんのかよ武道館行けよこの野郎。


 そろそろと背景に溶け込むことモブの如くすり抜けようとしたが、完全パス制だったため断念。いつからクラブと化したの学校?


 教育の理念を問いたい。


 個別で調べられているため時間が掛かり人だかりが出来ているようだ。主導は教師。サポートは風紀と生徒会。


 やっているのは持ち物検査。


 ……なんだ、持ち検かよ。


 突発的に開かれる持ち物検査に優等生足る俺は動じない。なんならパンツに剥かれても構わない程に潔白。男女平等でお願い。


 この様子なら裏口に回っても同じ対応だろう。


 焦る一年を抜かして列の最後尾に回る。


 女人禁制の書物なんて神聖なる学舎まなびやに持ってくるからそうなるんだ! ……処分に困るのならどうにかしてもいいよ?


 その時は塀を飛び越える勇姿をお見せしよう。


 関所を突破できず、かといって書物も諦められない哀れな同士を置いて列を進む。


 校門前に長机を設置して、そこで鞄の中を改めているらしい。


「はい次」


 俺のターン


「へーい」


 鞄を場に置いてターンエンドだ!


 知らない先生だ。恐らくは三年の受け持ちなんじゃないかな?


 当然だが身体検査もされる。男子は男の女子は女の先生で。まあ簡単にポケットを叩いて中を調べ……いかん!


 気付いた時には遅かった。


 胸ポケットに到達したチェックが中の野口を取り出した。


「……なんでそのままなんだ。欧米風か? 財布は?」


「持ってません」


「そ、そうか」


 深く聞き返さずに先生は野口を胸ポケットに戻してくれた。いい先生だ。ここが異世界なら通行料(別口)として盗られていたに違いない。


「じゃ、低田くん、反省文」


 しかし鞄を調べていた知らない女性教諭に反省文用のレポートを突きつけられた。


「な、何故ですか?!」


 鞄には何も入ってないじゃないか! 納得の行く説明をして貰いたい!


 俺の憤りに頭が痛いとばかりに眉間を揉む女性教諭。


 大変だ。


 あなた疲れてるのよ? と肩を抱いて保健室へ連れて行ってあげるべきか……。同意が大事。訴えられた時に必要。


「あのね? 鞄の中に何もないってどういうことなの? 先生も長いこと持ち物検査してきたけど、こんな事は始めてだわ」


 そうなの? またまた〜。


「な、何も入ってないのか?」


 驚いたのは男性教諭。


「ええ、一切何も。教科書ノートどころか筆箱も無いです。流石に問題ありと判断せざるを得ません。先生は?」


「そうだな……流石にハイいいよとは言えんなあ。立場上、そういうのは取り締まらんと」


「持ち物の不備なので……没収などのペナルティはありませんが、そちらは?」


「単純に反省文を増やして対応しましょうか? もしくは期日を今日にするとか。休みに持ち越したくないでしょう」


「待ってください!」


 セットされるギロチンがなんでもないかのように会話する冷血漢どもに待ったを掛けた。異議あり! 異議しかない!


「持ち物検査は学校に不要な物を持ち込んでいないかの確認であるはず! 僕は持ち込んでいません! 無罪です!」


「うん。そうだな。お前が言った通り、ここは学校で、持ち物検査は学校に不要な物を没収している。当然だが『学校に必要な物』の貸し出しはしていない。『学校に必要な物』はどうしたんだ?」


「学校に常備してあります」


 違法じゃないですよね?


「そうか。結構。お前、学年と名前は?」


「二年の低田です」


 それを聞いた男性教諭が机の上に置いてあった紙束をパラパラと捲り始めた。


「低田、低田……。低田大洋……提出物の低さで問題になっている生徒の名前と偶然にも同じだ。奇遇だな。しかし……なんでこいつは提出物をやってこないんだろうか? もしかしたら学校に教科書などを常備して持ち帰らないことが関係しているのやも……」


「反省文、謹んでお受けします」


 ハハーッ、とばかりに頭を下げた。


 提出物を出すのはズルい。


 あの量を毎日持ち帰らされるよりかはマシと、俺は反省文用のレポート用紙を割増で受け取った。


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