第31話 コンティニュー


頬に落ちる冷たい感触で意識が浮上する。

重い目を開けるとヒイロが泣いていた。

私は手を動かすとその涙をふいてあげる。

「さくらっ?!お前、無事なのか?!」

ヒイロは私が動いたことに驚いている。

安心させるように微笑んだ。

「泣かないで」

「な、泣いてなんかねーよ!」

ぐい、と涙を拭う。

私はヒイロの手を借りて立ち上がる。

魔王の体力はいまだに削れていない。

でも、女神様が力を貸してくれた。

魔を払う力が強化された今なら傷つけることだってできるはずだ。

この力は加護を与えた勇者全員に付与される。

私とヒイロは並び立つ。


「しぶとい聖女だ……!」


忌々しそうに話す魔王に私は剣を向ける。

「今度こそ、あんたを倒す!」

「おぉ!」

再び戦闘が始まる。

私は魔王の装備する鎧の隙間を狙った。

ガキィン!と甲高い音がして胸元を隠していた装甲の一部が外れる。

露出する魔石。

そこに炎を纏った剣が叩き込まれた。

「ぐぉおお!!!」

初めてダメージが通った。

「はぁああ!」

続けざまに攻撃を繰り出す。

パキンと魔石にヒビが入る。

苦しみだした魔王はめちゃくちゃに暴れ始めた。


ガォオオン!


咆哮が聞こえ上空を見ると成長したクルトがそこにいた。

クルトがいるということはアルトもいるということで、彼はクルトから飛び降りてくる。

「アルト!」

「無事だったか!」

「あぁ、間に合ってよかった」

そう言ってミスリルのナイフを構える。

クルトが魔王に噛み付き攻撃を仕掛けた。

そうして一瞬動きが止まった所をアルトが攻撃する。

コンビネーション抜群の動きだった。


二人(一人と一匹)が魔王から離れると途端に魔王の足許が凍りつく。


「僕もいますからね」

そう言って現れたのはユウトだった。

その後ろにはボロボロになったリンドも立っている。

「最後には間に合ったみたいだね」

「ユウト!リンド!」

全員無事だった。

そのことが嬉しかった。


ドォン!ドォン!


砲撃音と共に魔王に特大の魔法が着弾する。

その勢いに魔王が体勢を崩す。


「行け!勇者たち!」


シルヴァ王子と兵士たちだった。

その声に押されるように私とヒイロは魔王へ向かっていく。

同時にジャンプすると無防備になった胸元の魔石へと二人で剣を叩きこんだ。


パリィン!


甲高い音を立てて魔石が砕け散る。

「ぐ、ぉおおおおお!!!」

苦悶の表情で魔王が咆哮した。

しかしすぐに体は力を失いズズンと大地に倒れこんだ。


「……やった、の?」

「あぁ……やったな」


おおおおおおお!!

兵士たちが歓声を上げる。

私は思わずヒイロに抱き付いた。

「やった!!」

「おっと」

全員無事に魔王を討伐できた。

そのことが嬉しくて涙が出てくる。

「おいおい、泣くなよ」

「だって、だってぇ……」

よかった。本当によかった。

これでゲームクリアだ。

世界は平和になる。

私は世界を救えたのだ。


「皆の者に報告がある!ここに聖女と緋色の勇者の婚約を発表する!!」


「「へ?!」」

全軍に響き渡るように拡声魔法まで使ってシルヴァ王子が爆弾発言を落としてくれた。

驚いている私とヒイロをよそに兵士たちは盛り上がり歓声があがる。

聖女コールと勇者コールが始まった。

「あ、兄上……」

「おめでとうヒイロ。少々強引になってしまってすまないね」

「わ、私がヒイロの婚約者でいいんですか?」

「あぁ、前も言った通り。ヒイロが選んだ女性だからね」

「さくら!」

「え、きゃあ!」

喜び余った感じにヒイロに抱き付かれた。

大衆の面前で少し恥ずかしいが気持ちが嬉しかったのでそのままでいることにした。

「ヒイロ様、さくらさん。おめでとうございます!」

「おめでとう!」

「結婚式には呼んでもらえるのかな?」

「ユウト、アルト……ありがとうな」

「当たり前の事いわないでよリンド」

魔族だろうが勇者仲間なんだから呼ばないわけがない。

そう言えばリンドは嬉しそうに笑った。

「これから俺は、大将格のいなくなった魔王軍を纏めて魔族領を統治しなければならない」

「リンドがやるの?」

私が聞くとリンドは覚悟を決めた表情で頷いた。

「いくら裏切者だと罵られようと俺がやらなきゃいけないんだ。人間と、魔族の平和のために」

だから、と言葉を区切る。

「しばらくは魔族領に引きこもることになるわ。手紙を送るから返事くれよな」

そう言ってリンドは飛びあがる。

「ちゃんと返事書くからね!」

私の声が届いたのか手でヒラヒラと返事をしてからリンドは魔族領の方へ飛び去ってしまった。

それを見てヒイロが言った。


「さぁ、帰ろう!俺たちの国へ!」

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