第26話 宣戦布告


翌日、再びヒイロの部屋に皆で集まった。

私は昨日の事もあってヒイロの顔を直視できないでいる。

が当のヒイロは気にした様子もない。

ちょっと不公平だ。


「じゃあ全員一致でいいな?」

「はい」

「そうだな」

「あぁ」

そうして決定したのは一度城に戻るということだった。

リンドの問題は擬態を続けてもらい王様にだけ本当の事を言うことにする。

「じゃあ荷物を纏めて宿屋の前に集合な」

「了解です」

「あ、さくらはちょっと残ってくれ」

「え、うん」

皆がぞろぞろと部屋を出て行く中私は残された。

気まずい気持ちで待っているとヒイロが

「昨日の事、気にしないでくれというのが難しいのは分かっている。しかし今は魔王討伐のことだけ考えてくれればいい」

「……ヒイロはそれでいいの?」

「あぁ」

「わかった。気にしないようにする」

頑張って気にしないようにしよう。

じゃないとヒイロも気が散ってしまうかもしれないから。

そう言って私は部屋を後にした。


少ない荷物を纏めて宿屋の前に行くとすでに皆準備を終えて馬車で待っていた。

「ごめん待たせた!」

「大丈夫ですよ」

「あぁそんなに待ってない」

「じゃあ行きますよー」

ユウトの号令で馬車が動きだす。

こうして私たちはローランドの街を後にするのだった。



********



来た時と同じように一日とかからず王都レガリアに戻ってくる。

慣れたものですぐに王様と謁見ができた。


「よくぞ戻った」

「ハッ」

「して、その方が勇者か?」

王様の視線がリンドに向く。

「はい、リンドと申します」

「陛下、リンドは魔族なのです」

ヒイロが言うと謁見の間がどよめく。


「なんと、魔族を城に入れたのか!」

「王子、なんということを……!」

「もしや魔族に惑わされているのでは?」


なんて声が聞こえる。

分かっている。これが普通の反応なんだってわかっているけど私は言わずにはいれなかった。


「この人は選ばれた勇者です!そのような言葉、謹んでください!!」


「そうだぞ。魔族だからと言って、言って良い事と悪い事がある。皆の者控えよ」

私の言葉より王様の言葉に皆静かになる。

どうやら王様は私よりの考えの持ち主のようだ。

「して、リンドとやら」

「……ハッ」

「おぬしは以前我が国に魔王の情報を与えた者だな?」

王様の言葉にリンドは静かに頷いた。

「……よかろう。おぬしは信用できると私が認めた。勇者としての務めを果たすと良い」

「陛下!よろしいのですか?」

「よい、良いのだ。私の権限で城内で自由に行動することを許可する」

大臣の言葉を一蹴して王様は言った。

「ありがとう、ございます」

あっさり認められたことに戸惑いながらもリンドはお礼を言う。

「さて、こうして四人の勇者が揃ったということは魔王を討伐しに行くのだな?」

「はい、そのつもりです」

「よかろう。では全軍をもって事にあたる」

「陛下、それは!」

ユウトの言葉に陛下は頷いた。


「魔王に宣戦布告を行う!」



********



とうとう戦争という事態になってしまった。

魔族を戦わせたくないリンドは複雑そうな表情でいる。

「リンド、大丈夫か?」

「あぁ、覚悟していたことだ」

気遣ったヒイロの言葉にそう答える。

しかし顔色はあまりよろしくない。

「部屋で休んだらどうだ?」

「……そう、させてもらうよ」

そう言って部屋に向かうリンドにユウトが付き添った。

「さて、俺たちも一度部屋で休むか」

「そうだね」


「ヒイロ様ぁ、さくらさん!」

「げっ」

「エリザ!」

私たちが戻ったのを聞いたのかエリザがやってくる。

「アルトさんもおかえりなさいませ」

「あぁ、クルトも元気そうだな」

「えぇ、ご飯も一杯食べますのよ」

そうなのだ。今回寒い地方に行くということでクルトはエリザと共に留守番をしていたのだ。

当のクルトはエリザの肩の上で気持ちよさそうにしている。

「ほら、クルト。アルトさんよ」

エリザがそう言うと仕方ないな、と言った感じでアルトの肩に飛び乗った。

「お前……太ったな」

アルトの言葉に怒ったようにキュイキュイ鳴く。

「あらあら」

その様子に私たちは笑った。


「ではヒイロ様、さくらさんをお借りしていきますわね」

「え」

「あぁ、分かった」

ガシ、とエリザに腕を掴まれて逃げられないようにされた。

そしてヒイロはあっさりと私を見捨てる。

おのれ他人事だと思って!

「さ、参りますわよ!」

「ちょ、自分で歩けるからぁー!」

割と怪力なエリザにずるずると引きずられていくのだった。



********



「で、何がありましたの?」

「へ?」

私に与えられた客室に入るとエリザが言った。

「へ?じゃありませんわ。ヒイロ様と何がありましたの?」

「何がって、そんなに変だった?」

特になにかをうかがわせるような態度を取っていたつもりはなかったのだが。

「ヒイロ様があなたを見る目が依然と全く違いましてよ」

ヒイロのせいか!

「え、っと……」

恥ずかしさに思わず俯く。

「まさか」

「告白、されました」

「まぁ!本当ですの?」

私は答えるのが恥ずかしくて頷く。

「おめでとうございます!」

「あ、ありがと……」

私の両手を掴んでエリザは祝福してくれる。

「返事はされたのですか?」

「まだ……すぐに答えなくていいって言われて」

「まぁ、そうなんですの。でも答えは決まっているのでしょう?」

その言葉に再び頷く。

「ならば、教養を仕上げなければなりませんわね!」

「うぇ」

エリザにスイッチが入ってしまった。

「その、今日くらいは休むなんてことは……」

「ダメですわ!」

「ですよねー!」


こうして私の一日はレッスンによって消え去ったのである。

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