第29話 四天王


再び戦い始めてから暫くが経過した。

明らかに魔族の攻めの手が緩んでいるのを感じる。

残りの四天王は二人。そして最後に魔王だ。

だいぶ敵の本陣に近づいてきた。


その時だった。


「そこまでだ人間」


「っ?!」

氷の魔法が私を狙って飛んできた。

危うく串刺しになりかけたところをユウトに手を引かれて難を逃れる。

そのまま私は背中を押されてヒイロの腕の中へ入った。

こんなところでまでドキドキポイント狙わなくていいのに!

「いきなり女性を狙うとは卑怯ですね」

ユウトがいつになくキレている。

「戦場において弱い女を狙うのは定石だろう?」

そう言った魔族の男はユウトと同じく杖を持っていた。

魔族の魔法使い……冷血のグラスだ。

「我が名はグラス。覚悟しろ人間ども。凍りづけにしてくれる!」

「へぇ奇遇ですねぇ。僕も氷魔法が得意なんですよ」

二人の周囲の魔力が渦を巻き始める。

バリバリ!と二人の間に氷の壁ができては壊れていく。

「すっげ、あのグラスと互角かよ」

そう言ったのはリンドだ。

「キレたユウトは普段の二倍強いからな……」

怒らせるんじゃねーぞ?とヒイロはリンドに釘をさす。

リンドはコクコクと頷いた。

「ヒイロ様、ここは僕に任せて先に行ってください」

「いいのか?」

「はい。問題ありません」

そう言ってユウトが杖を大きく振る。

すると私たちが横をすり抜けられるように氷の壁が出来た。

「させるか!」

「それは僕のセリフですよ!」

足止めをするようにユウトが杖で殴りかかる。

その間に私たちはユウトが作ってくれた道を通って先に進んだ。


「くっ、通してしまったか。まぁいい、奴らは戦神が倒すだろう」

そう言ってグラスはユウトの杖を弾いた。

「いけませんねぇ、僕の方に集中してくれないと……」

バキリバキリとグラスの足許が凍っている。

間一髪氷を砕いてグラスはその場を飛び退いた。

「一瞬で氷になっちゃいますよ?」

「くっ貴様本当に人間か?」

「えぇ、人間ですよ」

ただちょっと臆病で、少しキレやすいだけの人間です。とユウトは言って杖を構えるのだった。



********




「ねぇ、ユウトは大丈夫かな?」

「大丈夫だろ。キレたユウトの傍にいるほうが危険だ」

「え、ユウトってそんな扱いなの?」

そんな危険物みたいな扱いなのか。

私とリンドは心の中で思った。

「っと……!」

急にヒイロが立ち止まる。

何があったのかヒイロの前を見ると一人の男が立っている。

「っ!!」

隣にいたリンドが息を飲むのが聞こえた。


「人間に組みするとは何事か愚弟よ」


「え」

思ってもいなかった言葉に驚く。

隣を見ればリンドが拳を握って何かに耐えていた。

「こんな所にいたのか、ランド兄さん」

「リンド……」

まさか戦神のランドがリンドの兄だったなんて知らなかった。

ゲームでは語られなかった現実に私は驚いた。

だって、ゲームではこの後……

「否、もう貴様の兄ではない。貴様は我らの敵だ」

「っ!!あぁ、そうかい!じゃあ相手をしてもらおうじゃないか!」

二人は戦うのだ。

まさか兄弟で戦うことになるなんて思ってもみなかった。

リンドとランドはお互いに武器を構える。

「リンド!」

「大丈夫だ。俺だって魔族の英雄と呼ばれた男だよ」

「だがあいつはお前の……」

「向こうが敵だって言ってるんだ。気にしたら負けだよ!」

そう言ってリンドは斬りかかった。

それを危なげなく受け流すランド。

「そんな剣筋で我に敵うと思ったか!」

ガン!とリンドは腹に重み一撃を受け吹き飛ぶ。

思わず駆け寄ろうとした私の手をヒイロが引いて止める。

「ヒイロ……」

「大丈夫だ。信じろ」

その言葉の通り再び立ち上がったリンドは斬りこんでいく。

「王子!先に行ってて!」

「わかった!」

「ならぬ!!」

「させないよ!」

私たちの足を止めようと動くランドの前にリンドが飛び込んでその剣を受け止める。

鍔迫り合いをしている間に私たちは横を通り抜けた。

「リンド!勝ってよ!!」

私が叫ぶとリンドはニヤリと笑みを浮かべる。

「りょーかい!」

その答えを背に私たちは駆けていくのだった。



********



「皆……」

「今は魔王を倒すことを考えるんだ」

私が心配そうに呟くとヒイロが言った。

その言葉に頷く。

意図せずして二人きりになってしまったがこの先に待っているのは魔王だ。

ゲームの時は全員揃って挑んだ相手に二人きりで勝てるのだろうか。

とたんに不安になる。

ぎゅっとヒイロの手を握れば強い力で握り返される。

「大丈夫だ。俺がいる」

「ヒイロ……」


その言葉の通り大丈夫だと信じて私たちは進む。

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