第28話 行軍
魔族領と人間領の境で戦争は始まった。
最初は歩兵の削り合いから始まり、次に突撃隊が敵陣を割っていく。
全軍の指揮はシルヴァ王子が取っている。
私たちは魔王戦用の遊撃隊として戦場を横断する役割を与えられた。
「魔王軍と戦うのにおいて注意しなければならないのは四天王の存在だ」
そう教えてくれたのはリンドだ。
四天王はゲームの時もいたけれどイベント戦闘だったのでしっかりと倒したことが無い。
破壊のオルフェ。
妖艶のベラーナ。
冷血のグラス。
戦神のランド。
この四人だ。
出現順はこの通りで強さは同じくらいだった気がする。
まずはこの四人を探す所から始まりだ。
しかし最初の一人はあっさりと見つかった。
前線に出てきていたのだ。
「はっはっは!ワシは破壊のオルフェ!人間どもよ踏みつぶしてくれるわ!」
そう言ったのは巨人族の大男だった。
ただでさえ巨大な巨人族をさらに一回り大きくしたような魔族が破壊のオルフェである。
通常攻撃も魔法攻撃も弱点である額に隠された魔石に届かないので倒す方法はただ一つ、ごり押しだ。
「くっそ、デカいな」
「まるでゴーレムのようです」
中々攻撃が通らないのでヒイロが悪態をつく。
それもそのはず、オルフェは足元に強化魔法をつかっているためダメージが通りにくいのだ。
こちらに疲労ばかりがたまる嫌な相手である。
ドォン!ドォン!
轟音を立てて何かがオルフェにぶつかる。
その勢いにオルフェは一歩後退した。
「ヒイロ!」
「兄上!」
なぜか後方で指揮を取っているはずのシルヴァ王子がやってくる。
彼は剣を抜くと兵士に指示を出した。
「かかれ!」
うぉおお!と雄叫びを上げてオルフェに向かっていく兵士たち。
再び轟音がしてオルフェの顔面に魔法が命中した。
それを横目にシルヴァ王子はヒイロを見る。
「あれは魔導砲だ。こいつの相手は僕たちがする」
「しかし!」
「命令だ。行け!」
「くっ……!行くぞ!」
悔しそうにヒイロは私たちに号令をだす。
確かに悔しいけどここは王子たちに任せた方がいいと感じた私たちは素直にその命令に従った。
再び戦場の中を敵の本陣目指して斬り進む。
「さくら、大丈夫か?」
「うん、まだいけるよ!」
休みの日に訓練を受けていたおかげでまだついていけている。
しかし全員細かい傷は負っていて、回復役がいないのが悔やまれた。
その時、私たちの周囲にいた魔族が魔法で吹き飛んだ。
ハッとして魔法が飛んできた方を見ると杖を掲げた賢者セレスがそこにいた。
「セレスさん!」
「数日振りじゃのう。戦があると聞いて飛んできたのじゃ」
そう言ってセレスは水球を召喚し放り投げる。
乱戦の中に投げ込まれたそれは魔族を飲み込んで弾けた。
「さすが前大戦の英雄だな」
「恥ずかしいことを言うでないわ。ほれ、活路はワシが開いてやろう」
パン!とセレスが手を叩くと火、水、風、地の魔法が同時に発動する。
それは極大のフィールド魔法となって周囲一帯の魔族を一掃してみせた。
「さぁ行け、次代の英雄たちよ!」
「あ、ありがとうございます!」
「感謝する」
お礼を言って私たちは敵の本陣に向かって走っていく。
暫く走ると行く手を遮る様に魔法が放たれた。
足を止める私たちの前に一人の魔族が立ちはだかった。
「わらわは妖艶のベラーナ!これ以上先には行かせんぞ!」
「まずいな、ベラーナは幻惑と毒のスペシャリストだ」
そう言ったリンドの言葉を聞いてアルトが動いた。
ベラーナにミスリルのナイフを向ける。
「ベラーナと言ったな。貴様、エルフの里を知っているか?」
「ほほほ、その髪色はエルフの里の者じゃな?魔王様に従わぬ者どもよ。わらわの毒のプレゼントはお気に召したかのぅ?」
「やはり貴様か……!」
どうやらエルフの聖地に毒を使ったのはベラーナ本人かもしくはその部下だったようだ。
聖地を穢された怒りが再びアルトに蘇ってくる。
「すまないがあいつの相手は私にさせてくれ」
「ひ、一人じゃ危険ですよ!」
ユウトが引き留めるがアルトはその手を弾いた。
「アルト……」
心配そうに見つめると困ったような表情で私を見る。
「大丈夫だ。俺に幻惑魔法は通用しない。時間を無駄にしたくない、先に行ってくれ」
「そんな!」
「……行こう」
「ヒイロ様?!」
「行くんだ!」
そう言ってヒイロは私の手を引いて走りだす。
リンドとユウトも渋々といった感じでついてくる。
「行かせぬと言ったであろう!」
ベラーナの爪攻撃がこちらに向かってきた。
それをアルトがミスリルのナイフで弾く。
肩に乗っていたクルトが威嚇するように鳴いた。
肩から空に飛びあがったクルトは今まで聞いた事ないような鳴き声で鳴く。
すると一瞬の光が辺りを包み次の瞬間には巨大なドラゴンがそこにいた。
「し、進化した?!」
「すごいな……」
クルトはアルトの隣に足をつけるとベラーナと対峙するように立った。
グルルルァ!と勇ましい鳴き声が響き渡る。
「二対一ならなんとか……」
「あぁ」
きっと大丈夫だ。
そう信じて私たちは先へ進むのだった。
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