7ー2
世界の何もかもが輝いて見える!
だから物理的に輝いて見える金髪をスルーして物陰に身を隠す。
どうやら通学路も同じみたいだ。
もしかしなくてもご近所さんだろうか?
いつもと違う時間の登校に、いつもは見ることのない顔を発見だ。そりゃそうだよね。
通学路に制服なんて見ようものなら『お前遅刻だぞ? ええの?』と思えるくらい珍しい時間に登校するのがいつも。
それが今日は沢山いるというのだから、金髪のニ、三人いてもおかしくはない。
いつの間にうちの学校はこんなに生徒数を増やしたんだろうか?
四月からだ。
知ってる。
物陰で
幸いにして先に発見したことで向こうはこちらに気付いていない。しかしなんだろう、この醸し出す犯罪臭は。いや、女子を意識するのが男子。なんら変ではない。
物陰に潜むご同輩にビクッとする人数が三人を越えたところで通学路に復帰。
金髪が視界から消えたので。
別に前の女子の後を付けている訳ではない。
なのでそんなにペースを上げなくてもいいと思うんだ、うん。
しかし、何故今まで金髪の存在に気付けなかったのか……。
正直凄い目立つ。
登校は時間帯が違うで納得できる。しかし学校内は……そもそも一年の下駄箱とニ、三年の下駄箱は違うし、教室のある階や移動範囲も違う。部活もやってなければ学食もあまり使わない俺からしたら、下級生と接する機会なんて本来はない。
なんだ、偶然か。
唯一気になるのは下校だけだが、女子高生の生息区域なんて分からんしなぁ。
スーパーは奇跡ってだけで。
屋上手前の物置部屋は鬼籍。
なんら関わることはない。
やだ安心。
それを証明するように校門、下駄箱、教室、となんのトラブルにも見舞われなかった。鬼のようにくるタケっちからのラインをブロックしたぐらい。なんだろね? ごめん、今暇じゃないんだ。
到着。
教室は生徒の到着率が半分といったところ。
皆何が楽しくてこんなに早く学校に来るのかな?
学食だ。分かっていた。
財布に厚みがあるだけで学校もまた違って見える。やあ、今日から僕もリア充さ!
そそくさと席で小さくなってスマホで暇つぶしのゲームを立ち上げる。
充実度はダントツだと思う。
上か下かは言わないでおく。
悪いことをしてのし上がっていくという『倫理感どうなの?』なゲームをしている内に教室が混み始めた。
充足率120パー。自分のクラスに帰れ。
机を椅子代わりに、または友人を椅子代わりにしていた面々も始業の時刻が近づくに連れ帰っていく。
文字で考えると凄いな。友人を椅子て。
正確には女子が座っている女子の膝の上に座り、後ろから抱きしめられて戯れるという目の保養なのだが、これを男子で想像した方はごめんなさい。
腐ってます。
スマホの画面を見るフリをしてバタバタと暴れる女子のスカートを凝視していた正常な俺も、先生が来るのでゲームを終了する。いや、悪いことするゲームだから。そういうゲームだから。仕方なかったんや。
今日は鳴った始業のチャイムにガタガタと席に付き始める生徒たち。
一時間目は移動教室なので誰も教科書を出していない。
そのうち先生がやってきて軽い出欠確認。そして移動になった。
今日の一時間目は化学。
化学室で実験だ。
両性元素の性質なんかより肉と調味料の黄金比を覚えたい昨今。
だってあんなの誰も結果を覚えてないよ。キャッキャッやってるだけで。
爆発物の合成実験とかやって欲しいと考えるのが非リア。
しかし今日の俺は違う! うん。いつもはそうなんだけど。
ぞろぞろタラタラと歩くクラスメートの最後方でも無双ぶっぱしたいなんて考えちゃいない。
昼に豪勢な食事が待っているから!
学校に食事だけを求めてる俺ってどうなんだろうというのはさておき。
希望があるだけで午前中を楽しく生きられるのは素晴らしいことだと思う!
午後からはリア充撲滅運動に参加します。
タイトなスケジュールを脳内で刻む俺に、化学室でガヤガヤと騒ぐ級友たちの喧騒が聞こえてきた。
騒々しいな? もうちょっと落ち着きたまえ。ふう、やれやれ。
同級生の幼さに寛容な笑みを浮かべていた俺の瞳に、化学室の中が映し出される。
中央の机の上に、見覚えのあるデカいダンボールがデンッ。
ふわああああああああああああああああああああああ?!
「ど、どうした低田!」
思わずローリングアクション。
咄嗟に死角を消すために教室の隅へと転がった。たまたま近くにいた鈴木くんが驚いている。気持ちは分かる。あのダンボールを見ればそうなるよね。
「ああ……なんでもないんだ。ただダンボールに驚いてしまってね」
「ダンボールに驚いただけで銃弾を避けるようなリアクションになるのか?」
「常識だね」
「?!」
パタパタとホコリをはたいて立ち上がる。どうやら高城さんの姿はない。ダンボールに注目が集まっていたので、こちらを注視する者も鈴木くんを除いていなかった。
いざとなったら鈴木くんには尊い犠牲になってもらおう。
念のため廊下を確認して扉を閉めた。
鍵も掛ける。
「なんで鍵掛けた?」
「やだな、防犯のためだよ」
「学校内だけど?!」
防犯意識の低い鈴木くんは置いておいて、カメラなどの録画装置がないか確認する。天井、四隅、本棚の中、全てオーケー。
隣室の扉も開いて中を確認。化学準備室。ここが一番怪しい。
爆心地と思われる机と煤まみれで倒れている瀬戸先生がいるだけだった。
問題なし。
「……なあ? なに探してんの?」
「なななな何も探してませんけど?」
「わざとか? わざとなのか?」
ついてきた鈴木くんも怪しい。そういえばこいつは高城派だったな。
隙をついて首をキュッとする。
「くぺぇ」
変な声を出してダランとなった鈴木くんを化学準備室に引っ張り込んで瀬戸先生の隣に捨て置く。ふう。
こうして見ると蜜月のようだ。黒焦げの瀬戸を除けば。
写真を一枚、気付いたらシャッターを切っていた。不可抗力だ。仕方ない。
化学準備室の扉を閉めて化学室に戻る。
クラスメートたちは箱を開けるかどうかの議論に入っている。先生が来るのを待つのは無駄だと思う。当分来ないんじゃないかなあ?
自席について一息……と、いきたいところだが……そこに置いてあるのだ、ダンボールが。
間違いない、あのダンボールだ。
よく似せた別のダンボールかとも思ったが、小さく薄く『ボッチ在中』と本人しか分からないようなところに書いてある。
物置部屋のだ。
バ、バレてるのか? ――いや待て! 結論を出すにはまだ早い!
あの、なんちゃら沢の住民並みに疑心暗鬼が深い毒婦のことだ、あの瞬間に居たかどうかも分からない犯人探しを疑い深くしてるだけかもしれない!
幸い机は教室の中央。目立つから置いただけの可能性が高い。
……だとしたらやはり誰かがこちらの反応を観察している気がするのだが?
ほんと隠れて見聞きするなんて最低だよ! 人の風上にも置けない!
しかしカメラはない。隣室に潜んでいるようにも見えない。
となると……。
ザワザワと騒ぐ級友たちをギラギラと見つめる。
この中に裏切り者が?!
まさかクラスメートを売る気なのか?! 信じられない! 苦楽も共にした仲間を売るなんて!
どうするかな……。最悪全員ヤッてしまえば解決するか? いや俺だけ生き残っているのは怪しい。その後の報復も怖い。ならスパイを見つけて始末するしか……。揺さぶるか? 待てよ……こちらのアクションを待っている可能性もあるな。
ここは自然体を維持して、こんなダンボール知りませんよという体でいくのがベターか……。
こちらの考えが纏まるのを待っていたかのように、一時間目の鐘が鳴った。
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