第27話 白銀の王子


城に戻ってきて二日目、とてもいい天気だったので私は城内を散歩をしていた。

以前にも来た事がある図書室、そこで出会ったのはシルヴァ王子だった。

「やぁ聖女様、君も何か読みにきたのかい?」

「私はさくらといいます。その、城内を探検しているところです」

「ふふ、さくら殿か。いい名前だね」

「あ、ありがとうございます?」

「よければ僕が城内を案内しようか?」

「え?!いえ、大丈夫です!」

「そんな遠慮しなくてもいいのに」

そう言ってシルヴァ王子は笑う。

いや第一王子、もとい未来の王様に案内なんてさせられないって。

「じゃあ少しの間だけ話相手になってよ」

「あ、はい」

シルヴァ王子に勧められて図書室の隣の部屋に移動してそこの椅子に座る。

メイドさんが紅茶を入れてくれて部屋を出て行った。

「さぁどうぞ」

ニコニコとお菓子を勧めてくる。

私は観念して紅茶に手を伸ばした。

「ところでさくら殿はヒイロとどこまで行ったんだい?」

「っ?!」

危うく口に含んだ紅茶を吹きだす所だった。

なんていう聞き方をしてくるんだ。

相変わらずシルヴァ王子はニコニコしている。

「あ、あの……」

「あぁ大丈夫だよ。父上はまだ気付いていないみたいだから」

その心配はしていない。

いずれは王様にもご報告しなければならない事だからだ。

「いえ、そうではなくて……私とヒイロは付き合ってませんよ」

「え、そうなの?」

意外そうに言われたので頷いた。

「へー、ヒイロの事だからもう手を出してると思ったんだけど……」

「そんな軽く言わないでくださいよ」

まるでヒイロがすぐに手を出すような人みたいじゃないか。

「でもさくら殿はヒイロの事好きでしょ?」

「う……はい」

「じゃあ告白は?したの?されたの?」

なんでこの王子は乙女みたいにグイグイ来るかな?!

「さ、されましたけど」

「けど?」

「ヒイロは魔王討伐まで返事を待ってくれるって……」

「そうなの?」

「はい」

矢継ぎ早に質問されて思わず全部答えてしまった。

すまんヒイロ、私にこの王子の相手は難しい。

「僕は君が義妹になるなら大歓迎だよ」

「え、なぜ?」

当初はエリザが義妹になっていたはずで私はその空席に入りこんだどこの馬の骨ともしれない聖女だ。

「だって、ヒイロが選んだ女の子だもん」

「えぇ、それでいいんですか?」

「うん。ヒイロは僕とは違うから、好きな女の子と一緒になってほしいんだ」

「え」

シルヴァ王子とヒイロ、何が違うんだろう。

不思議に思っているとドアがノックされた。

王子が返事をすると綺麗な女の人が入ってくる。

「失礼いたします。王子、こんなところにいらっしゃったのですね」

「あぁ、もうそんな時間だったか。探させちゃってごめんよ」

「いいのです。いつものことですから」

美しい人はいつもの事なのか王子と談笑をし始めた。

「あら、そちらのお方は?」

そう言って視線が私の方に向く。

「こちらは聖女さくら殿だ」

私のかわりにシルヴァ王子が答えてくれる。

「まぁあなたが噂の聖女様ね」

「は、初めまして」

「あらあら、そんなに固くならないで。私はキャロライン・カリーナ。キャロと呼んでくださいな」

キャロライン、キャロさんは王子に呼ばれてその隣に座った。

「キャロは僕の婚約者なんだ」

「へー、え?!婚約者?!」

私が驚くとキャロさんはフフフと笑う。

確かに美男美女でお似合いだ。

「かれこれ十年のお付き合いになりますわ」

「そうなんですか?」

「あぁ、キャロとは幼馴染でね。いつの間にか婚約者になってたんだ」

「まぁいつの間にかとは酷いですわ。私は嬉しかったのに、王子はそうではないのですか?」

「いや、僕も嬉しかったよ」

「もう、王子は意地悪ですわ」

いやなんだ、眼の前でイチャイチャしだされて困惑する。

でもそうか、第一王子なんだから普通は婚約者がいるか。

隠し攻略キャラだからもしプレイしていたらキャロさんの事も出てきたかもしれないな。

私はプレイできなかったことをちょっと悔やんだ。

「さくらさん、さくらさんはヒイロ様の事をお好きなの?」

「へ?!」

「キャロ、その質問は僕がしたよ。両想いだそうだ」

「あらあら!じゃあさくらさんが義妹になるのですね」

「そ、そうなるんですかね」

こうも義妹連呼されると本当にそれでいいのか疑問に思ってしまう。

私は本当にヒイロに、第二王子に相応しい女性になれているのか。

教養はエリザがカバーしてくれているからなんとかなっている気がするが、王族に名を連ねるには覚悟がまだ足りない気がする。

急に不安になってきた。

「ほら、あんまり考えこまないで」

「そうですわ。考えすぎても良い事なんて無いんですのよ」

「あ、はい」

二人に言われて思考をストップさせる。

「第二王子の嫁なんてもっと簡単に考えてくれていいよ」

「えぇ、何かあれば私もサポートいたします。安心してくださいな」

「あ、ありがとうございます」

本当に全面的に歓迎されているみたいだ。

なぜだろう?

聖女だからだろうか。

「王子、そろそろお時間ですわ」

「そうか。さくら殿、引き留めてしまってすまないが公務の時間なんだ」

そう言って王子とキャロさんは席を立つ。

王子は挨拶もそこそこに急ぎ足で部屋を出て行く。

「こんどもっとゆっくりお話しましょう?」

「はい」

キャロさんは微笑んで、ゆっくりと王子の後を追って部屋を出て行った。

理想のカップルってあんな風の事を言うのかな。


「シルヴァ王子の好感度が60%に上昇しました!」

いや今は聞いてないって。


私は城内の探検を再開するのだった。



********



しばらくすると手持ち無沙汰にしているリンドを見つけた。

「リンド」

「あぁ、さくら……」

「どうしたの?」

どこか落ち着かなそうにしている。

「人間の城ってなんか綺麗で落ち着かないんだ」

「ふふ、そうなんだ」

二人並んで歩き出す。

「あ、笑うなよ」

「ごめんごめん……そうだ、聞きたい事あったんだけど」

「なに?」

「前に言っていた。手遅れになる前にってどう言う意味だったの?」

「あーあれな」

私が言うとリンドは答える。

「魔王が力を蓄えてるんだよ」

「魔王が?」

「あぁ、人間に復讐するためにな……それに対抗出来なくなる前に勇者を集めて欲しかったんだ。まさか自分が勇者だとは思わなかったけどね」

そう言ってリンドは笑う。

「そっか、じゃあ間に合ったってことでいいのかな?」

「多分ね」

「多分って何よー」

「だって俺結構魔族領に帰ってないから現状どんなもんか分かってないんだ」

困ったように頰をかいた。

「なるほどね」

「……いよいよだな」

「そうだね」

もうすぐ戦いが始まる。


私たちは遠くの空を見上げるのだった。

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