第30話 魔王


皆に送り出されてついに敵の本陣にたどり着いた。

配置されていた雑魚モンスターを片づけると高みの見物を決め込んでいた魔王が動く。

魔王は巨大で浅黒い肌に牛の頭部、巨大な二本の角といったまるで悪魔のような見た目だった。

「忌々しい人間どもめ……」

重々しい足音を響かせて魔王が立ちあがる。

「喰い殺してくれる!」

「ただでやられると思うな!」

「聖女として、あなたをここで討ちます!」

ヒイロが言って斬りかかった。

私も後に続くように剣を振るう。

やはり魔王も強化魔法を施しているのか簡単に傷ついてはくれない。

っていうか弱点の胸元の魔石が防具で隠されていて攻撃が当てられなくなっている。

なんとか攻撃を通そうと剣を振るう手を止めない。

「くっ」

「重いっ」

魔王の腕の一振りが重く圧し掛かる。

二人で何とかしのいだ。

魔王への一撃が途方もなく感じた。

「うわっ!」

バシン!とヒイロが弾き飛ばされた。

体勢を崩したそこへ追撃が迫る。


「危ない!」


私は手を伸ばした。

防御は……間に合わない


ドスリと鈍い振動が体を貫く。


「がっは……」

口から大量の血があふれだした。

「さくら?!」

ヒイロの悲鳴が聞こえる。

ズルリと刺さっていた爪が抜けると足に力が入らなくてその場に倒れ込んだ。

すぐにヒイロに助け起こされる。

「さくら!なんで……!」

「ごほっ……体が、勝手に……」

動いていたんだからしょうがない。

大好きなヒイロをこんな所で失いたくなかったのだ。

まさかこんなに早く退場になるとは思ってもみなかったけど。

私はヒイロの手を握った。

「悪かった!もうしゃべるな!」

「ごめん……」

上半身にめいいっぱい力をいれて上体を起こす。

そのままヒイロの頬に手を添えて唇にキスをした。


「好きよ……お願い、魔王を、倒して」


そこまで言って私は力尽きる。

体が重い、動かせない。

どんどんと体の感覚が失われていく。

あぁこれが死ぬってことなんだなってわかった。

ポタリと頬に濡れるものがあった。

ヒイロが、泣いていた。

泣かないで、と言いたくてももう口は動かない。

まさか推しを泣かせる日がくるなんて……

悔しい思いが胸を占める。


しかしそこで私の意識はブラックアウトしたのだった。



********



「あぁ、辛い思いをさせてしまいましたね」

その声に意識を覚醒させると、いつか見た真っ白な部屋に私はいた。

目の前には以前と同じように女神アリステラが立っている。

「私は……死んだんですね」

私の言葉に女神は悲しそうに頷いた。

「ヒイロは、皆はどうなったんですか?」

それだけが今の私の心配ごとだった。

生きていて欲しい、その願いを知ってか女神は首を横に振る。

「今世界の時は止まっています。私が止めました」

「なぜそんなことを?」

「さくらさん。貴方には今二つの道があります」


一つは全てを忘れて元の世界に戻ること。

もう一つは元の世界の全てを捨てて #生き返る__コンティニュー__#すること。


「生き返るって、そんなこと可能なんですか?!」

その提案に私は飛びついた。

できることなら戻りたい。

戻ってヒイロに泣かないでと言いたい。

「さくらさんを元の世界へ帰すための力を使えば可能です。しかし一度それを行ってしまうと次に力がたまるのが数十年後になってしまうのです」

「つまりそれまで元の世界へは戻れなくなるって事ですか?」

私の言葉に女神は頷いた。

「元の世界……私の、家族……」

思い出すのは優しい両親の事。

きっと悲しませてしまうだろう。

「辛い選択をさせてしまって申し訳ありません」

そう言って女神が謝ってくる。

別に謝って欲しかったわけではないので顔の前で手を振った。

「全然大丈夫です!女神様のおかげで皆と出会えましたし、旅も楽しかったです」

「さくらさん……」

「なので女神様」

私は一度言葉を区切る。

決意を固めるように言った。



「コンティニューでお願いします!!」


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